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シャ〇中兄ちゃん

昔住んでたアパートの隣りのアパートにはユニークな奴がいっぱい居た。
ロシア人、創〇学会員、ゲイ、引きこもり…
学会員の奴はよく行くラーメン屋で働いてて地元も一緒ってのが判明してからよく挨拶はしてた。

ある日、選挙の時期に知らん奴数人引き連れて家を訪ねて来たので何事かと思ったらそういう事だった。
変わってる奴だったが悪い人ではなかったのでよく喋ってた。
いつの間にかラーメン屋クビになって引越してったけど。(噂では客を勧誘してたらしい)


近所に24時間営業のスーパーがあって俺はよくそこで買い物してた。
ある日買い物を終え外に出ると駐輪場にいかにもヤバそうな兄ちゃんが立って居た。
細身で金髪、両腕に和彫り、ニッカポッカにタンクトップの格好したお兄ちゃんがこっちを見ている。

俺は目を合わさない様にチャリの鍵を解除した。
すると明らかに近づいて来てる。
あぁ〜めんどくせぇなぁと思ってると声を掛けて来た。


「すみません…あのぅ…」


「はい。」

見かけによらず細い声で恐る恐る声を掛けて来た。


「お兄さんバンドマンですか?」


「あ、はい。」

「あ、やっぱり!いつも見かけててカッコイイなぁって気になってたんですよ。」

「あぁ、ありがとうございます。」


それからどんなジャンルやってるのかとか色々聞かれて答えてると彼は最近バンドにハマったらしい。
なんかきっかけあるんですか?って聞いたら。


「あ、僕つい最近まで網走に居て、傷害と薬でパクられてたんすよ〜」

「あ、なるほど!」

「そん時にワンオクとかマイファスとか知って色々バンド調べる様になって…」


すると彼は小さいノートみたいなのを出して見せて来た。
そこにはバンド名とどんな音楽かみたいなのがびっしり書いてあった。
獄中は時間が有り余ってるからそういうのが彼の楽しみだったんだろう。

「今度良かったら飲み行きましょうよ!連絡先教えてください!」


俺は若干めんどくせぇと思いつつ連絡先を交換した。
数日後、彼が隣りのアパートから出て来るのに鉢合わせた。

「あれ?ここ住んでんすか?」

「お兄さんもここだったんすね!」

まさかの隣りのアパート住みだった(笑)


暫く立ち話しをした。
パクられる前に働いてた職場の親方が出所してからも面倒見てくれてこのアパートも親方が一室借りてて彼はこのアパートも出戻りらしい。

「めちゃくちゃいい親方さんですね。」

俺がそういうと彼は本当に嬉しそうに親方の話を続けた。
親方を本当に尊敬してるってのが伺えた。


それから暫くして夜突然電話があった。

「夜分遅くすみません…今から良かったら家で飲みませんか?」


突然だったのもあり、ダルかったので普通に断った。
でも暫くして、なんか可哀想な事したなぁと思い電話を掛け直した。


「やっぱ行ってもいいですか?1杯だけ…」


そういうと彼は驚きつつも、いいですよ!と言った。
俺はコンビニで発砲酒の6缶パックを買って彼の部屋にお邪魔した。


「すみません突然…」

「いや、こちらこそ急に誘ってすみませんでした。でも来てくれて嬉しいです。」


そう、彼は悪い奴ではあるが更生してるし何より純粋な奴だった。


1Kの狭い部屋は意外にも綺麗に整理されてていわゆる、野郎の1人暮らしの部屋のそれとはかけ離れていた。
まぁこれもムショでの習慣が出てるのかもしれないけど。
俺はビール2本くらい一緒に飲んで小一時間で切り上げた。
特に話したい事も無ければこれ以上居ても会話は弾まないし彼も気を使ってる感じだったから。
網走に居たという事は初犯で刑期が短期の人らしいが具体的に何をやったかまでは聞かなかった。
傷害事件を起こしてシャブに手を出してたって事しか知らない。


それから数ヶ月音沙汰無く近所で会う事も無くなってた。
ある日帰宅すると家のアパートの周りにパトランプ光らせながらパトカーが数台止まってた。
けど周りに警察も居ないし静かだったのでそのまま部屋に入ると暫くしてから話し声が聞こえて来た。
様子を見に外に出るとアパートの下で(家は2階だった)警察とあのお兄ちゃんが何か話してる。

え?あいつまたなんかやったんか?と思い聞こえて来る会話に耳を傾けると彼が警察に何やら説明している。

最初から聴いて無いから実際は分からないが内容はこうだった。
彼の部屋に空き巣が入ったらしく財布を取られたらしい。
それを彼が帰って来た時たまたま見かけ自分の財布を持った犯人を追いかけて行った。
その時の様子を警察に説明してる感じだったが何やら様子がおかしい。
本当に空き巣に入られたなら彼の部屋に鑑識が入ったり周りを調べたりするはずだが全くその様子が無く警察数名、皆が皆彼を取り囲んで話を聞いてる。
心做しか呆れた様子で彼の話しに耳を傾ける警察。
恐らくその時点で彼の虚言だって事に気付いて居たのかもしれない。
よくよく聞いてるとやっぱり言ってる事が支離滅裂だった。

俺はその時あぁこいつまたシャ〇やってんなと直感で思ってしまった。
出所して更生したと思ってたけど彼の周りにはまだ悪い奴が居たんだな。
それから彼は案の定連行され、それ以来見なくなった。
数ヶ月後彼の部屋には違う人が住んで居た。
あぁやっぱりか…
何故かちょっとだけ悲しい気持ちになった。
彼は出所してから真面目に働いてる様子だったし離れては居るが奥さんも子供も居る様子だった。
いつか完全に更生して家族で暮らすつもりだったんだろうなぁとか色々考えてしまって、まぁ誘惑に負けた彼が悪いのは間違いないが周りに居たこういう人間をカモにするもっと悪い奴を断ち切れなかったのが彼の最大の失敗だっのかもな。

ダメ。絶対!!

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