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インフラ=社会基盤のハードとソフト

 札幌市が中長期的な計画を立てて除雪行政に尽力してきたことは雪さっぽろ21計画に始まり、現在の冬のみちづくりプランに至るまで、その報告を見れば明らかである。そして、現在何が求められているか、ということを吟味すると、市民・企業の理解、参加、協働をより活発に、と言うところだろう。そういわれると、性格が曲がっている私のような記者などは、まるで市民・企業が無理解、無関心、非協力的みたいに評価されている気がしてあまり気持ちの良いものではない。「税金払ってるのに更に労力も提供しろってのかよ!」と言いたくなる人がいるだろうな、とも思ってしまう。…ただ、行政側の言い分はそこが真意ではないことは明らかだ。今回、札幌市の建設局雪対策室計画課を訪ねて様々な資料をご提供いただき、丁寧に取材にも対応していただいた。そこで見えてきたのは、業務として担当している除雪行政を執行することはやって当たり前、という大前提の下、現在も様々な新たな取り組み、試行が行われていること、除雪水準についても昨今の社会情勢を鑑みて変更、調整を実施していますよ、という姿勢。そしてそれらに関わる広報・啓発に関する発信をしているので、市民の皆さんには是非自分ごととして感じ受け取ってください、という姿勢である。

 ここで私たち市民が一つ注意しなくてはならないのは、「行政にどのように参加するか」という点である。40年前に様々な基準、水準を確立させ、拡充・充実させてきた時代には目の前の課題解決のため、やるべきことが明らかだったので、納税し、しいて言えば選挙によって意見を届けることで行政を監視する、と言うのが行政への参加だったかもしれない。しかしながら、道路、除雪センター、除雪車、融雪、排雪システムなどのハード面が整備され、ある程度の完成期を迎え「維持」の時代に入った我々に必要な参加の仕方は全く違う姿勢を要することになる。
 設備の老朽化、財源の枯渇、人材の不足、気象変動の激しさ、環境保全への配慮、などなど、どの課題も同様に重要で優先順位がつけられないばかりか、相互に関わり合い、絡み合っている事柄なので明快に解決できることではない。したがって、「みんなで情報を共有し、課題認識し、考え、悩みながらトライ&エラーで実績を評価し、優先順位を議論する」という場が求められている。いうなれば選挙の手前の段階だ。問題を多面的に捉え、各々の立場から意見、主張を形作っていくためのプロセスに居るといえよう。
 上述の「市民・企業の理解、参加、協働をより活発に」という要請はその段階の話であって、すぐさま行政の指示に従え、とか、労働力を提供しろ、とか、そういう次元ではないのである。

 「みんなで考える」「話し合う」…このことこそ、社会を形成するための最も重要なインフラストラクチャ―(社会基盤/社会資源)を形成する源なのではないだろうか。ここ10年程、札幌市では地域学習の一環として、小学校四年生になると5時限を冬の暮らしの学びに割いている。現在20歳の若者は、そうしたことを考える訓練を積んだ人材である、と言うわけだ。街がどういう風に成り立っているのか、どんな仕事がどのように社会を支えているのか、表に見えない部分で様々な関係性と仕組みがうごめいている多層的な世界を、子どものうちから感じ得ているのかもしれない。
税金を活用したハードインフラ、と言う目に見えやすい道路網や融雪設備、除雪機械の導入などをメインに享受してきた世代こそ、今一度そういったプロセス変化の事実に目を向け、柔軟なシステムの構築、運用のノウハウ、技術、人材育成と言ったソフト面のインフラへの参加に軸足を移さねばならないのではないだろうか。

雪対策室が提供する様々な資料、広報など

 現在、雪対策室が取り組んでいることの一例として、たとえば、踏み固め除雪の試行、圧雪路面の削り整正作業の計画化などがある。これは昨今増えているドカ雪への対応もあるが、事前に取り決めておくことでいざというときに少ないマンパワーでも効率的に回せるための準備、と言ったところだろう。また、高齢化する住民事情を鑑みて、今まで夜間の掻き分け除雪で寄せられた雪はその地域、家で処理しなくてはならなかったところを、実験的に出入り口部分の整正作業も行われている。排雪についても、パートナーシップ排雪から簡易排雪へと、大枠で見ると「共助」から「公助」へのシフトが大きく感じる面もある。しかしながら、作業時間を夜間から昼間へ移行したり、出動のための降雪水準を10センチから20センチにしたりすることで、作業の効率化、従事者の労働環境改善も図れるように微に入り細に入りバランスをとりながらなんとかメリットとデメリットを擦り合わせながら試行し、データを取っている、と言う状況だ。
 試行している地域はまだまだ札幌市のごく一部で、それら自治会には事前に回覧が回っていたり、説明会が開かれていたりする。税金の運用と言うのも、みんなでこうして参加し、作り上げていくものなのだな、ということを取材してはじめて実感することが出来た。

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