魔除けの面
今から30年以上昔の幼少時代、母に連れられ祖父母の住む室町の家へよく遊びに行った。
室町の家は昔ながらの京町家でいわゆる「うなぎの寝床」と呼ばれる造り。奥に長く、商家であるためか間口が広くてとても大きな家であった。
広い庭や二階建ての蔵、いろいろな場所を探険して遊んだ。
庭に面した十畳程の和室は「奥の部屋」と呼ばれ普段は誰も居らず薄暗かった。
この「奥の部屋」には気を付けなければならないことがあった。
隣の小部屋の柱に掛けられた古びた面が欄間の隙間からいつもこちらを覗いていたのだ。朱色地に大きな目が描かれたその面は、薄暗い部屋の角でじっと目を光らせいていて、今にも動いて話しかけてきそうで不気味に思えたのだった。
その存在に気付いてからはずっとその面が視界に入らないように気をつけながら部屋に入るようにしていた。
数十年経って「奥の部屋」について母に尋ねると「あそこにお面が掛けてあってこわかってん」と。あの面について同じ様な印象を抱いていたことを知った。
おそらく東南アジアかどこかで祖父が買ってきた土産物の「魔除け」で、祖母があそこに掛けたのだろうと言う。
大人も子供も怖がるようなものを何故あんなところに掛けたのだろうかと思ったが「魔除け」なのだから仕方がない。
そんなことを思い返していると先日、天神さんの骨董市であの面に似た面を見つけた。記憶にあるものより少し面長であるが、これもなにかの縁だろうと思い入手することにした。
調べていくと東南アジアではなく宮崎県の古い土産物で「魔除け猿」というものらしい。植物の皮を加工して面にしたものである。
猿の面と言われて眺めてみると、造りも素朴で愛嬌のある顔にも見えてくるが、掛けてみるとやはり怖い。「怖いもの」をわざわざ土産とする感覚も現代では理解しにくい感覚のように思う。
目に見えるもの見えないものに関わらず、さまざまな災いや魔物から家を護ってくれることを願ったのだろう。
(「宙の音」より)
展覧会のご案内
「宙の音」(そらのおと)
2024/1/23(火)-1/28(日)
11:00-18:00 入場無料
京都写真美術館2階
ギャラリー・ジャパネスク
(京都市営地下鉄東山駅下車徒歩5分)
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