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ショートショートその13『アンパイアのヴァンパイア中野さん』

アンパイアのヴァンパイア中野さんは本当にヴァンパイアだ。
彼はナイターしか審判しない。
ヴァンパイアだからだ。
デイゲームで審判しようものなら消えてしまう。
ヴァンパイアだからだ。
冷静な審判に定評がある。
なぜ冷静なのかと言うと選手につられてついカッとなったら、その勢いで選手の血を吸ってしまうのだ。
ヴァンパイアだからだ。

アンパイアのヴァンパイア中野さんは本当にヴァンパイアだ。
登録名がヴァンパイア中野なのだ。
ヴァンパイアだからだ。
本名は中野久月だ。
久月と書いて「きゅうけつ」と読む。
ヴァンパイアだからだ。
ヴァンパイア中野さんは最初は本名で活動していた。
そのうちひな人形の問い合わせが来るようになった。
久月だからだ。
困ったヴァンパイア中野さんは登録名を「ヴァンパイア中野」にした。
本当にヴァンパイアだからだ。

アンパイアのヴァンパイア中野さんは本当にヴァンパイアだ。
彼は自宅では棺桶で寝ている。
ヴァンパイアだからだ。
本当は日が暮れるまで寝ていたい。
ヴァンパイアだからだ。
しかし、ナイターの準備をしないといけないので、日が暮れるか暮れないかの頃、家を出る。
仕事だからだ。
とは言え、まだ太陽の光はまだ残っているから、光を浴びないように厳重に厚着をして家を出る。
ヴァンパイアだからだ。
夏の間も、いや、夏の間だからこそ、帽子、目出し帽、サングラス、ロングコート、手袋などなど、完全武装で家を出る。
ヴァンパイアだからだ。
当然、警察官に呼び止められて職務質問を受ける。
見た目が怪しいからだ。
すぐに解放される時はいいが、長く引き止められると仕事に間に合わない。
そこでやむを得なく、本当にやむを得なく、警察官を人気のない場所に引き摺り込み、血を吸ったことがある。
ヴァンパイアだからだ。
そうしてヴァンパイアになった警官が、東京都に5人、福岡県に1人いる。
ヴァンパイア中野さんに血を吸われたからだ。

アンパイアのヴァンパイア中野さんは本当にヴァンパイアだ。
彼は普段は輸血用の血液を分けてもらい、飲んでいる。
ヴァンパイアだからだ。
どこで手に入れられるのかは教えてくれない。
ヴァンパイアだからだ。
今日もどこかで献血をしているそこのあなた。
その血液はやがてヴァンパイア中野さんの食事になるかもしれない。
「俺はヴァンパイアのために血を抜かれてるんじゃねぇ」
と思ったそこのあなた、ご安心あれ。
ヴァンパイア専用の献血と、そうじゃない一般の献血とをどう見分けるのかをここで教えて差し上げましょう。
ヴァンパイア専用の献血のスタッフは、語尾に「ヴァンパイア」とつけています。
「これから針を刺しまヴァンパイア」
みたいな感じで。
信じないなら信じないで結構。
せっかくのあなたの血をヴァンパイアに進呈すればよろしい。
そしてスタッフがほくそ笑んでいるのを知らずに、「俺は今日献血をしたのだ」と晴れやかな気持ちで帰ればよろしいのでヴァンパイア。

【糸冬】

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