腹部大動脈瘤のエコーとレモンの話
最近非常にタスクが多く、noteがなかなか作れてませんでした。今回は鹿児島超音波医学研究会でお話しした内容を一部抜粋してお話ししたいと思います。この内容に関しては私の個人の意見であり、所属や団体を代表する意見ではありません。ので、間違いはあるかもしれませんので調べてください(急に投げやり笑)。
腹部分枝血管の話をメインにお願いされるのですが、あまりにもニッチな世界すぎるので、大動脈の話も少しスライドに入れています。
腹部大動脈瘤は腹部エコーで描出可能な疾患
腹部大動脈瘤ですが,腹部エコーでまず検出可能と言っていい疾患です。実際に感度94-100%, 特異度98-100%という報告もありますし,基本的にはちゃんと腹部大動脈を見ていれば,見落とすことは想定されていないようです。
というのも、大動脈解離とは異なり、腹部大動脈瘤は条件がいい場所に好発部位があるからです。大動脈解離は中枢側から連続してくる病変であるため,腹部にflapが連続していたとしても,横行結腸や胃のガスで見えない場合があります。一方で,腹部大動脈瘤はお腹の浅い位置にやってきます(腰椎が前方に湾曲するのに合わせて)。
右の図はオペを想定して作られたAAAの分類ですが,腹部大動脈瘤のrepairは腎動脈を含むと難しくなる場合があるので,病変の局在からいくつかに分類されます。(これもpararenalの解釈によって微妙な違いがあるのですが,) 85%が腎動脈分岐以下の動脈瘤であり,基本的には紡錘状であればそこから中枢にどこまでかかるかという問題なので,現実的にはお臍の上に当てれば腹部大動脈瘤は大体描出可能です。
エコー検査の役割は?
ここで腹部大動脈瘤に対する超音波検査の立ち位置を見ていきましょう。腹部大動脈瘤は大きければ大きいほど破裂しやすいので,そのsizeをサーベイランスしていくことは重要です。先ほど述べました通り,エコー検査で簡単にわかるわけですから,まずはスクリーニングとしての位置付けがあります。そして,3cmあればCTサーベイランス,なければエコーフォローというのが流れです。では3cmから5cmは絶対にエコーフォローしないかといえば必ずしもそうではなく、現実的にエコーフォローはあり得る選択肢だと思ってます。
ではどうやって計測していくか?
このsizeサーベイランスを行なっていく際に重要なのが、エコーとCTの計測誤差を少なくするということです。今回は紡錘状瘤に限った話です。
腹部大動脈瘤の測り方に言及しているものは私が知りえる限り2つで,2020年改訂版大動脈瘤大動脈解離診療ガイドラインでは,まずは直交断面を正確に描出する。そして長径と短径を測る。そして,これが困難な場合、腹部エコー検査では前後径を指標にすると書かれています。一方で日超医の標準的評価法では縦横の外膜間径(外-外)を計測し、最大短径を瘤径とすると書かれています。なんか違うこと言ってるのかなあって思うかもしれませんが、実はほとんど同じことを言ってるんですね。いずれにせよ正確に直交断面を作成することが重要になってきます。
腹部大動脈瘤の計測に関する再現性をみた論文
1つ文献を提示します。これは腹部大動脈瘤をエコーで計測したときの検者間誤差と検者内誤差を検定した論文です。
コアを抜粋しますと,前壁と後壁での計測であれば検者内及び検者間再現性は3つの測り方(内内,外外,LE to LE)で有意差はないんですけど,TV平面(横,左右)での測定はAP平面(前後)での測定に比べ,統計的に有意に観察者内再現性が悪かったというものです。
また,他の研究ではCTとUSの差が少ないのは,外ー外での計測だという報告がありますので,それを加味すると,腹部大動脈瘤は前後径で測ることが最も再現性がよくて,かつ外-外で測ることが一番CTと一致するということです。
なぜ前後径が再現性が良いのか?
一方で,前後・左右に関わらず,最大径を瘤径とするのが理想であるという考え方もあります。この考え方は破裂のリスクは大きさに依存するというところから来ています。いずれにせよ、直交断面を正確に出すことが極めて重要になってきます。
ここでレモンの話をします。このレモンを何人かに包丁で正確にバスっと直交断面で切ってもらうことを想像してください。赤の線はとても上手な人が切ったラインです。一番右のこんな正円になりますよね。これが直交断面です。次はものすごく不器用な人が切ったラインを紫の線で示します。ものすごく不器用なので、前後径は器用な人が切った距離と変わらないのに、左右径は結構大きくなっているのが分かると思います。講演ではAAAを動画でずらしながらお見せすることで,前後径は変化ないのに対し,横方向はどんどん大きくなっていく様子を提示しました。もう1点は原理的な問題で、前後は入射された超音波が反射波を作りやすいのに対し、側面は作りにくいので境界不明瞭になりがちです。これも左右の再現性が悪い原因だと思っています。
計測までは理解した。では破裂すると?
計測までの話を終えましたが,ここからは破裂した場合のお話しになります。
破裂に関しては3つの種類に分類可能で,frank rupture,sealed rupture,切迫破裂の3つに分類できます。
・flank ruptureは動脈壁の完全な断裂でAAAの場合は後腹膜だったり腹腔内に穿破します。これが一般的な破裂ですね。
・Contained (sealed) ruptureに関してはエコーの画像所見を見つけることができませんでしたが,いわゆる慢性破裂で,シールされた状態なので,比較的安定した状態のようです。
・切迫破裂は今にも破裂しそうだが破裂はしていないと言う状況です。
Frank rupture に関して,outcomeを生存と死亡で分けた論文がありました。簡単に結論をご紹介しますと,
"後腹膜への穿破すれば出血量が少ないほど有意に生存が多い"
"ただし,これも出血量が多くなると生存と死亡の有意差はない"
"一方で,前壁側で破裂して腹腔内へ穿破してしまうと有意に死亡が多い"
とされています。
この研究から私が何を言いたいかと言いますと,後腹膜に穿破した場合はタンポナーデ効果によってある程度出血がコントロールされる時間があるので,(ショックバイタルを呈さず)エコー室に腹痛精査でやってくることはあり得るということです。
ですので、大動脈解離もそうですが、腹部大動脈瘤破裂も意外と見る機会がないかもしれません。造影CTがファーストチョイスになるからです。しかし、一定数漏れてきた患者をエコー室でみる可能性はゼロではないので、常に念頭に置いておかなければいけない重要な疾患と思います。