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お腹の"ここ"が痛いんです

※ エコー検査に従事する医療従事者向けの内容です。

みなさまいかがお過ごしでしょうか?今日は憩室炎について考えてみました。出会ったことのない稀な疾患のことを調べるよりもcommon diseasesをしっかり突き詰めて勉強することの方が建設的と思います。

今日の教材はこれ↓↓

どこが痛いですか?

実は、私、学部生〜大学院修士では痛みの研究をしていました。長くなるので、ここでは簡単に。

腹痛を痛みの局在(部位)から分類してみましょう。内臓痛、体性痛、関連痛の3つに分類され、説明されます。

部位による分類では、体性痛(体表の痛み)と内臓痛に大別されます。体性痛は鋭い痛みであり、大脳の体性感覚野へ投射され、局在がはっきりしています。一方内臓痛は鈍い痛みであり、投射部位はわかっていません。局在ははっきりしません。

日本ペインクリニック学会HPより

つまり、
体性痛 →  鋭い痛み,局在がはっきりしている。
内蔵痛 →  鈍い痛み,局在がはっきりしていない。

ということになります。虫垂炎でよく説明されますよね。今回は、憩室炎に関して考えてみましょう。

憩室ってなに?

憩室炎を語る上で、まずは憩室とは何かを知っておく必要があります。

healthline (https://www.healthline.com/health/diverticulitis#gallery-open)

こんなふうに大腸からポコっと袋状のものが突出します。これがいわゆる憩室です。憩室自体は別に大腸に限ったことではありません。メッケル憩室、傍乳頭憩室、膀胱憩室など他のところにもできます。

healthline (https://www.healthline.com/health/diverticulitis#gallery-open)

さらに、炎症の有無で憩室症/憩室炎と分けることができます。
diverticulosis (憩室症):炎症を伴わない
diverticulitis (憩室炎):炎症を伴う

憩室はなぜできる?

憩室には先天性と後天性があるのですが、大腸憩室は後天性です。発生原因としては腸管内圧の亢進が考えられており、腸管内圧上昇は便秘で起こりやすいです。ので、大腸憩室症は便秘と関係がある疾患とも言えるかもしれません(ただし、UptoDateには"However, studies have also shown that constipation and a low fiber diet are not associated with asymptomatic diverticulosis."とあり議論はある模様)。

憩室が生じる部位は大腸壁でも内圧の刺激に弱い血管筋層穿通部である結腸紐の両脇が多いです。下の図をご覧ください。筋層貫通部から憩室が突出しており、しかも憩室自体は固有筋層を欠いているいわゆる仮性憩室です。

https://step2.medbullets.com/gastrointestinal/120178/diverticulosis

憩室炎のエコー像の成り立ちを考える

さて、ここで本題ですが、憩室炎の成り立ちから超音波像を想像していきましょう。"大腸憩室炎 = 大腸憩室が炎症する" 所見をイメージしてください。そして、憩室炎という本態を紐解くと、憩室周囲炎とも言えるのです(UptpDateには"One theory posits that erosion of the diverticular wall by increased intraluminal pressure or inspissated food particles leads to inflammation, focal necrosis, and micro or macro perforation. This process is similar to what occurs in appendicitis."とあるも明確な裏付けはない模様)。

<憩室>
大腸憩室というのは大腸から発生するんでしたよね?ですので、大腸から突出する類円形の低エコー腫瘤を探します。ところが、炎症がない状態では憩室内には大腸のガスが混入していることが多いので、大腸内のガスと分離できず、憩室の存在がなかなか分かりにくいです。逆に炎症が生じると、異常所見として捉えやすくなってきます。
 炎症を起こしやすい憩室として糞石を内包している場合があります。その場合、突出する糞石の高輝度エコーの周囲に炎症が広がるように見えます。
 さて、先ほど、憩室炎の本態は憩室周囲炎であると書きました。大腸憩室は仮性憩室で壁が薄く破れやすい。つまり、憩室炎とは憩室に微小穿孔が生じ、内容物が漏れ出すことで周囲に炎症をきたす病態なのです。それを考えた場合、憩室炎で描出される低エコー腫瘤は憩室のみでなく、微小な膿瘍も含んでいると考えられます。したがって、炎症がない状態のときよりも若干大きな低エコー腫瘤になるはずです(*エビデンスはなく、個人の感想)。憩室炎をフォローしていると、徐々に低エコー腫瘤が小さくなり、最終的に責任憩室がどれが同定できなくなることはよくあります。

<炎症>
前述のとおり、憩室炎は憩室周囲の炎症であり、憩室から漏れ出した内容物に反応する炎症です。ですので、憩室周囲に脂肪織肥厚やfluidが出現してきます。このような脂肪織肥厚は、元々接していた腸管を押し除けるように塊状に肥厚し置換するので、病変が存在感を増して見えます(病変が周囲腸管から分離されてみやすくなるので、isolation signと言ったりする)。正常の腸管よりも異常の腸管の方が分かりやすい理由はここにあります。
 問題となるのが、膿瘍形成を伴う場合です。狭義の意味では、憩室炎が生じていればmicroperforationの状態なので、膿瘍は多少なりともあると思うのですが、ここでいう膿瘍は、「ある程度の溜まりとして描出される膿瘍(計測できるくらいの内部反射を伴う液体)」と思ってください。膿瘍形成の有無はコメントすべきですね。
 また、炎症の波及の表現型として、炎症憩室が連続する結腸の浮腫が生じたりします。

<体性痛>
 微小穿孔によって腹膜や腸間膜を刺激しているので、ピンポイントで「ここが痛い」と言えます。これも大事な臨床所見です。

まとめ

今回は少し長くなりましたので、所見についてまとめますね。
1. 大腸から突出する低エコー腫瘤 …憩室の存在
2. 憩室周囲に脂肪織肥厚とfluidを認める  …周囲炎の存在
3. 憩室に連続する結腸の浮腫 …炎症の波及
4. 膿瘍形成はあってもなくても   …治療方針に関係
5. 圧痛部と一致した1〜4の所見 …体性痛

ということになります。ポイントは憩室炎の本態は「憩室周囲炎」だということです。間違っているかもしれないので、これをきっかけとして色々と調べてくださいね!

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