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Azure AI Foundry Labsの紹介: Microsoftでの最新AI研究と実験のハブ
AI + machine learning Blog が良かったのでまとめてみた。
The Future Of AI: Deconstructing Contoso Chat - Learning GenAIOps in practice
🚀この記事のポイント
Azure AI Foundry Labs は、Microsoftでの最新AI研究を開発者や企業が実際のアプリケーションに活かすための新たなハブ
新たに登場した Muse (WHAM) をはじめ、最先端の研究成果が Azure AI Foundry で一般公開されている
Aurora や ExACT, Magentic-One, MatterSim, OmniParser v2, TamGen など、研究に基づく多彩なプロジェクトが提供されている
AI技術の進化は従来の数年単位から数カ月・数週間単位へと劇的に加速している
Azure AI Foundry Labs は研究とエンジニアリングの連携を深め、開発者が最先端のAIテクノロジーを試しながら市場投入を短縮できる場を提供している
研究所から生まれたイノベーションが実世界にインパクトを与えるまでのギャップを埋めることを目指している
本日、開発者、スタートアップ、企業がMicrosoftの研究から生まれた画期的なイノベーションを探求できる拠点として、Azure AI Foundry Labsをローンチする。Foundry Labsは最先端の研究を実世界のアプリケーションと結びつけ、あらゆる業界の開発者やクリエイターが新たな可能性を発見し、複雑な問題を解決し、AIの未来を形作るための知見を共有できる場を提供する。
Microsoftの最新のAIブレークスルーであるMuseは、WHAM (World and Human Action Model) と呼ばれる初めてのモデルで、Azure AI Foundry上で本日利用可能になる。これは、研究から得られた最先端のイノベーションを顧客が利用できるよう、AIプラットフォームに組み込んだ最新の事例となる。
Azure AI Foundry Labsを通じて、研究主導のプロジェクトを活用した新たなアセットを公開し、開発者が探索・参加・実験できるようにすることを楽しみにしている。モデルからエージェントフレームワークまで、以下のようなプロジェクトが含まれる。
プロジェクト一覧 (2/22時点)
Muse:
ゲームのビジュアルと操作アクションを自動生成する、Microsoft Research と Ninja Theory が共同開発した生成系 AI モデル。
BioEmu-1:
単一 GPU で多数のタンパク質構造を高速生成し、さまざまなコンフォメーションを解析できるディープラーニングモデル。
Aurora:
極端な気象イベントを高精度かつ高速に予測できる大規模基盤モデルで、広範な気象データを学習し運用。
OmniParser V2:
UI スクリーンショットを構造化要素に変換し、自動操作を可能にする先進的な画面解析モジュール。
Magentic-One:
複数の専門エージェントを統括するオーケストレーターにより、Web やファイルベースのタスクを多段階で自動化する汎用マルチエージェント システム。
ExACT:
AI エージェントに高度な探索能力を付与し、最適な意思決定と計画戦略を導くためのアプローチ。
MatterSim:
幅広い要素・温度・圧力条件で素材のシミュレーションと物性予測を行い、Silico での素材設計を可能にするディープラーニングモデル。
TamGen:
トランスフォーマーベースの化学言語モデルで、ターゲット特有の薬物を設計・最適化し、新規化合物の発見を促進する。
プロジェクト詳細一覧 (2/22時点)
BioEmu-1
概要
BioEmu-1 は、単一の GPU 上で 1 時間あたり数千ものタンパク質構造を生成可能なディープラーニングモデル。
古典的な分子動力学 (MD) シミュレーションに比べ、桁違いの計算効率を実現。
背景と目的
タンパク質は筋繊維の形成や免疫機能など、生命活動に欠かせない役割を担う。
