55日で特許を取得した記録

こんにちは、アスタリストの池上です。
以前、以下のnoteを書いたところ「このnoteの裏側を教えて欲しい」といったご連絡をいただきまして、複数の企業の方とお話しする機会をいただきました。更にそのうちの数社は実際に電子決済等代行業の登録を終えられており、少なからずお役に立てていたことを大変嬉しく思います。

これに味を占めて、RTA(Real Time Attack)の第二弾として今回は爆速で特許を取得した「特許RTA」の記録を残したいと思います。業務で特許に関わる方やこれから特許を取得されようとしている方のご参考になれますと幸いです。取得した特許の概要は以下のプレスリリースをご覧ください。


【免責】

本noteは個人の主観に基づいており、正確性を保証するものでも特許取得を保証するものでもありません。特許取得にあたっては、弁理士さんおよび弁護士さん等の専門家のサポート受けていただくことを推奨いたします。

【特許とは】

はじめに特許について。
KEIYAKU-WATCHによると、特許とは以下の権利を意味しており、これまでにない「発明」をすることが前提となります。世間一般に知られていることや過去に他者が特許取得されている内容では当然のことながら特許取得ができません。

特許法によって特許権をあたえることであり、「特許権」とは、特許を受けた「発明」について一定期間独占的に業として実施(使用・譲渡など)できる権利

KEIYAKU-WATCH

特許審査の流れや費用については特許庁の下記ページがわかりやすいので、ご興味のある方は覗いてみてください。


【経緯】

さて、弊社ではクラウド上で企業が利用するSaaS同士を連携することによって業務を自動化する「ActRecipe」というiPaaS(integration Platform-as-a-Service)を2019年8月から提供しています。「SaaSの利用が進むとiPaaSが必要になる」というシンプルな未来に向かって事業を行ってきたのですが、企業内のSaaS連携は最適化が進む一方で、企業間のデータのやりとりはメール・BoxやGoogleドライブ等のクラウドストレージによる共有・その他SaaSの利用・EDI等と手法が複数あり標準化や効率化が難しい状態でした。本質的にDXを進めるのであれば企業内だけでなく企業間の効率化も必要と考え調査をしたところ、該当するサービスや特許が存在しないことがわかったため特許取得に向けて動くこととなりました。

【事前準備等】

まずは特許情報プラットフォームにて類似の特許がないかを調べました。具体的には特定の文字列で検索をして該当する特許に全て目を通したのですが、同じ機構は見当たらなかったため特許出願を決めました
電子決済等代行業の登録はその道の専門家が少なかったこともあり自力で進めましたが、特許については専門家である弁理士さんに依頼すると決めていました。幸い過去に商標登録でお世話になった弁理士さんがいたため、まずは弁理士さんに特許の概要を理解していただくための資料作りから着手しました。具体的には、以下のような内容をPowerPointでまとめました。

  • 概要

  • 利用者のオペレーションステップ(リスト形式)

  • 処理フロー(図式)

  • ユースケース(図式)

全ての弁理士さんが依頼者の事業や領域の専門家ではないので、この資料の内容は非常に重要だと思います。(幸いにも依頼させていただいた弁理士さんは短時間で特許内容をご理解いただけました)

【特許取得のサマリ】

2022年 8月19日(x):着想を得る
2022年 8月24日(x+5日):弁理士さんに依頼
2022年 9月30日(x+42日):出願
2022年10月13日(x+55日):特許査定完了(この時点で特許取得確定
2022年10月13日(x+55日):分割出願
2022年10月28日(x+70日):分割出願の特許査定も完了

【55日で特許を取得した記録】

続いてDAY0からのアクションを全て追っていきたいと思います。

DAY0:着想を得る
DAY1:設計をする、ツイートをする
DAY5 :特許出願したい旨と作成したPowerPointを弁理士さんに連絡・送付。見積もり依頼&打ち合わせ調整、特許に関連する参考記事の送付
DAY6:打ち合わせ&フロー図v2を送付
DAY10:弁理士さんによる先行特許の簡易調査完了。弁理士さんへ補足情報提出。
DAY12:特許の範囲について電話およびメールで弁理士さんと協議
DAY13:弁理士さんとの間で出願戦略をFIXさせる
DAY26:弁理士さんより特許出願原稿のドラフト版を受領
DAY27:弁理士さんへ特許出願原稿のドラフト版のフィードバック
DAY31:弁理士さんより特許出願原稿の1.0版を受領
DAY39:顧問弁護士さんへの説明 (セカンドオピニオン)
DAY41:顧問弁護士さんからのフィードバック・弁理士さんに最終フィードバック
DAY42:特許出願資料のレビュー・特許出願完了(※)
DAY55:特許査定完了

【分割出願】
DAY55:分割出願案の受領とチェックとフィードバック、出願手数料・早期審査請求手数料および特許料等の振込(弁理士さんへ)、分割出願完了
DAY70:分割出願の特許査定も完了

スーパー早期審査を申請しました。

【まとめ】

今回は対象範囲を限定した本出願と対象範囲を拡大した分割出願の二段構えで出願をしました。これは弁理士さんの作戦で、本出願で対象範囲を広く設定してリジェクトされてしまうと面倒なので、コアとなる部分を本出願として拡張できる部分は分割出願としました。この手法には賛否両論あるようですが、私は専門家ではないので弁理士さんの方針に委ねました。
またスーパー早期審査を利用したことで審査期間が短縮されていまして、これは「設立から10年以内」等の条件を満たすベンチャー企業向けの措置なので大企業へは適用できません。そのため「55日で特許を取得」はベンチャー企業でしかできないということになります。
費用はざっくり90万円程でした。申請内容等によって前後するので一概には言えませんが、比較的安価な方ではないかと思います。今回は戦略的に分割出願を行ったのですが、一度の出願であれば若干費用を抑えることもできます。(結果として今回は分割出願が正解でした)
セカンドオピニオンはITに明るい顧問弁護士さんに依頼をしました。個人的には出願内容に納得をしていたので問題ないと思っていつつも、やはり百戦錬磨な専門家にチェックしていただくことは必要だと思いました。万が一、紛争に発展することも考えて顧問弁護士さんのレビューは必須かもしれません。
特許の範囲や内容によって特許出願や取得の期間は異なってくるので「早ければ良いというものではない」とは思いますが、特許が先願主義である以上、スピードは重要です。着手前は「特許は取得まで時間がかかる」という印象があったのですが、まさか2ヶ月かからずに取得できるとは思っていなかったので何事もやってみるものだと思いました。

【さいごに】

「発明」によってこれまで世の中に無いものを生み出すことは貴重なことであり、営利目的の企業だけでなく社会にとってもプラスです。ここ10年の特許出願件数は右肩下がりという残念な状況を改善するほどのインパクトを与えることは難しいのですが、小さな一歩が大きな前進に繋がると信じてイノベーションを続けることは大切だと今回の特許出願・取得を通じて改めて感じることができました。

発明家になりましょう!

それでは。

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