2020年2月8-9日飛騨古川旅記
2月8日9日の土日、飛騨へ行って来た。
観光地として著名な高山ではなく、その先にある飛騨古川へ。
思い返すと、場所の記憶というよりは人の記憶が多い、色んな人と会って話した旅であった。
誰かに「会いに行って話す」ではなく、ふらふらしている中で「偶発的に出会って話す」。
出会った人を通して、その地域とか、あるいは価値観とかを垣間見られる。
そんな「価値観の揺らぎ」こそ、旅の醍醐味なんじゃないかと感じる。
なんか最初からぶっ放してますが(笑)旅の随筆でございます。
■飛騨古川って?
塩尻から出発し、国道158号線にて松本から高山を経て福井へ通ずる安房峠から北アルプスを越えていき、高山から北西へさらに30分程度車で走った先に、飛騨古川の街はあります。
元は古川町でしたが、平成の大合併により2004年に飛騨市となりました。
今でも残る、碁盤目状のまちに古きを残した街並み。
碁盤目状の区画は、元々は国司が支配した時代に古川城が近くにあり、その城下町であった頃の名残です。
また、律令制が敷かれていた頃、飛騨は過疎地域だったため税制の一つであった庸・調を免除され、代わりに大工を徴発する特令が敷かれ、それが後々の大工業が飛騨で隆興するきっかけになったとか。
江戸時代には周囲の森林からの恵みである良質な材が幕府に認められて高山と同様に天領となり、発展をする一方。
寒い地域ゆえに稲作としては困難だったようで、度々に米騒動や一揆などが勃発したそうな。
そんな歴史や文化的な背景が残る古川の街。
高山よりもこじんまりとして、人通りも全くなく、ものすごく好みな街でした。
昔ながらの街並みが残っているということで、重要伝統的建造物群保存地区に選定されているのかとずっと思っていたのですが、調べたらなんとそんなことは全くなく。
このリンクを読んで感動したのですが、元々は青年会議所と観光協会が意識を持って組織的にまちづくりのことを考えている中で、それに賛同する住民の方がそれに合流し、そこから上がってきた意見や将来像に対して行政がそれを実現するような条例を作るという。
また「観光のゴール」というのをそれらの地域に住まう主体が考え、生活との両立が必要だとの想いから交流人口「100万人構想」を掲げたそうです。個人的に「持続可能という概念には『最適規模感』が一つのキーになる」と1年半前からぼんやり考えていて、京都などでオーバーツーリズムが叫ばれる中、まさにそれを体現している素敵すぎるモデルだなあと感じました。
次に行く時には、この辺りも少し深く知ってみたい気もする。
※参考にしたリンク↓
http://www.mlit.go.jp/crd/townscape/gakushu/data3/hida_furukawa.pdf
http://www2.aasa.ac.jp/people/kanare/1425.htm
■道中1日目(お店とか、寄ったとことか、会った人)
土曜日は東京から朝帰りだったので、8時の新宿発あずさに乗り10:30に塩尻着、11:00に車で飛騨に向けて塩尻を出発しました。
冬の安房峠越えを少なからず楽しみにしていたのですが、暖冬の影響で安房トンネル付近も殆ど道に雪が積もっておらず、割と楽勝で高山付近までノンストップで進みました。
おおよそ道中は2時間程度、古川の手前で地元民に愛される渋い中華の店「憩松苑」にてランチを食します。餃子の味が特徴的で、チャーハンが絶品でした。
https://tabelog.com/gifu/A2104/A210402/21007692/
「ヒダクマ」こと官民出資の「株式会社飛騨の森でクマは踊る」が運営する、「Fabcafe」にて14時からコーヒー焙煎ワークショップが開催されるということで、嫁はそれに参加して、三枝は初めての古川の街を散策することに。Fabcafeはゲストハウスも運営しており、本日の宿泊場所でもあります。
https://fabcafe.com/hida/
ワークショップは2時間程度なので、ちょっと離れた小高い里山あたりにある気多若宮神社にでも散策しようかなうふふと思ってフラフラしてましたが、当然ながら彼方此方で足を止め。
とりあえず宿を出て目についたのは大きな酒蔵。古川が誇る2つの酒蔵のうちの一つ「渡辺酒造」であり、蓬莱というお酒を醸しています。加水で酒を薄めて販売していたような蔵や商店もあった時代に、一本気に加水はせずにそのままの酒を販売していたという蓬莱。今は南部杜氏の方が冬になると仕込みに来ているそうです。
