大人のように扱いながら、子供でいられる時間も大切に。デンマークの教育に触れて学んだこと
今日のテーマは教育。幼稚園と小学校を訪問してきた。幸福な国と呼ばれるデンマークを支えている教育は、驚くほどシンプルで、でも強烈な思想だった。
1週間のカリキュラムは、生徒が自分で決める
0年生〜9年生の各学年のクラスを実際に見学させてもらった。まず驚いたのは、どのクラスでも講義がされていなかったこと。先生は、椅子に座って生徒を見守っていたり、個別の生徒の質問に答えていたり。日本でよく見る、黒板の前で一方的に話している先生の姿は一切なかった。
理由は、授業の進め方にある。
この学校では、毎週先生が各科目の到達目標を伝える。先生が主導してくれるのはそこまでで、どのように学習を進めるかは生徒に任される。数学の時間は数学をやるんだけど、数学のどの部分を学ぶかは生徒によって違うから、みんな開いている教科書のページが違って、黙々と自習してる感じ。
休憩時間をいつ取るかも任されている。1週間の合計時間だけ決められていて、それを何曜日のどのタイミングに配分するかは任される。
仮にその週の目標が達成できなさそうな場合、水曜日あたりで生徒が先生に相談する。その際に、「現状と目標の乖離」「乖離を埋めるための手段」「そもそも目標を変更するか」などを先生と対話して、自ら結論を出す。先生が答えを与えるのではなく、生徒に問うて、考えさせる。
これ、僕らが普段やってるレビューと一緒だなと。それを小学生のうちから日々徹底されているというのは、なかなか衝撃的ではないか。君たちならできる、と信頼され、任される。子供はその信頼に応えようとして、自ら考え、行動する。素晴らしい関係性。
先生に聞くのは最後の手段。生徒同士で教え合う
どのクラスにも、どうしても学習の速度が上がらない子、周りの子に遅れを取ってしまう子がいる。彼らのサポートをどうするか。
これは、クラスの中でグループ分けをすることで解決しているらしい。学習が苦手な子を各グループに割り振る。逆に得意な子も割り振る。で、そのグループの中で、全員がその週目標を達成できるように、サポートし合う。
得意な子は率先して教える。すると、苦手な子から感謝され、喜びを感じる。それがモチベーションとなって、またいち早く次の課題をクリアして、苦手な子に教える、という循環。
これだけでもすごく良い取り組みだと思うが、もう一つ。先生の負荷軽減にも繋がっている、というのが面白かった。
学習が苦手な子のサポートを先生が担ってしまうと、クラス全体を見ることが難しくなる。特にみんなやっていることがバラバラの場合、質問も様々で、全部対応しているとあっという間に授業の時間が終わってしまう。だから、先生に聞くのは最後の手段、としているらしい。基本は生徒同士で質問し合い、解決する。教え合っている様子を先生が見守り、必要であればサポートに入る。
あと、「サイン」の話もよく考えられていて。
生徒は「青・黄・赤」のサインを机の上に置く。青は順調、黄は他の生徒にヘルプを依頼するかも、赤は先生にヘルプを依頼するかも、の合図らしい。だから、助けが必要な生徒の存在は、他の生徒や先生から一目でわかるようになっている。
仕組みの秀逸さに驚いた。
学校も、自治体の運営にも関われる。子供が大きな役割を担える委員会制度
最も印象的だったのは、この「委員会制度」。生徒会のようなものらしい。4年生〜9年生の、各クラスから1名ずつ。会議の前には、0〜3年生の各クラスを周り、議題に対して何か要望がないかを必ず確認する。
委員会の役割の1つは、学校運営に携わること。例えば、携帯禁止の制度や、学校内にソファなどの寛げる家具を置く、といった意思決定がこの委員会で提案されて採用されたんだって。これはまあ、日本でもありそう。
驚いたのはもう1つの役割。それは、学校を代表して、他校の委員会と議論をするということ。しかもテーマがすごくて。ここで決めるのは、「自治体の予算を各学校にどういう配分で割り振るか」なんだって。自治体の予算を割り振るって、、しかもそれを生徒だけで決めるって、、ちょっと想像つかない。
彼らは、お互いの学校の現状を共有し合い、自分たちよりも他校の方が困っていると思ったら、その学校への予算配分を増やすことに同意するし、一方でこれは自分たちとしては譲れない、という点に関しては、その理由をいろんな角度で主張する。で、最終的に着地させるところまでが生徒の仕事なんだと。
それぞれが学校の代表者。この予算次第では、新しい遊具が導入されることもあったりして、当然生徒たちは喜ぶ。そんな期待を背に、各学校を代表する生徒たちが集まり、お互いの主張を共有し、議論し、妥協点を見つける。
先日、デンマークの政治は、9つの全政党が話し合って意思決定をするという話を伺った。イデオロギーが異なる政党が議論して合意形成するというのは想像できないぐらいの難易度だと感じたが、それを実現できるのはこういった子供の頃の経験があるからなんだろうなと、納得した。
子供が子供らしくいられることも大切に
でも、彼らはまだ子供である。子供として振る舞える貴重な時間なんだから、思う存分遊びなさい、という思想も持ち合わせている。
例えば、基本的に宿題はない。今日の学校は、毎日20分の読書をすることが宿題らしいけど、これは学校にいる間に終わらせてしまいなよ、と先生たちは伝えるらしい。
ある授業では、子供たちがYouTubeの音楽を流しながら工作をしていた。「最近の子供たちはセンスが良いんだよ」と先生が笑顔で話してくれた。楽しむことが一番。自分たちがやりたいようにやって、その中で興味を持ったことについて調べて、チャレンジして、経験する。この一連が大事だから、まずは楽しむことがスタートなんだと、教わった。
子供を信頼して大きな役割を任せる文化と、子供が子供らしくいられる時間を大切にする文化。こういう土壌があるからこそ、成熟した大人が多いんだろうなと思った。
まずは、大人を大人扱いできる社会に
今日も一日刺激的すぎて、なかなか消化するのも難しい。ひとまず今の自分にできることは何かを考えた時に、日本の教育を変える、ではないなと思った。いずれは必ずチャレンジしたいけど、今ではない。
今の自分にできること。その一つは、大人扱いされている大人を増やすことなんじゃないかなと思った。
メンバーのことを信じて、ルールは最小限に抑えて、任せる。彼らがやりたいことを実現できる環境を作る。
働く場所や時間は自分で決めて良いし、休暇の日数やタイミングも調整してくれれば制限などなくて良い。給与は会社の業績や自身のパフォーマンスを考慮して自己判断してくれて良いし、新しい制度は勝手に作って良い。
大人を大人扱いするとは、信頼して任せる、と同義だと思った。当然、全てを許すということではなく、意見が異なる時は対話すれば良くて。あなたならできる、と信じて任せサポートする、みたいなマネージャーが増えたら、やりがいを持って働く大人も増えそうだな、と。
で、その感覚を体感した大人は、自分の子供にもそうやって接してくれるかもしれなくて、遠回りで弱いかもしれないけど、日本の教育が良い方向へ変わることに僅かでも貢献できるかもしれない。
とにもかくにも、デンマークの魅力の根元に触れて、教育の価値を実感した、素晴らしい一日だった。
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