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高齢化する雪踏み世代と除雪ありき世代のまちづくり

クレームや、要望という名の不満があふれてしまうのは自力で対応できないことに対する「不安」は確かに心理的理由ではあるが、ここでは今まで見てきた札幌市の「除雪の歩み」を前提に他の理由について考えてみたい。

札幌市のみならず、雪国で雪かきをするのはご高齢者の姿が多い。在宅していて、降雪のたびにすぐ対応できるし、明るく目につく日中の内に除雪をするのは、やはり在宅しているご高齢の方々で、働き盛りの世代は週末にまとめて取り組むか、朝夕の短時間にやりくりしているのだろう…。雪かきをすればおのずと体力増進にもなり、ご高齢の方々にも良さそうだ。日々をただ漫然と生きていると、そう納得してあまり深く考えないことかもしれない。

ここに、在宅高齢者の年代別除雪の実施状況を調べた研究がある(板倉恵美子編2014『積雪寒冷地における高齢者の居場所づくり』株ワールドプランニング)。60歳代、70歳代、80歳代の3世代を男女に分けて除雪実施状況をヒヤリングしたものだが、やはり男性が圧倒的に「降雪のたびに除雪しする」と回答している。この研究に基づくと、除雪は運動強度が非常に高く、体力と体格の優位さがそのまま作業効率に現れるそうだ。だからこそ、どちらかというと体格的に優位な男性が担う役割、となっていることが伺える。また、除雪を「降雪のたびにする」と回答した男性は70代で88%居たのに対し、80代で73%、と15ポイントも落ち込んでいる。これも齢と共に明らかに体力が落ち、取り組むことが困難な作業だからだろう。

こうしてみると、「除雪」が決してご高齢の方々にふさわしい運動であるとは言えない。特に心臓疾患のある方にはかなり厳しい作業だ。だからこそ、行政は「雪かき」を政策として進めてきたともいえる。

ここで注目したいのは、除雪を「降雪のたびにする」と回答した60代の男性である。実は、80%と70代よりも少ない。60代ならまだ会社勤めしている人もいるだろうから、そのせいでポイントが下回っている可能性がある。しかしながら70代、80代の男性と比較して「必要が無いのでしない」と回答している割合が高く、逆に「体力的に無理なのでしない」と回答している人は0%だ。つまり、体力はあるが除雪をしていない人が一定の割合でいる。参照した資料には、あらかじめ札幌のマンション暮らしの人が少ない旨は注釈がある。そう考えると、60代の方は業者サービスに頼んで「除雪をしてもらっている」方が一定数いる、とは考えられないだろうか?

1972年にオリンピックが開催され町が整備されて半世紀。生活道路の除雪が始まって44年。現在60歳の人が物心がついたときにはすでに機械除雪が街のスタンダードにいなっていたはずである。現在の70代、80歳代の方々に比べれば、雪が降りだしたときに感じる「雪かきしなきゃ!」という焦燥感はだいぶ薄いのではないかと仮定できる。

近年、玄関先に排雪・除雪業者の旗を立てている住宅をよく見かけはしないだろうか?進む高齢化社会とともに、体力に自信がなくなったご高齢世帯が増加し、パートナーシップ排雪制度*、業者サービスを依頼していることは推測できるが、それだけではなく、「業者利用」のハードルが下がっているのかもしれない。「雪かきは自分で」という雪踏み世代が運動強度の高い除雪作業に限界を感じて機械除雪を依頼する一方で、現在60歳代以下の除雪ありき世代は除雪を依頼することに躊躇が無いのではなかろうか。つまり、「除雪需要」は倍速で増加していると言える。前図にあったように、札幌市が除雪する管理道路が年々増える一方であることも考えると、除雪需要フィーバーは確約できる未来のひとつである。

しかし、「需要」と「供給」はバランスが取れていないとうまく回らないのも事実だ。欲しいばかりで与えられないとやせ細り、もういらないのに与えられ続けると鈍って病気になってしまう。除雪については前者の未来が明確に見えている。

*パートナーシップ排雪制度:地域町内会などで合意の上排雪を市に要請し、受託業者が日程調整などをして排雪作業を請け負う制度。道幅10m未満だと市だけでなく地域にも支払い負担が発生する。




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