一方、大吟醸の酒粕を使ったケーキを商品化したり、謎の「日本酒がちゃ」があったりと、新しい試みも実践しており、昔ながらの気質と時代に即したチャレンジと、そのバランスが面白いと思いました。Webサイトではめっちゃ情報発信もしてますね、友人がやってる「おてつたび」でも受け入れ先になったんだ、なんだすげえなこの酒造。
http://www.sake-hourai.co.jp/
次に寄ったのは、天然の材料で染色から織物を手がけている「手織り由布衣工房(ゆうこうぼう)」。門から見える中の建物が素敵で、文化財の表示もあったのでふらふらと入りました。
中から着物をお召しになった素敵なお姉様(と言っても、三枝の倍以上歳を召されている)となんだか分からないけど話し込んでしまって、都合30分以上滞在してしまいました。すごく博識で教養がある方で、染物や織物の話は一切せずに、雑談を延々しておりました。
作品を展示している古民家自体がそんな建築なのですが、外見上の派手さはてらわずに、一見分からないような箇所や、説明を聞かないと分からないような部分に、大工や職人としての「匠の技」を凝らしていて、それが昔でいう「粋」であったと。そして、古川はそのような文化が根付く地域であったのだと。すごく教養が深い雰囲気だったのですが「歳を取ってからの方が、自分が無知であることに気づく」という言葉が印象的でした。昔は東京でバリバリのキャリアウーマンとして働いていて、人と競争して自分が知識や経験的に優位に立とうとしていたけれど、古川に戻って来てからゆるやかに様々な事象と向き合うようになり、ある意味で自分のワクのようなものが外れ、本当に知らないことが多いと実感したとか。
地域のこと、自らの生き方のこと。それを、とても素敵な柔らかさと、距離感と、塩梅で言葉を紡ぐ、いつまででも聞いていられる素敵な方でした。
https://www.yuh-koubou.com/
この時点でワークショップ終了の時間も近づいてましたが、道中に2軒目の酒蔵で、白真弓を醸す「蒲酒造」を発見。試飲をさせてもらい、お母さんからユネスコ無形文化遺産と国の重要無形民俗文化財にも登録されている「起こし太鼓」の話を聞きました。
起こし太鼓は毎年4月19日20日に行われる祭りなのですが、その時期が近づくと「女の私でも、なんかこう・・・血が騒ぐ」そうなのです。青龍、朱雀、白狐、玄武という4つの組から太鼓を叩く人が選ばれるようなのですが、それは単純なくじ引きとかではなく、地域に貢献した実績がないと選ばれないような、まさに名誉な祭りなんだそう。場合によっては一生選ばれないこともあるそうですが、お母さんの弟さんが選ばれた時はものすごい興奮だったそうで。そんな話を聞くと、つい行きたくなってしまいます。
白真弓は「やんちゃ酒」という銘柄もありますが、それも起こし太鼓の「やんちゃ」から取ってきたそう。お母さんの素敵な話に酔い痴れ、ついつい生原酒を買ってしまいました。
https://yancha.com/
しっかり終了時刻をオーバーして嫁と合流した後は、古川近くの温泉「宇津江四十八滝温泉しぶき」と、近くにある四十八滝へ。
民話や伝説のある滝を雪道をあるき少し見ました。温泉はまあ普通でした(投げやり)。
散策中、観光案内所に寄ったのですが、そこにいたお爺ちゃんに「地元の人が飲んでる店を教えてくれー!」と、紹介いただいた店で夕飯を。
1軒目は「喜楽」。ステーキを乗せるようなサイズの鉄板焼きが名物だそうで、喜楽焼きという肉を焼いたやつと、漬物ステーキを注文。ビールと蓬莱をいただき、満足げに2軒目。
http://j47.jp/furukawa-kiraku/
2軒目は「志摩茶屋」という、きりたんぽが名物の店。何故に飛騨で志摩がきりたんぽなのかよく分からないですが、店主のお母さんが秋田出身で、確かにきりたんぽは絶品でした。カウンターで地元のおいちゃんが並んで飲んでて、人懐っこく話しかけてくれまして。途中で突如大量の鼻血が出たため不完全燃焼でしたが、良い店でした。めっちゃリベンジしたい。
https://www.hida-kankou.jp/s/spot/1000000252/
■道中2日目(お店とか、寄ったとことか、会った人)
2日目の朝は、古民家の凍える中で目覚め、凍える中で朝食を。雪の舞う飛騨古川の街並みも佳き哉。
