山口新聞 東流西流 #5「芸術とは何かと問う」
山口新聞の担当の方から了承をもらい、こちらのノートへ転載していく。
#5 芸術とは何かと問う
前回、神や権力といった文脈から独立した作品を制作し、「アートは難しい」と言われる端緒となった作家、エドゥアール・マネを紹介しました。今週はもう一人の作家を紹介します。
それが、マルセル・デュシャンです。椅子の上に車輪を取り付けた「自転車の車輪」や、男性便器を横倒しにした「泉」という作品で有名なアーティストです。特にこの「泉」は、当時のアート界に衝撃をもたらしました。専門家でさえも「背景や文脈」との接続を説明できず、歴史的文脈を語るという批評の根幹を揺るがしたため、当時の批評家たちを当惑させました。
しかしこの「泉」は現代においては史上最も重要な作品の一つとして扱われています。なぜならば、それまでなかなか問われることのなかった「アートとは何か?」という問いを、最も端的に衝いたためです。
宗教的なモチーフでもなく、○○派などの主義・主張とも関係なく、作家の手作りした痕跡や職人技すら見受けられない。店で買ってきた便器にサインしただけの作品。「何の要素が作品をアートたらしめているのか?」観客はこのことを考えざるを得ません。そんな作品を発表できたのは、当時デュシャンしかいなかったのです。いわば、「問い」や「観念」といった知的、言語的活動を素材として扱った、初のアートでした。