「フランスで、環境保護活動家が小川や噴水を緑色に染色した結果、魚たちが沢山死んだ」についてのファクトチェック
野嶋ゼミ3年ファクトチェックチーム(李、早田、中里)です。
今回は、「フランスで、環境保護活動家が小川や噴水を緑色に染色した結果、魚たちは沢山死んだ」という内容のX(旧Twitter)の投稿についてファクトチェックを行った。
検証対象
検証対象は、Xにおいて2023年9月19日にナザレンコ・アンドリー氏によって投稿されたポスト(旧ツイート)である。
投稿には、「フランスでは環境保護活動家は、生物種の絶滅問題に社会の関心を引くために、小川や噴水を緑色に染色した。その結果、魚たちはたくさん死んだ…環境保護ね」と記述されている。
何故このテーマを選んだのか
この投稿は、近年関心が高まっている環境問題に関連した投稿であり、さらに10月10日時点で、1823万回表示・1.4万リポスト・1104件の引用・6.8万いいねを獲得しており、世間への影響も大きいと考えたため、この内容が正しいのかどうかという点についてファクトチェックした。
レーティング
大東文化大学社会学部野嶋ゼミでは、ファクトチェックのレーティングを行う際、特定非営利活動法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のレーティング基準に乗っ取りレーティングを行っている。
そして、レーティングを行った結果、
生物絶滅問題に社会の関心を引くためではなく、有害廃棄物の廃棄に対する抗議である。
本当に沢山の魚が死んだのならば、沢山の魚の死骸が写された画像があるはずだが、市内の運河の多数の画像があるにもかかわらず、死んだ魚は2匹しか写っていない。
等の理由により、結果は不正確となった。
検証過程1「環境活動家団体による河川染色の動機とは」
まず、検証対象における「環境活動家」であり、今回川を染色したとされるのが、2018年にイギリスで創設された環境保護団体エクスティンクション・レベリオン(以下XR)である。
※エクスティンクション・レベリオン(Extinction Rebellion)は直訳で「絶滅への反抗」という意味を持つ環境保護団体。
XRは公式アカウントにおいて今回の抗議活動に対する投稿をしており、投稿の中で、「ヨーロッパ最大の地下水面下に4万2000トンの有毒廃棄物を埋め立てることを糾弾し、行動で非難する事を改めて決定した」と述べている。
そして、XRの今回の抗議の対象となった有毒廃棄物の埋め立てとは、フランス政府によるStocamine計画という計画であり、XRはStocamine計画に対し、
「フランス政府は、時代に逆行したこの計画に対して否定的な意見が98%程を占めているにも関わらず、現在の計画にこだわっている。私達の資源を守るという意見を拒否することによって。」
といった内容の投稿を行っていたことから、ストアマイン計画を行う姿勢を崩さないフランス政府への抗議として河川を緑色に染色した事が分かった。
XRは長年にわたって抗議活動を行っている
さらに、XRの抗議活動について調べた結果、実際に2020年に行動を起こして以来、数回市内の川にを染色していることがXRの公式サイト内の投稿によって分かった。
投稿によれば、2020年7月4日にXRの環境活動家らが市内を流れる川の水を緑色に染色しており、目的としては、ヴィッテルスハイムのストアマイン社が管理する42,000トンもの有害廃棄物を旧カリ鉱山に埋め立てる計画への意識の向上が目的であると述べているが、2020年の染色の際には魚への被害は報告されていない。
検証過程2「フランスでの記事①:環境活動家たちは本当に染料を入れて魚を殺したのか」
記事のまとめ
抗議行動の一環としての染料の使用
環境活動家がコルマールのラウシュ川を染色をした背景には、有害廃棄物を埋め立てるStocamine計画への抗議があった。XRはこの計画に反対であり、川を染色することによって注目を集め、人々に問題を認識させる目的で染料を使用した。無害な染料の使用
使用された染料はフルオレセインという一般的には無害な色素で、特に水環境に有害な影響を与えないとされている。また、専門家によると通常の使用量では生態毒性を示さないとされ、発がん性や生殖毒性物質としても分類されていないため、環境に対するリスクは低いとされている。背後にある環境問題
環境活動家は、染料を使用し注目を浴びることで地域の環境問題に対する意識を高める狙いがあった。そして、この事件によって地域の水質や生態系に対する懸念が広まったことで、環境問題に対する討論が活発化し、対策の動きが加速した可能性がある。魚の死亡についての誤解
染料の使用と川で見つかった魚の死骸について、当初は関連性が疑われた。しかし、専門家の調査により、染料が魚の死因ではないことが示され、魚の死因は気温の上昇などの気象条件に起因する可能性が高いことが示唆された。
検証過程3「フランスでの記事②:染まった川と死んだ魚との間に関連性は証明されていない」
記事のまとめ
染料と魚の死亡の関連性 自然環境観察者らによる調査により、魚の死亡は熱波と干ばつによるものである可能性が高いことが示唆された。また、染料の使用が魚の死亡に影響を及ぼした証拠は見当たらない。
抗議行動の背後にある目的 ヴィッテルスハイムのストアマイン社への廃棄物埋設に抗議する意図があった。この行動を通じて環境問題に対する意識を高め、地域の環境保護に関する議論を刺激することが狙い。
「二つの記事の共通点」
以上の二つの記事では、どちらも染料の使用とラウシュ川での魚の死亡に関する調査について取り上げられており、実際の魚の死因は、熱波や干ばつなどの気象条件が原因であり、染料と魚の死因との関連性は極めて低いと結論づけている等の共通点がある。
