Chick Corea / Return to Forever
2004年8月20日に他のサイトへ掲載した原稿を加筆修正しました。==================================
フリージャズ以降のピアノ・トリオのスタイルを築いたとも言えそうな名作『Now He Songs, Now He Sobs』(1968年)の制作後、”音楽学院”とも言えるマイルス・デイヴィスのバントに参加したチック・コリアは、そこで「フェンダー・ローズ」と呼ばれるエレクトリック・ピアノ(以下はエレピ)の腕を磨く。
そして同学院の先輩・ハービー・ハンコックを見習うかのように、まるでジャズ界の大気圏からの脱出を試みるような、非ジャズ的なアルバムの制作に着手する。それは音楽面だけではなく、アルバムのジャケット面も含めて、だ。
その時に生まれたのが、"カモメのアルバム"として知られる『Return to Forever /リターン・トゥ・フォーエヴァー』。
このアルバムのポイントは非ジャズ的なジャズだから、このアルバムの魅力をたっぷり味わえるのは、”刺身のツマ”的な最初の二曲の後から始まる、ヴォーカル入りの爽やかなナンバー《What Game Shall We Play Today》から。作曲:チック・コリア、作詞:ネヴィル・ポッターのポップな曲をフローラ・プリムが可憐に歌いあげる。
そしてこの《What Game Shall We Play Today》を拡大・拡張した曲が、このアルバムで最大の聴きどころである《Sometime Ago - La Fiesta》。
この曲を大まかに分割すると、浮遊感漂うチック・コリアの見事なエレピのソロ、跳ねて弾けるスタンリー・クラークのベース・ソロにジョー・ファレルのフルートが加わる。まるでリスナーを焦らすように長い間を持たせた導入部が第一部。
小気味良いサンバのリズムが刻まれ、フローラ・プリムが「Sometime Ago... 」と歌い始める、ポップな中にも見事なアドリブを含んだ部分が第二部。軽いサンバのリズムに乗って、ゆったり歌うフローラのヴォーカルはたまらなく魅力的だ。
チックの静かなソロから第三部の La Fiesta (スペイン語で「パーティー」のような意味)が始まる。突然、お祭りの始まりを告げるかのようにカスタネットが乱打され、チック・コリアのエレピ、ジョー・ファレルのソプラノ・サックス、スタンリー・クラークのベースにアイアート・モレイラのドラムが絡み合い、怒涛のノリを生み出し、見事にアルバムを締めくくる。このアルバム以降、チック・コリアの十八番となる”スパニッシュもの”の原型をこの第三部で聴くことが出来る。
この"カモメのアルバム"の成功に気を良くしたのか、チック・コリアは同じメンバーで『Light as a Feather / ライト・アズ・ア・フェザー』を制作、翌年にリリースする。
どうしても二番煎じ的なイメージが強いが、前作と比べてもそれ程見劣りするものではなく、どちらかといえば二枚で一組みたいな印象だ。アルバムには《アランフェス協奏曲》のイントロを使ったチック・コリアの代名詞的とも言える”スパニッシュもの”《Spain》や《Captain Marvel》などが収録されている。
ところでジャケットの羽根は前作のジャケットのカモメが落としていった羽根なのだろうか?
その後、チック・コリアはもう一人のあまりジャズ・ジャズしていないヴィブラフォン奏者、ゲイリー・バートンとのコンビで 『Crystal Silence / クリスタル・サイレンス』という名盤を残す。アルバム・タイトルになっているのは『Return to Forever / リターン・トゥ・フォーエヴァー』に収録されている曲《Crystal Silence》から。
何はともあれ、この辺りのチック・コリアのアルバムを聴く時には、よく冷やしたブルゴーニュ産の白ワインでも飲むのがオススメ。
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