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ショートショートその55『太陽が昇らない朝』/一月二日の朝、なかなか太陽が昇らない。その理由を探りに天照大神に会いに行ってみると……

一月二日の朝、太陽が昇りませんでした。

空は暗く、街灯がまだ消えないまま。
気象予報士さんたちは頭を抱えてます。
科学者さんたちは望遠鏡を覗き込んでいます。
きっと理由があるはずです。
その理由を探りに、私は、日本の太陽神さまに会いに行くことにしました。

三重県の伊勢神宮は、いつものように厳かでした。
天照大神さまは、神々しい光に包まれたまま、穏やかに首をかしげています。
「わたしは、いつも通りですが、なぜ太陽が昇らないのでしょうか?」

そうか、もうひとつの場所があった。
宮崎県にある高千穂の天岩戸。
天照大神が隠れたという昔からの言い伝えの場所です。

天岩戸に着くと、思いがけない光景に出会いました。
洞窟の入り口で、エプロンのままの50代くらいの女性が、缶チューハイを飲んでいたのです。

「あら、こんなとこまで来たの? まあ、私も家を抜け出してきちゃったけど」
ほろ酔いの顔で、女性は笑います。

「昨日の元旦はね、みんなで遅くまで寝て、家事もしないでゆっくりできたのよ。でも、さすがに二日になったら洗濯物も洗い物もたまってきちゃうから、やらないわけにはいかないでしょう? 旦那も子どもたちも休みでゆっくりしてるのに、なんで私だけ二日から働かないといけないのよ」

女性は、もう一口飲んで続けます。
「手伝ってくれってことじゃないのよ。3食作って、洗濯して掃除して、そういったことに普段から『ありがとう』って思いなさいよってこと。母の日だけじゃない。『ありがとう』っていってくれるのは」

その言葉を聞いて、私は気づきました。
そうか、太陽さんも同じ気持ちなのかもしれない。

「そうよね、太陽さんも同じよね」
女性は空に向かって、缶を掲げます。
「初日の出の時だけみんな『ありがたい』って。太陽さんも、毎日ちゃんと頑張ってるのにね。でもね」

女性はにっこり笑って、
「愚痴るのはここまで。私だって、娘の寝顔見るとやっぱり愛おしいもの」

そのとき、東の空が、ほんのりと明るくなってきました。
まるで照れくさそうに、遅刻してきたことを詫びるように、優しい光が大地を包み込んでいきます。

「さ、帰らなきゃ」
女性は空き缶を片付けながら言います。
「今日の夕飯、娘の好きなハンバーグでも作ろうかしら。文句言いながらも、結局こうして作っちゃうのよね、母親って」

私も頷いて、新しい朝の光を見上げました。
「今日も私たちを照らしてくださって、ありがとうございます」
声に出してお礼を言ってみます。

愚痴を言いながらも愛情いっぱいの母の気持ちも、ちょっと拗ねながらも温かな太陽の光も、変わらず私たちを包み込んでいる。
そんな当たり前の毎日が、実は、とても特別な輝きに満ちているのかもしれません。


【糸冬】

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