Mike Oldfield / Tubular Bells
2004年6月30日に他のサイトへ掲載した原稿を加筆修正しました。==================================
これはマイク・オールドフィールドのデビュー・アルバム。
二十歳の若造(?)が、未だ無名だったリチャード・ブランソンが提供したスタジオに1972年11月から翌春まで籠り、様々な楽器を一人で演じ、2000回以上も多重録音を繰り返し、根気よく創り上げたのがこのアルバム。
「天才」と呼ばれるには、一瞬の”閃き”だけではなく、地道な”根気”を伴う作業が必要なのだという事を実感させる。
タイトル曲の《Tubular Bells》は、1973年・暮れに封切られた映画『エクソシスト』(監督:ウイリアム・フリードキン)のテーマ曲として使用され、映画の世界的な大ヒットと共に、この曲もヒットした訳だ。
そしてこのアルバムはリチャード・ブランソンが立ち上げたばかりのヴァージン・レコードにとってもデビュー作だった。このアルバムの大ヒットでバージン・レコードはその基盤を築き、ブランソン自身も実業家として名を馳せることになる。
オカルト映画の代表作的『エクソシスト』に使われた曲と言うと、何かおどろおどろしいサウンドを連想するかのしれないが、《Tubular Bells》はトラッド・フォーク風テイストを上手く取り入れ、まるで秋の落ち葉が舞うような、リリカルな優しさと切なさを醸し出しながら、同時に教会音楽のような清らかで神秘的な雰囲気をも醸し出す。それは見事な構築美を誇る、音の伽藍のようだ。
マイク・オールドフィールドが様々なサウンドの点描で描き出した《Tubular Bells》はプログレッシブ・ロック、現代音楽の一つの到達点。
未だ無名だったマイク・オールドフィールドの才能と作品を認め、躊躇なく契約したリチャード・ブランソンの慧眼にも恐れ入るが、無名の曲を映画のメイン・テーマ曲に使ったウイリアム・フリードキン監督のシャープな感覚にも脱帽。