雅子 vs 太陽。
2019年7月20日土曜日。
映画「モデル 雅子 を追う旅」公開6日前。
どんよりした天気が続いて太陽が恋しい。
夏生まれの雅子も、梅雨の最中はふさぎがちだったように思う。
「肌はイイんだけどねー」
と言いつつ頬っぺを指でうにうにしながら、
晴れない空を見上げていたこともある。
しかし梅雨が明けると、毎度雅子の奮闘が始まった。
屋上のオリーブに水をやる、と言って上がっていく雅子。
ついていくと、デカい帽子にサングラスに使い古しの長袖シャツ。
もちろん軍手も履いている。
カサカサと物置からホースを出し、水道につないで、
カサカサと階段口の庇の、陰の下に戻る。
そして、ノズルを「ストレート」に合わせ、
水圧を最強にして、屋上の向こう端にあるオリーブの鉢狙って、
「しゅびびびび」
と水を飛ばすのだ。
水圧が強すぎて、鉢の土が飛び散らかる。
「ダメ!近づいて優しくあげないと」
「だって、日に当たるとダメだもん!」
ホースをひったくって水流をゆるくして、
鉢に近づいて水やりをする僕の背後で、
雅子はふくれっ面だった。
週末にIKEAに行く。
タオルやら気になった雑貨をまとめ買いするつもりだったが、
雅子は何やらヘンなものを見つけた。
白地にオレンジの縞の、小さなパラソル。
竿の手元が球体になっていて、
クランプで傾き加減を調整できるようになっている。
帰宅してすぐ、雅子はそれをベッドの枠に取り付け、
寝転んで、パラソルが顔にちゃんとかかるかを確かめて、
「うーん……」と考え込んではまた角度を直す。
フンフン言いながら一生懸命やっている。
一緒に寝るとき、枕元から二人の間に、
にょっきりパラソルが生えているのだ。
差し込む朝日をどうにか避けようと。
しかし翌朝、
「ぬわっ!」という雅子の声で目が覚めた。
パラソルの角度は結局合わず、朝日が二人の顔に当たっていた。
当然雅子の機嫌は悪い。
そしてついに、
室内にスダレを吊るすほどになったのだ。
車の中でもイチイチ何かしている。
フロントガラスの上のバイザーをバタバタ動かし、
新聞紙をバッグから出して窓にかざす。
あまりにもうるさいので、
カー用品ショップでシェードを買ってやった。
けれど、「ここでサイドミラー見なきゃ危ない」
というところで、それを窓にかざしにかかるので、
ヤイヤイしっぱなしである。
美白を武器にするモデルの日常は、
実はそれほどスマートでもない。
最初のうちは「イチイチ面倒な人だな」と思っていたが、
そのうち「それも味だな」と思うようになった。
たしかに美しい人だけど、
美しい顔をしかめて肩肘張って、
太陽光に抗うために
不器用で鈍くさいままいろいろ試している様が、
滑稽なほど可笑しくて、愛らしくなってくるのだ。
それでも雅子は「夏が好き」と言っていた。
その夏が、もうすぐそこまで来ている。
今年の夏は、特別だ。