アミノ酸配列からの構造予測だけではなく、多様な構造(構造アンサンブル)を捉えることが必要。
BioEmu-1 は、タンパク質が実際に取りうるさまざまな構造を予測・生成し、タンパク質の機能理解を深める。
特徴的な機能
大規模ドメイン運動: 開閉、回転、再パッキングなどの大きな構造変化を再現。
局所的な変化: タンパク質の一部が部分的に解離・変形する様子を捉える。
潜在的な結合ポケットの発現: 通常状態(apo 形態)では見えない結合部位の形成を予測。
応用と意義
タンパク質の多様なコンフォメーション理解が進むことで、新薬設計や創薬研究に活用可能。
機能性や毒性の制御につながり、医薬品開発の効率化が期待される。
公開・利用
研究目的で公開され、ユーザーは自由に学習や探索、実験を行える。
シミュレーションベースの解析との併用により、新たな生物学的知見の創出が見込まれる。
Muse
概要
Muse は Microsoft Research と Ninja Theory が共同開発した “WHAM (World and Human Action Model)” と呼ばれる生成系 AI モデル
ゲームのビジュアルやコントローラー操作といったアクションを生成可能
学習データ
『Bleeding Edge』というゲームの 7 年分相当の人間のプレイデータを使用
10 億以上の画像とコントローラー入力を学習
特徴
研究目的でリリースされ、ユーザーは学習・探索・実験が可能
スクリーンショットを取り込み、次の展開を複数生成したり、入力やゲーム要素を変更して結果を試せる
意義
クリエイターのアイデア出しや試行錯誤を AI が支援する可能性を示唆
将来的にはゲーム制作のプロセスにおける反復やブレインストーミングを強化するツールとして期待される
Aurora
概要
Aurora は大規模な気象基盤モデルで、極端な気象イベントの予測・影響緩和を強化する目的で開発
研究目的でリリースされ、ユーザーは学習・探索・実験が可能
高い予測性能と計算効率
100 万時間以上の気象データ・シミュレーションを学習しており、0.1 度(約 11 km)の空間解像度で高い精度を実現
従来の数値気象予測システムと比べ、約 5,000 倍の推定計算速度を達成
多様な変数への対応
温度、風速、大気汚染レベルなど、さまざまな気象・大気データを予測可能
柔軟な 3D Swin Transformer アーキテクチャを採用し、Predictr ベースのエンコーダー/デコーダーで複数解像度に対応
強力な事前トレーニングと適応性
多様なデータセット上で広範に学習し、タスクごとに微調整することで、限られたトレーニングデータでも高い予測精度を発揮
気象シミュレーションや再分析製品、運用予測データを取り込み、予測モデルをより柔軟かつ強力に
優れたベンチマーク結果
既存のディープラーニングモデルを上回る性能を示し、将来の環境予測における重要なツールとしての地位を確立
OmniParser V2
概要と目的
UI スクリーンショットを構造化要素に変換する先進的な画面解析モジュール
大規模ビジョン言語モデル (VVM) と組み合わせることで、PC とモバイルを含む幅広いプラットフォームでエージェントの機能を強化し、UI との正確な連携を実現
背景
GPT-4V などの VLM (Vision-Language Model) 発展により、UI 内でのエージェント自動化が期待されている
しかし、異なる OS 上で対話可能なアイコンや特定画面領域を正しく解析・認識することが課題となっていた
主要な特徴
画面解析能力の向上: 対話可能なアイコンやリンクなどの要素を精密に検出
高速な推論: 従来バージョンより小さな要素も速く解析でき、GUI オートメーションをサポート
高度なアーキテクチャ: コンパクトかつ強力な設計により、様々なアプリケーションで正確なアクション実行を可能に
モジュール式設計: PC とモバイル両方での相互作用を想定し、柔軟な拡張性を確保
学習データとモデル
特殊なデータセット:
対話可能なアイコン検出データセット: Web ページ内のアクション可能領域を識別
アイコン説明データセット: UI 要素と機能を関連づけるキャプション情報を提供
検出モデル: アクション可能な画面領域を確実に認識
