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⑫「団体支援」人材を育てる・育つための施策案その1〜NPO経営・NPO診断のフレームワークの学習(見立て力を高める)〜

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。「NPO支援者育成試論」12本目の記事です。前回の記事では個別のNPOを支援する人のうち、特定の機能的な課題の支援を行う人材ではなく、団体全体の視点から支援を行う「団体支援」ができる人材が足りていないという問題意識に対するいくつかの仮説のうち「団体支援のやり方がわからない」というのが問題なのではないか、というところまで考えました。

今回からはこの「団体支援のやり方がわからない」という課題をどのように解消することができるかを考えていきます。わかりやすく言えばNPO支援のうち機能的な支援に留まらず団体支援を行う人材を育てるあるいは育つためにできることは何か、ということです。私自身が「団体支援のやり方がわからなかった」ところから様々な模索をした上で主に団体支援を行うような支援者に育ってきたと思っておりますので、私自身が経験してきたことの中から、今後NPO支援者を育てる・NPO支援者として育つということを考えた際に再現性が高いだろう、と感じているものをまずは二つ(できれば今回と次回の2回の記事で)お伝えします。

今回の記事でお伝えするのは「NPO経営・NPO診断のフレームワークの学習」です。

NPOがさまざまであるのは前提。それでも「良い組織」を考えることはできる

NPOの団体支援が難しいことの背景として、一口にNPOと言っても活動分野や組織の成り立ちによって非常にさまざまな考え方があり、一定の枠に収めて考えるのが難しいという点があると考えています。この点は、多くの団体・活動が営利組織・資本主義市場では解決が難しいニッチな社会課題に取り組んでいるという側面や、市民活動という非営利的で公益的で自発的な市民主体の活動という源流を持っているという側面があるというNPOの本質的な部分にも関わるものだと考えているため、大切にしなければならない前提だと考えています。

とはいえ、NPO法人に限ってもNPO法の設立から四半世紀以上が経ち、業界としても様々な活動分野、様々な活動形態の組織の事例が蓄積されてきており、組織としての運営の仕方や成果創出という側面から「良い組織に共通する考え方」のようなものは十分に考えられるようになってきています。そして、NPOが本質的に多様であったとしても、特定の目的のために人が集まったものである組織やコミュニティという観点で考えれば押さえるべきポイントや型のようなものはあります。今回ご紹介するNPO経営・NPO診断のフレームワークはそういったそうした基本となる型を知るという考え方です。

「良い組織とは何か」を考える視点としてのNPO経営・NPO診断のフレームワーク

さまざまな活動分野、活動形態、成り立ちの組織の事例が溜まってくる中で、良い組織とは何か、良い組織運営とは何かという問いや、自組織の課題はどこにあるのだろうかという問いに答えるための視座を提供するツールとして発達してきたのがNPO経営・NPO診断のフレームワークです。

代表的なNPOの組織基盤強化助成であるPanasonicサポートファンド for SDGsでは助成プログラム自体が「組織診断」と「基盤強化」の2段階に分かれており、初申請の場合にはまずは「組織診断」から実施(助成の申請)を行うことが推奨されているような構成となっています。組織基盤強化としてどんなことを取り組んでいくべきかということをまずは組織診断で見立てをしっかりと行うべきだという考え方ということです。

このように組織診断は組織基盤強化の前提として行われることが多くあるのですが、必ずしもPanasonicサポートファンドが助成対象としているような1年〜3年がかりの大掛かりな組織基盤強化の場合にしか使えないわけではありません。むしろより日常的に取り組まれているであろう、さまざまな機能的な課題を解決するための取り組みを考える際にこそ、組織診断的な視点で物事の優先順位の判断が行われることが望ましいと私は考えています。とはいえ、組織診断ツール使った診断を実際に実施するのはスタッフやボランティアへの診断アンケートを実施するなど手間も費用もかかるため、NPO側から相談をされた支援者がNPO診断的な視点を持った上でヒアリングを行った上で課題の見立てを行うということが重要になってきます。後述する診断ツールをしっかりと使うことが様々な検査を体系的に行う人間ドックだとするならば、NPO支援者によるヒアリング等を元にした見立ては医者による問診による診察ということができるでしょう。