街をふらふらしてたら、飛騨で持続可能なエコツーリズムを12年前から実践している「里山エクスペリエンス」の事務所にばったり出くわし。外から覗いていたら中から手招きされたので、ホイホイと入り込んでいってコーヒーをいただく。運営会社の株式会社美ら地球に勤めるお二人とお話をしました。元々は教師として信州や京都や大阪に滞在しながら、里山で暮らせて英語でのおもてなしやツアーが実践できる企業から飛騨へ来られた佐々木さんと、岐阜市出身で京都の大学に通いそのまま新卒で入社した平野さんのお二人。
昨日の「由布衣工房」のお姉さんが仰ってたことのツーリズムバージョンのような会話をしていました。今はインスタ映えという概念が普及して、その写真を撮るという体験が流行しつつあるけれど。本当は色んな地域に生活があってもっとドロドロした奥行きがあって、それを感じられるのが旅なんじゃないのかなと。なんか、ジャンルは違えど異なる人から共通の概念の話があり、これはなんなんだろう、飛騨古川という地域の持つ、暗黙の(体系化されていない)共通概念のようなものなのか…
https://satoyama-experience.com/jp/
里山エクスペリエンスを出て「ひだ森のめぐみ」にて薬草ティーをいただき、薬草について色々聞きつつ。
https://www.hida-kankou.jp/spot/6236/
高山に向かう途中、里山エクスペリエンスの方に紹介してもらった「やわい屋」に立ち寄る。古民家を改修して、陶器を中心とした様々な民芸品を置きつつ、2階を古本屋にしているお店。のべーっと店内を歩いてたら「さっきまでわさっと人が来てて、やっと落ち着きましたわ」と、店主さんが話しかけてくれました。またそのまま雑談。
元々飛騨の方で、外に出て戻ってきた折、壊す予定だった古民家を移設して現在の地に店と住まいを構えたそうです。生き方がすごく素敵で「自分は延々と本を読む生活をしていたい。そして、家族と幸せに暮らしたい」「だからこそ、それを実現できる生き方を選んだ」「民芸を売るのは一つの手段でしたかない。他に自分の在りたい生活の姿があれば、変えただろう」という、本当に自分の在り方に真摯に向き合って、生き方を決めている人なんだなあと。そこから、今の世の中や社会の構造を俯瞰しつつ、資本主義や地域文化(習俗?)のような仕組みを理解しうまく使いつつ、自らの生き方をちゃんと論理的に組み立てている。
ともすればついつい欲を出したり、我を踏み越えたり(その先に自らの幸せがあるとは思えないのに)、栄誉なるものへの憧れが起こったり。そんな揺らぐ自分を持つ私にとって、それを実践している店主さんの話は、すごくジワリと身体に入っていく感覚がして、素敵な時間でした。Webサイトの読み物も素晴らしいので、是非ご覧ください。
https://yawaiya.amebaownd.com
高山に着いたら名店「ちとせ」にて昼食。焼きそば、うまし。
https://tabelog.com/gifu/A2104/A210401/21000788/
その後、信州から高山へ移住して「寄合所 耕」というレンタルスペースを営む友人の元へ。会うのは久しぶりでもなかったですが、ゆっくり近況なども聞けてよかったです。
帰りは安房峠にある「日本秘湯を守る会」の中の湯温泉へ。
四駆スタッドレスしか行けないつづら折りの道を登り、眼前に夕焼けになる前の穂高岳が岐阜側から見える森の中の露天風呂が最高でした。次は近隣の坂巻温泉を制覇したいです。秘湯を巡りたい・・・!
旅のまとめ
冒頭にも書きましたが、飛騨の旅は本当に「人と話した」旅でした。
それも、以前会った人とかではなく、偶然歩いた最中とか、フラリと寄った店とか、そこで教えてもらった行き先とか。
そして何より、話す内容が割と個人の価値観とか、生き方とか在り方とか、そちらに依った話だったのが面白かったなあと。
日常で生活している中で徐々に醸造されていく自らの思想から、また少し異なる角度でものを見れるきっかけになったり、別で表現できる言葉を見つけることができたり。
そして、それをもたらしてくれる人と偶発性な中で出会えることこそが、正しく旅の醍醐味なんだなあと再認識した旅でした。
そういう人たちと紡ぎ出される言葉の奥?裏?中?に、その土地での生活が垣間見られる。
自分自身も、暮らし方は全然丁寧ではないけれど、生活が思想を通して言葉として紡げるような、そういう丁寧な暮らしをしていきたいと感じました。