キャプションモデル: 検出要素に対しコンテキストに沿った説明を生成
応用と利点
エージェント機能強化: GPT-4V などのモデルと組み合わせることで、複数アプリ間での自動操作を円滑化
UI 自動化への貢献: 小さな要素検出や高速推論が可能となり、幅広い業務での GUI オートメーションを支援
将来の展望: 多様なプラットフォームでのエージェント化や、さらなる機能拡張が期待される
Magentic-One
概要
Magentic-One は、複雑な Web やファイルベースのタスクを扱うための汎用マルチエージェント システム
オーケストレーター (Orchestrator) と特殊なエージェント群を組み合わせることで、多様な環境・多段階のタスク自動化をサポート
アーキテクチャの特徴
Orchestrator: 各種エージェント (Coder, FileSurfer, WebSurfer, ComputerTerminal など) を統括する中核コンポーネント
モジュール型設計: 各エージェントが特定のタスク領域 (Web ナビゲーション、コード実行、ローカル ファイル管理など) に集中
複雑なタスクの効率的な遂行を目指し、複数のエージェントが連携
二重計画メカニズム
タスク台帳 (Task Ledger): Orchestrator が戦略的にタスクを管理・割り当て
進行状況台帳 (Progress Ledger): タスク状態をリアルタイムで更新し、フィードバック ループを形成
この仕組みにより、継続的な評価と調整が可能になり、タスク完了の効率を最適化
障害への対応
タスクの進行中に問題が発生した場合、Orchestrator が計画を動的に修正
タスクの再割り当てや条件変更に応じた柔軟なワークフロー管理を実現
公開状況
研究目的でリリースされており、ユーザーは学習・探索・実験を自由に行うことが可能
ExACT
概要
ExACT は、AI エージェントに効果的な探索手法を学習させるアプローチ
研究目的でリリースされ、ユーザーは学習・探索・実験が可能
背景と目的
マルチステップの意思決定プロセスを自動化する AI エージェントは、ウェブブラウジングやビデオ編集、ファイル管理など多方面で有用
しかし、複雑な環境においては、既存戦略を使う「搾取 (exploitation)」と、新たな戦略を試す「探索 (exploration)」のバランスが課題
また、環境や目的が変化した場合の適応力や、学習した知識を異なる分野へ転移する能力が不足しがち
ExACT の特徴
AI エージェントに、環境の動的変化や様々な選択肢の評価を自律的に行わせるためのフレームワーク
情報収集やオプションの評価、最適な意思決定・計画戦略の選択を支援
これによりエージェントはより高度な探索能力を獲得し、長期的な利益を見据えた行動が可能に
意義と期待される効果
従来のエージェントが苦手としていた複雑かつ動的な環境でのパフォーマンス向上
変化する条件や目的にも柔軟に対応し、複数のドメインにおける知識転移が期待される
マルチステップのタスクにおいて、人間の介入を最小限に抑えながら最適な意思決定をサポート
活用例と将来展望
Web アプリや映像編集ソフト、ファイル管理システムなど、多様な場面でのエージェント自動化に応用
長期的に学習した戦略の活用により、タスク効率や正確性をさらに高める可能性がある
MatterSim
概要
MatterSim は幅広い要素・温度・圧力条件をカバーし、素材のシミュレーションや物性予測を効率的かつ正確に行うディープラーニングモデル
Silico(コンピューター上)での素材設計を可能にし、研究・探索・実験への応用が期待される
主要な特徴
幅広い温度範囲に対応: 0 ~ 5,000 K の条件を包括的にカバー
圧力範囲の拡張: 標準大気圧から 10,000,000 気圧まで対応
多様な素材状態をシミュレーション: 金属、スルフィド、クリスタル、振動ソリッド、液体など
量子メカニズムに基づく原子相互作用: 非常に基礎的な原理をディープラーニングで捉える
カスタマイズ オプション: ユーザー指定のデータを組み込むことで、より複雑な予測タスクに対応
応用と利点
高温高圧条件下の新素材設計や、未踏領域の物性推定が可能