問診や診断を行う専門家としてのNPO支援者側には、健康な組織とは何か?やどこに悪いところがありそうなのか?といったことを考え、伝えるための土台となる知識が必要だというのが本記事でお伝えしたいことです。医学生が臨床医学の前に基礎医学として解剖学や生理学を学ぶのは「健康な人体とはどういうものか」を学ぶ学問だと言えます。NPO経営・NPO診断のフレームワークはNPO支援における基礎医学にあたるものということもできるのではないでしょうか。

NPO経営・NPO診断のフレームワークの例

ではNPO経営・NPO診断のフレームワークにはどのようなものがあるのでしょうか。私自身はオリジナルのものを使っております※が、ここではNPO支援者を目指す人が学びやすい・使いやすいものとして一般に公開されていたり、サービスとして提供されているものをいくつかご紹介します。

NPOマネジメント診断

まず一つ目は寄付サイトの運営や助成金支援などの面からもNPO支援を行っている公益財団パブリックリソース財団さんが提供する組織診断ツールです。「マネジメント能力」「人材」「財務管理」「プログラム(事業)」「事業開発・計画能力、マーケティング」の5つの分野を扱っており、NPOマネジメント全般についての診断結果を明らかにすることができます。現在公式Webサイトの該当ページは改修中となっておりますが、NPOマネジメントの考え方について表した書籍の巻末付録に掲載されております。

ベーシックガバナンスチェックリスト

2つ目は公益財団法人日本非営利組織評価センターが提供するベーシックガバナンスチェックリストです。日本非営利組織評価センターさんはNPOの組織評価の推進を行っており、本チェックリストもその名の通り主に組織ガバナンス面のチェックを受けることができるものです。「ガバナンス」「情報公開」「会計・財務」「コンプライアンス」「組織の目的と事業」といった観点について団体の自己評価と、提出書類を用いた日本非営利組織評価センターによる第三者評価からなっており、チェックを受けた団体の診断結果がHP上に公開されているのが特徴です。立ち上げから間もない団体で組織基盤の強化を目指す場合には課題の整理を行うことができますのでオススメです。

コミュニティキャピタル診断

3つ目はNPOだけでなく、自治会・町会などの地縁組織やPTA、その他さまざまなサークル活動なども含めて幅広くコミュニティ活動の支援を行っている特定非営利活動法人CRファクトリーが提供するコミュニティキャピタル診断です。CRファクトリーが提唱する「強くあたたかい組織」の特徴を「理念共感・貢献意欲」「自己有用感」「居心地の良さ」の3つの因子から分析するもので主にコミュニティ運営や組織開発といった側面からの分析を行うことができます。上智大学との共同研究で開発された指標ということで、学術的な裏付けを持っています。また、他に診断を受けた全国のNPOの平均点との比較しながら自組織の特徴を知ることができる点や、診断のためにメンバーに受けてもらうアンケートの回答が10分程度で終わり負担感が少ない点も良い点です。ボランティアマネジメントが上手な団体や組織開発に力を入れているNPOでは毎年定期検診のような形で使い続けている団体も少なくありません。

※…私が利用しているのは私が独立以前に務めていたNPOコンサルベンチャーの株式会社PubliCoで使用していたもの(長浜洋二、山元圭太両氏のNPO支援の考え方を統合して作成されたもの)を、その後の私自身のNPO支援の経験を踏まえて改良を加えたものです