また、どちらの記事においても環境活動家の目的は廃棄物埋設問題に対する意識を高めることであるという点が強調されており、環境活動家は河川の染色を通じて廃棄物埋設問題への注目を集め、議論や対策の促進を目的としていたことが分かった。
よって、川を緑色に染色したことは事実だが、生物種の絶滅問題に社会の関心を引くために抗議活動を行ったという事実はないといった結論となった。
検証過程4 「使用された色素の人体に対する安全性」
4つ目の検証過程は、今回の河川染色事件において使用された物質であるフルオレセインナトリウム(以下 フルオレセイン)の安全性についてである。
まず、検証対象にはフルオレセインによって行われた染色によって魚が多数死亡したとの記述があるため、魚への影響についての検証を行い、さらに、前提として人体には安全であるのかという点についても検証を行った。
「SDSにおけるフルオレセイン」
この物質は、様々な用途に用いられる蛍光色素の一種で、実際に「富士フィルム株式会社」、「RIMNET」等のフルオレセインを扱う企業の安全データシート(Safety Data Sheet 通称SDS)を確認したところ、人体への影響は無いことが分かった。
※安全データシート(SDS)とは
事業者が化学物質及び化学物質を含んだ製品を他の事業者に譲渡・提供する際に交付する化学物質の危険有害性情報を記載した文書。
「フルオレセインの様々な用途」
また、フルオレセインが人体に直接触れる様々な製品や医療にも用いられている事は安全性が担保されているからだと考えられるため、フルオレセインの用途をいくつか紹介する。
用途①入浴剤
フルオレセインは身近な日用品である入浴剤等に含まれており、例としては、紀陽除虫菊株式会社が発売している入浴剤「松の精」や「バスクリン」などがあり、その他の多くの入浴剤にもフルオレセインは含まれている。
用途②眼科学
フルオレセインは、眼科学における診断試薬として使用されており、血管造影(造影剤の注入による血管の観察・診断)の造影剤として眼への滴下、静脈への注射等の方法で使用されている。
以上2つの用途から、フルオレセインは一般的に幅広く用いられている蛍光色素であり、基本的に人体に対しては無害であることが分かった。
検証過程5「使用された色素の魚に対する安全性」
検証過程4では人体に対するフルオレセインの安全性について検証し、無害であるという結論に達したため、次に今回の検証対象である魚への影響について検証する。
まず、フルオレセインが魚類に与える影響について検証したが、結果としては魚類に対してフルオレセインが有害であるというデータは存在しなかったが、無害であるというデータも存在しなかった。
そのため、今回のフランスの事例以外のフルオレセインによる河川染色の事例についていくつか調べ、魚への影響について検証する。
事例① 竜田川染色事件におけるフルオレセイン
2023年7月5日に奈良県生駒市を流れる竜田川が緑色に変色するという事件が起きたが、生駒市によって魚の斃死が無いことが確認された。つまり、今回の検証対象と同じ状況であるのも関わらず魚の大量死は確認されなかった。
斃死・・・倒れて死ぬことを指し、 魚に対して使用する場合は魚のある程度の規模での突然死を指す。
そして、この竜田川の事例が本当にフランスの検証対象と同じ事例なのか、と言う問いに関しては、
・粉末状のフルオレセインは赤色
・生駒市の調査で上流の柵に赤色の粉末の付着が確認された
等の理由により、勿論水質や環境は異なるが、染色に用いられた染料は同じであると結論づけたた。
事例② セイントパトリックデーにおけるフルオレセイン
そもそもセイントパトリックデー(聖パトリックの日)とは、アイルランドにキリスト教を広めた聖人聖パトリックの命日である3月17日を指す。
また、セイントパトリックデーはアメリカでは「緑の日」として大規模に祝われ、毎年3月17日になるとシカゴ川が検証対象と同じく緑色に染色されるため、本事例における魚への影響についても検証し、結果としては、このシカゴ川の染色も1966年まではフルオレセインによって行われていたが魚への影響は報告されていなかった。
検証過程6「現地の専門家の意見」
検証過程6では、2023年9月18にフランス公共ラジオ「France info」が、今回の検証対象であるラウシュ川染色事件に対する専門家の意見を掲載していたため、記事を元に検証する。
まず記事の要約すると、
・現地の専門家=フランス生物多用局の部門責任者エリック・クラウザー
・染色された川の上流と下流で酸素濃度の差は無く、水温・ph値共に正常
・フルオレセインによって染色される二日前から魚の死が報告されていた
等の理由により、フルオレセインは魚の死に関係していないと断定していたため、検証過程4~6を踏まえた結論としては、
環境活動家が染色したフランスのラウシュ川の染色に用いられたのはフルオレセインであるが、人体への影響は無く、また、魚類への影響もその他の河川染色の事例において報告されていないことから、魚へのフルオレセインによる影響は無く、検証対象は不正確だと判断した。
まとめ
今回の検証対象は、
「小川や噴水を緑色に染色」という点は正確
「生物種の絶滅問題に社会の関心を引くために」という点と「魚たちはたくさん死んだ」という点は誤り
よって、ニュース全体としては不正確と判定した。
また、今回の疑義言説は、現在の地球における最も大きな課題の一つであり、近年高い関心を集めている環境保護に関連する言説であり、なおかつ正当な手段を用いて環境保護活動を行う人や団体に対してのマイナスイメージを与えるものであったため、このような疑わしい情報を鵜呑みにし、偏見を持つことや誤った行動を取ることは決して無いように一人一人が注意する必要がある。