【読書記録】「保持林業 木を伐りながら生き物を守る」読みました
今月の初めのあたり、強い雨が続き現場に出られない日が続きました。雨の日の仕事の扱いは事業体によりますが、今の会社は雨が降れば基本的に休みです。できた時間をどう使おうかということで、買ったけど読んでいなかった本を読むことにしました。いわば積読消費です。
いろいろ読みましたが、中でも「保持林業」という本がおもしろかったので、備忘録もかねて感想を書いていこうと思います。
※先に断っておきますが、全ての内容を誤解無いように書くととんでもなく長くなるので、分かりやすさ重視で平易な書き方をした部分が多いです。興味がある方は本をぜひ読んでくださいね。
本の概要 「保持林業」とは?
この本は、欧米で実施されている「保持林業」について、手法や背景、課題、日本での研究の経過などが書かれています。
では「保持林業」とは何なのでしょうか?
定義は「森林の構造や生物を伐採する際に残し、長期的に維持する森林施業」とされているようです。簡単に言うと、「木を伐る時は全部伐るんじゃなくて、生き物の生息に重要な木を少し残そう!」というイメージ。これまた簡単に説明しますが、森林は、色々な種類の、そして色々な年齢の木があるほど、環境が複雑になって鳥や虫など色々な生き物が生息する豊かな森になります。どういう木を、どういう風に、どのくらい残すかは、どういう森林にしたいかによって決めていきます。
繰り返しになりますが、ものすごくざっくりした説明なので、興味のある方はぜひ本を読んでみてくださいね。
【感想①】しばらく国内での普及は難しいだろうけど、こういう林業はテンション上がる!
「しばらく国内での普及は難しいだろう」と書いたのは、現状、国内の森林管理のインセンティブはほぼほぼ「木材生産等による経済的価値」だからです。保持林業は伐らずに残す木があるので単純に販売する木の量が減りますし、木を残しながらの施業では効率も落ちます。生物多様性などの経済的価値以外の価値が評価されない限り、普及は難しいように感じます。
ですが、個人的にこのような林業はかなりテンションが上がります。私も森林科学をかじった端くれなので、森林の多面的機能(森林には、水を貯えたり、生き物の住処になったり、人間を癒したり、色んな役割があるよね~ということ。詳しくは林野庁のページをどうぞ)について学びました。しかし、実際の施業でこれらを意識することはほとんどありません。林産班(木を伐って丸太を出す作業をする班)に所属していたころ、重要視されるのは現場の効率や重機の稼働率で、自分のやっている仕事のことを「まるで丸太生産工場だな。丸太が必要な人がいる限り必要な仕事ではあるんだけど、森林のためになっているのかな?」と思っていました。しかし、保持林業ならば丸太生産のための人工林でも、生き物の生息地としての機能は守れる!これは画期的ではないでしょうか。
さらに言えば、シンプルに私は「最近、鳥が好きなので鳥がたくさんいる森林の方がテンションが上がり」ます(好きなだけで詳しいわけではない)。生物多様性とか難しい言葉を使うとちょっと固くてとっつきにくいですが、人間の動機付けってこのくらいシンプルでも良いんじゃないかと思っています。
【感想②】保持林業は万能じゃない 「手段」を「目的」にしないために
「え~保持林業ってめっちゃ良いじゃん。全部これにしたら良いじゃん。」と思った人がいるかは分かりませんが、保持林業も万能ではありません。まず、前述したように木材生産の効率は落ちるので、木材生産に特化したい森林で保持林業を選択するのは悪手となります。また、保持林業ではすべての生き物を守ることはできません。重要な生き物の生息地や現在ある原生林はそのままの状態で保全したり、木材生産による利益が見込めない森林は環境機能を期待した天然更新をする森に戻していくことも今後必要になると思います。
個人的な意見ですが、日本人は言葉に囚われて目的を見失いがちだな、と思うことがあります。目新しい言葉のものを実践すれば「やってる感」が出るからかなと推測してます(実際どうかは分かりません)。大切なのは「何のためにやるか」、目的をはっきりさせることだと思っています。保持林業においては「どのような種を守りたいか」「どのような森林にしたいか」を、対象の森林の現状、周囲の環境、各関係者の意見など踏まえ、よく考えることが重要と思いました。
【感想③】実際に保持林業やるとしたら、誰が「質」を担保するのか
いつか保持林業が国内で普及する日が来るとして、その質をどのように担保するのかという課題が出てくると思っています。保持林業で重要なのは「どの木を残すか決めること」ですが、それを現場レベルで判断できるのか?ということです。地域ごとにある程度のガイドラインを作成し、何年か時間をかければ現場レベルでの判断も可能とは思いますが、最初は結構厳しいと思います。現場作業員に生き物や森林科学の知識の素地があるに越したことはありませんが、現状、そのような方は多くありません(別にそれが悪いことではなく、前述したように森林の価値が木材生産で評価されているうちはしょうがないことだと思います)。欧米ではフォレスター(地域の森林を責任をもって管理する専門家)が間伐で伐る木を選ぶと聞いたこともありますが、国内ではそのような動きができる人間も限られています。
私の小さな夢
私の小さな夢の一つに「森林科学や生き物の知識を持っている現場作業員が評価される時代になること」があります。現状、森林の価値が木材生産の価値だけのままでは、現場作業員の評価基準は作業効率のみです。もちろん現場作業員は最低限の作業能力を身に着けることが先ですが、SDGsに代表されるように、森林においても社会的意義であるとか経済的価値以外の価値の重要性はますます認識が高まってくると感じています。その時、現場に知識のある人間がいることで、もっともっと林業がおもしろくなるのではと思っています。
保持林業がいつか国内で普及するときが来るとして、私はその時に目標林形の設定や選木を担える現場の人間になりたい。そう思っています。
そんな日が来ることを夢見て、私はこれからも密かに生き物等の勉強を続けるのです。
色々書きましたが、たまにこんな感じで読んだ本の感想を書いていきたいです。お天道様には逆らえないので、晴耕雨読でやっていこうと思っています。
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