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ブックカバーがくるむもの #描写遊び

1冊の文庫本。

ブックカバーがかかっている。
麻の布のブックカバーで、表紙の左側5分の2は生成り色、残りは墨色。
生成り色の部分には、3匹の猫の顔が刺繍されている。
上から順に、下を出したトラ猫、人を騙すときのキツネのキャラみたいな顔をしたミケ猫、ぼーっとした顔をした種類不明の熊っぽい猫。

黒い紐しおりがくっついていて、その先っぽには肉球付きのハリのある猫の前足がちょこんとついている。

私は猫を飼っていないけれど、もし猫がそばにいたらならば、この部分にフンフンと前足を伸ばして、触りたがりそうな可愛らしさ。


布のブックカバーは分厚くなりがちで、本を持った時にどうしてもその存在感が手から離れず、物語に没入できない感じがしてあまり好きではなかった。
けれどもこの麻布は、薄さが売りではないけれど、くったりとした手触りで、本にも、手にも馴染む。

亡くなった兄の本を大切に読みたくて、なぜか1冊だけボロボロだった伊坂幸太郎著「重力ピエロ」にだけ、と思い、このブックカバーをかけた。

仙台に暮らす兄弟の物語を走り抜けた後には、私はすっかりこのブックカバーを気に入ってしまった。

そうして今こいつは、同じように兄から受け継いだ本、伊坂幸太郎著「フィッシュストーリー」をくるんでいる。

新潮文庫には紐のしおり(スピン)が付属しているので、ブックカバーの猫の手しおりと重複する。そこでエイヤと贅沢にもしおりを2本使いすると、新潮文庫のこだわりというボールを受け取った気分になり、読書していること自体に幸せを感じる。


どんどんしおりの位置が後半に迫っていく。

今日はこの辺にしておいてやろう、と読書時間を終えてしおりを挟み、本の上か下から、しおりの位置を見るのはもはや癖だ。

猫の手しおりと新潮文庫のスピンが行儀よく並んでいる。
もう少しで物語が終わってしまう寂しさ、すぐに読み終えるのがもったいないと思う気持ち、そう感じられる物語が自分に出会ってくれた喜び、この冒険を兄も同じ本の中で経験したんだなと、いつも兄の背中を追いかけていた小さな妹に戻ったような気持ち。

これを読み終えたら、次はまた伊坂幸太郎著「オー!ファーザー」をこのブックカバーはくるむ予定。

いつもより布の感触がくったりとしているのは、雨の湿気のせいかしらん。




Emiko様の #描写遊び のアイデアを拝見して、すごく良いな!と思って参加させていただきました。

描写というか、思い出や自分の話も入っちゃいましたが、やっぱりそれが私の癖なんだなというのも分かって、面白かったです。
940字、普段ならもっとダラダラ書いちゃいそうだったけれど、300字~1000字以内という規定も、ちょうどよいですね。
目の前のモノや情景と向き合っている感覚が、気持ちよかったです。ありがとうございました。

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