まずは一つのフレームワークを学ぶ

上記では3つの組織診断フレームワークをご紹介しました。それぞれに対象とする分野や特徴が違いますので、ご自身のNPO支援のテーマや関心に近いものをまずは一つ選んで習熟するのが良いでしょう。現在すでにどこかのNPOにボランティアやプロボノ・ボランティアをとして関わっていらっしゃるようであれば、上記でご紹介した診断のうち関わっていらしゃる団体の状況に応じて実際に受けてみるのが一番診断の考え方や活用方法について学びや気づきを得やすいでしょう。現時点で直接関わっていらっしゃるNPOがなかったり、関わっていてもその団体で診断を受けることは難しいというような場合には、診断を受けない状態でただ診断のチェック項目そのものを読んでもなかなか頭に入らなかったりイメージしにくかったりするかと思いますので、関連する書籍で学ぶのもオススメです。公益財団パブリックリソース財団さんのものはすでに書籍をご紹介しましたが、その他のNPO経営の考え方を学ぶことができるオススメの書籍をいくつかご紹介します。

『NPOの経営』(坂本文武)

『「社会に挑む5つの原則、組織を育てる12のチカラ」(「ソシオ・マネジメント」創刊号 増補改訂版)』(川北秀人 IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者)

『コミュニティマネジメントの教科書』(呉哲煥 特定非営利活動法人CRファクトリー代表理事)

また、ボランティアやプロボノ、あるいはNPOのスタッフとしてどこかのNPOに関わっている状況でしたら診断ではなく、NPOマネジメントや組織基盤強化について学ぶことができる研修等をNPOの方と一緒に受講するのもオススメです。この点については次回の記事でより詳しく解説できればと思います。

診断フレームワークを使って実際のNPOを診る視点(スコアが低い箇所は本当に解決すべき課題なのか?)

本日の記事ではNPO診断について学ぶことをオススメしましたが、学んだ上で実際にNPO支援にあたる際に一つご注意いただきたいのは必ず満点を目指さなければならないのか?という点です。日本非営利組織評価センターさんのチェックリストなどはガバナンスに関するものですので、法令を遵守した適切な運営を行い社会的な信用度を増していくためには基本的には満点を目指すのが良いといえますが、パブリックリソース財団さんの「NPOマネジメント診断」などはNPOマネジメントの幅広いテーマを包括していますので、組織の成り立ちやフェーズ、理想とする組織の姿や取り組んでいる課題や事業といったさまざまな側面を考慮すると、特定の項目においては点数が低いままで構わないというものも少なからず出てくるはずです。例えば目指すビジョンに基づいて中期計画や事業計画やそこに紐づく目標設定をどの程度明確にすべきかという問題や、メンバー間での役割分担や権限等の明確化をどこまで徹底すべきかという問題は診断ツール上では基本的に「明確にすべし」という判定(明確になっていないとスコアが低くなる)になりますが、この辺りはその組織が明確な社会課題解決に取り組んでいる団体なのか、それともスポーツや芸術を始め何か社会に対しての新たな価値の創出を目指している団体なのかといった側面によってそのあり方が変わってくる部分でもあり、後者のような特性を持つ団体に計画策定や目標設定を強要しても良い影響は与えられない場合が少なくないでしょう。意図せず低いスコアとなっている解決すべき「課題」なのか、それともあえて選択的に設計していたり意図した設計ではないが特徴的で強みといえるような部分なのかといった見極めや見立てを行う力がNPO支援者には必要です。NPO経営のフレームワークや診断ツールはそうした見立てを行うためのあくまでも基本の型として捉えた上で、目の前にいる人たちの姿勢や考えに寄り添う姿勢やリスペクトを持って関わる姿勢が何より大切だと思います。

以上、本記事ではNPO経営のフレームワークやNPO診断ツールがなぜ重要であり、どのように活用していけば良いのかといった点について考えてみました。次回は「伴走支援型連続講座」について考えてきたことを整理しながらお伝えできればと思っています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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堤大介
NPOコンサルや伴走支援者になりたかった数年前の私のような方に向けて仕事をする中で感じたことや考えたことを書いています。 支援者育成やNPO支援の仕組み化などに取り組んでいくために、もしいいなと思ってもらえたら、サポートしてもらえると嬉しいです。