実験による検証コストを大幅に削減し、研究開発スピードを加速
幅広い素材・環境条件に対応するため、基礎研究から応用開発まで幅広く利用可能
公開状況
研究目的でリリースされ、ユーザーは自由に学習・探索・実験が可能
開発者はカスタマイズ機能を活用し、特定素材や特殊条件下でのシミュレーション精度を高められる
TamGen
概要
TamGen はトランスフォーマーをベースとした化学言語モデルで、ターゲットに特化した医薬品の開発を支援
研究目的で公開され、ユーザーは自由に学習・探索・実験が可能
特徴
分子最適化: 既存の分子をターゲットに合わせて最適化するための分子フラグメントを設計
新規化合物の発見: 既知の分子コア構造を基に、新たな化合物を構築する可能性を提供
生成 AI の応用: 長く複雑でコストがかかりがちな従来のスクリーニング作業を革新し、新しい化学構造の提案を自動化
利点と応用例
効率的な薬物発見: 高度な分子モデリングと研究者の知見を組み合わせ、探索・設計の手間を大幅に削減
多様な疾患への展開: 特に感染症などの領域で、新規治療薬の開発スピードを加速
研究・製薬産業へのインパクト: AI 主導による分子設計の実用化で、大規模な化学ライブラリ探索の負担を軽減
将来展望
生成 AI と分子モデリングのさらなる統合: 研究者と AI のコラボレーションを深め、革新的な医薬品開発を実現
幅広い領域への波及効果: 医薬以外の材料開発など、化学分野全体への応用も期待される
次の時代へ
GPS(全地球測位システム)技術の黎明期には、軍事目的の専門機器から一般消費者向けに普及するまでに、およそ10年かかった。1970年代に登場したニッチなイノベーションが、広く一般に浸透したのは1990年代後半から2000年代初頭にかけてで、車や携帯電話、ハンドヘルド機器にGPS受信機が標準搭載されるようになった時期だった。10年という期間は妥当な普及曲線に思えるかもしれないが、今日のAIにおけるイノベーションの進み方と比較すると、その速度差は顕著といえる。
近年、AIの進歩速度は劇的に加速している。かつては4~6カ月ごとに新しいモデルが公開されていたところが、いまや4~6日ごとに画期的な成果が発表されている。AIモデルのトレーニングに使用されるコンピュート能力は12カ月ごとに10倍の規模で拡大し、研究と商業化の両面を加速している。基礎研究から本格的な製品の展開までに要する時間も、かつては数年単位だったのが数カ月単位にまで短縮されている。
これほどのスピードでは、アイデアやプロトタイプをこれまで以上に迅速に反復し、検証し、デプロイする必要がある。この急速な変化は、研究とアプリケーションをつなぐ新たな思考が求められていることを意味する。
Azure AI Foundry Labs:研究とアプリケーションをつなぐ
Azure AI Foundry Labsは、Microsoftにおける研究チームとエンジニアリングチームの長期的な連携を象徴し、開発者やAIコミュニティ全体が新しいモデルやフレームワークを実験し、イノベーションの最前線に立てるようにするための統合的なアクセス拠点を提供する。開発者はAzure AI Foundry Labsで研究段階の技術を使ったプロトタイプを作成し、研究者やエンジニアリングチームとフィードバックを共有し、有望なテクノロジーを市場に投入するまでの時間を短縮することに貢献する。
詳しく知る
ブレークスルーから実際のインパクトまでの距離はこれまでになく縮まっている。かつては年単位の時間がかかっていたものが今では数週間、かつて研究所だけで完結していた技術が今は私たちのポケットの中にあるスマートフォンで動いている。Azure AI Foundry Labsは、このギャップをさらに縮めるために存在する。AI研究で生まれるすべてのブレークスルーを、開発者、クリエイター、イノベーターの手に届け、実世界におけるインパクトへと変換することを目指す。
これは単なる研究成果の共有にとどまらず、イノベーションのサイクルそのものを加速させる取り組みだ。開発者、研究者、スタートアップの創業者、エンタープライズのビルダーなど、どんな立場の人であっても、Azure AI Foundry Labsを通じてAI進歩の最前線へ直接アクセスできる。現在利用可能なツールやモデルはその始まりにすぎない。