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会長2

退職届を提出して、会長に呼び出されて本社へ行ったけど、僕の進退の話になったのは、1時間以上経過をしてからだ。

そこで、会長から言われたのが、

「君が働きやすい環境を作る。」


そんな事言われても、僕は既に退職届を出してるし、退職意思を固めていたので、ピンとこなかった。そんなリアクションの薄い僕を見て、会長が話を続ける。

「現場のトップを君に任せたい。」

会長は、僕を中心にする事で、事業が成長すると言ってくれた。この言葉はとても嬉しかった。成功者である会長が認めてくれたのだ。

これまで、自分なりに一生懸命やってきたが、それが認められたり、褒められることはほとんどなかった。そんな環境ではなかった。自分にも誰かに認めて欲しい気持ちがあったんだ。

ただ、上司たちがいる限り、自分が現場のトップになんてなれない。その事を伝えると、上司たちには別の業務を任せると言われた。
 僕の昇級は正式な辞令であり、給与もあがる。つまりガチで僕は現場のトップになる。会長はマジだった。そして、まさにこれは僕が思い描いていた形だった。自分が中心となり、上司の介入なく仕事ができる。

 僕は平静を装いつつ、自分の心拍数が上がっていくのを感じる。気力が漲り、仕事をしたいという意欲が沸き上がってくる。
 僕は格好つけて、意味もなくその回答を保留にしたが、既に自分の気持ちは固まっていた。

「やるしかない!!」

僕はここで、疑問に思っていたことを会長に聞いてみた。

 僕の事業部は、他の事業部と比べて規模も売り上げも小さい。なのに、組織のトップである会長は、なぜ僕に数時間も付き合ってくれたのか。時間をくれた事には感謝しているけど、何だか申し訳ない気持ちになる。そんな質問をしてみると、会長からの答えは、「それが自分の仕事だ」という事だった。

この会社の本業は美容業だ。女性を対象にしたビジネスで、エステやネイル、そういった施術をするのも女性スタッフだ。会長が直接何かできるものではない。会長ができる事は、はたく女性スタッフがモチベーション高く働ける環境を作る事。会長からすると、「働いていただいている」という感覚だそうだ。

スタッフに何か不満や悩みがあれば、そのはけ口に自らがなる。各店舗を回り、一人一人のスタッフと面談を行い、時には一人のスタッフに何時間も時間をかける。それをこれまで徹底してやってきたそうだ。

会社が大きくなったのは色々な要素があるけれど、この愚直な姿勢が大きな要因だと思う。今回も全く一緒だ。僕に時間を使ってくれたのは、会長にとっては当たり前の事だった。会長はコミュニケーション能力に長け、会話の中で色々なものを吸い上げる。業務に携わらない分、現場特有の変なこだわりもないし、常に大局を見る事ができる。何よりも、人に任せるという事は、その人の考えを受入れ、不測事態をも許容できるでっかい器がある。

自分は、この時、はじめて経営者と言うものに触れたのだと思う。

それは僕にとって、大きな出会いだった

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