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青風 ⑤
「おまえのせいで、おれは島中の笑い者になっちまった」
そう言って、肩を落とすターラにアオカジは言った。
「そんなにしょげかえるな。とっておきの作戦がある。1000年も生きているウミガメのじぃ様に聞いたんだから、まちがいない。人間の女というものは、ピカピカ光っている飾り物が大好きらしい」
「飾り物?」
そういえば島の女たちは、耳や首に石や貝を磨いて作った飾り物をいっぱいぶらさげているなぁ、とターラは思った。
「夜光貝の貝殻を磨くと、それはそれは綺麗に光るぞ。それでアコヤに飾り物を作ってやれ。そうすれば、きっとアコヤはおまえの嫁さんになってくれる」。
ターラとアオカジは、海に潜り、とびきり大きな夜光貝をいくつもとってきた。
魚の仕掛けならお手のものだが、飾り物など、ターラは生まれてこのかた一度も作ったことがない。普通の人間の倍ほどもある大きなターラの手で、貝を削ったり磨いたりするのは至難の業だった。ようやく美しく磨き上げたと思っても、薄くなった貝殻はターラが少しでも力を入れすぎると、パリンと割れてしまう。
それでもターラは諦めなかった。
1週間かかって、ターラはやっと一つだけ、アコヤのために夜光貝の腕輪を作り上げた。形は歪だったが、濃い緑色と虹色が混じり合った、本当に美しい腕輪だった。
ターラは腕輪を持って、アコヤの家の扉を叩いた。出てきたアコヤに、ターラは、おずおずと腕輪を差し出した。
「これ…私に?」
アコヤは目を輝かせた。
「なんてきれいなの!今まで見た中で一番きれいな腕輪よ」
でも、とアコヤは続けた。
「こんなきれいな腕輪をもらっても、私はつけることができないの。うちは父さんがいないから、私が毎日畑仕事をしないといけない。鍬や鋤を使うときに腕輪はじゃまになってしまう。それに、母さんもいないから、小さな弟の世話も私の仕事。体や髪の毛を洗ってやる時に、腕輪が引っ掛かったら弟が怪我をしてしまう」
「そうか…わかった」
そう言ってターラが帰ろうとすると、アコヤの弟が家から飛び出してきた。
「ターラは島で一番の漁師なんだろ?魚の取り方を教えてくれよ。おれ、漁師になって、ねぇちゃんの役に立ちたいんだ!」。
腕輪を持ったまま戻ってきたターラを見て、アオカジはとてもがっかりした。
「今度こそ、うまく行くと思ったんだがなぁ」
ターラは言った。
「いいんだアオカジ、アコヤは姿が美しいだけでなく、正直で勇気がある。それに優しくて働き者で弟思いだ。おれは、前よりずっと、アコヤのことが好きになったよ」。
アコヤの弟の名前はトゥクと言った。
ターラは時々トゥクに釣りを教えるようになった。砂浜や、潮が引いた後の潮溜りなど、小さいトゥクでも魚が釣れる場所を選んで、ターラはトゥクを連れて行った。
大潮の日は、アコヤも2人と一緒に浜へ行き、貝拾いをした。魚や貝がたくさん取れた日のは、浜で焚き火をし、3人で一緒に焼いて食べた。
「ターラ、おれ、舟で海に出てみたい!」
トゥクはターラにせがんだ。
「まだ早い。お前が八つになったら、舟に乗せてやろう」
と、ターラは言った。
続く
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