ダイアンさんと私②
意外にも、悲しさはなかった。
私はやれることは全てやった。これだけは単に巡り合わせでしかない。それに、オンライン配信で見れるのだから、何も落ち込むことはない。
私は申し訳なさを滲ませながら、友人Tに落選の旨を伝えた。すると彼女は
「さすがダイアン様、人気やな」
と言ったあと「ちょっと待っといて」と残してLINEが途絶えた。
***
まんざいさん2022の当落発表の当日、私は長野県にいた。出張だ。私の出張は急に決まることも少なくなく、10年で最強の寒波と言われる大雪の中、スタッドレスを履いているだけの普通車で、なんとかホテルにたどり着いた。
21時過ぎにホテルに帰着した私が、風呂を済ませ、軽く事務仕事の処理をしようとPCを開いた頃、スマホにLINEの通知が来ていることに気づく。
Tがまんざいさんのチケットを2名分取り付けたと言うのだ。
「しかしどうやって?」
「そんなことは問題じゃないわ。どうやってダイアンさんを満喫できるか、あなたはそれに集中して」
洋画の吹替みたいな話し方で彼女は明言を避けたが、とにかく私はまんざいさん2022にありつけた。本当に感謝してもしきれない。
***
2/3 18:40 NGKに到着。Tと合流。
この写真で言うちょうど右手の奥に見える、関係者受付にズンズンと歩いて行くT。
大柄で低姿勢なスタッフさんに名前を告げ、チケットを受け取る。大柄なスタッフさんは左手で何かしらの名簿にチェックを入れた。私たちの名前の少し下に「津田」という苗字がかすかに見えた。ご家族が来られているのだろうか?少し気になったが、あと数分後には遂に念願の生ダイアンさんが拝めるのだ、その時の私に瑣末なことに関心を払う余裕などなかった。
そして入場。会場は熱気に包まれている。
およそ900席ある会場はもちろん満席。全員が口々にダイアンさんの話をしている。夢のような空間だ。充満する熱気は、会場をうねる。私の心臓も日頃感じ得ない高鳴り。何か大きな生き物の背中に乗っているような心地だった。
心臓が今にも口から出そうなほど、興奮を通り越してもはや緊張している私に、追い討ちをかけるようにあるものが目に飛び込んだ。
赤いニットを来て黒いジャケットを羽織った小柄な高齢の女性。私にはすぐにわかった。
めちゃくちゃ津田のお母さんだった。