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Ramones / Ramones

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Ramones / 1976

「作用反作用の法則」というものがあるそうだ。

70年代半ば、ハード・ロックやプログレッシブ・ロックがマンネリ化した様式美を築いた頃、またAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)系がもてはやされていた頃、ラモーンズは一心不乱、ひたすらギターをかき鳴らすシンプルなロックをひっさげて登場した。

間延びする長尺の曲は一切なく、ほとんどの曲は2〜3分程度。複雑な音楽性はなく、使うコードは3〜5種類程度。ピッキングによるソロやアドリブは無く、ダウンストローク一本槍のギター奏法。

演奏テクニックや曲の構成力などが重視されていた70年半ばのロックシーンに対する”反作用”として、ロックが本来持っていた直情的な攻撃性を取り戻すべく、ある種の”揺れ戻し”としてパンク・ロックはニューヨークで生まれた。

そしてラモーンズなどの影響を受け、イギリスでも同様のパンク・ロック・バンド、セックス・ピストルズなどが登場し、70年代後半のロックシーンを席巻することになる。

英国産のパンク・ロックには反体制的な臭い、政治的なメッセージ性が強く漂うが、本家(?)ラモーンズの曲には、《I Wanna Be Your Boyfriend》、《I Don't Wanna Walk Around with You》、《Now I Wanna Sniff Some Glue》(接着剤を嗅ぎたい)《Beat on the Brat》(ガキをぶん殴れ)など、ラブソングや日常生活でのヤバさを歌ったものが多い。

またラモーンズのファッションは、英国産のパンク・ロッカーたちのような尖った、ギミック感たっぷりで、これ見よがし的で挑発的なファションとは無縁で、長髪に黒い革ジャン、そして破れたジーンズにスニーカーという、場末感漂うシンプルで古風(?)なものだ。

英国産のパンク・ロックは荒っぽいストレートなサウンドに反社会的なメッセージを乗せ、そして特徴的なファッションと一緒に打ち出すことで、逆説的ではあるが、表現に於ける芸術性を獲得してしまう。それはパンク・ロックが一番嫌っていたもののはずだが。

メンバー全員が Ramone 姓を名乗るなど、いささかコミカルで単純、毒舌ながらもちょい馬鹿げたバンドだったラモーンズこそ、本来的なパンク・ロックの精神を、芸術性から離れたところで、持ち続けていたのではないだろうか。

「ヘイ!ホー!レッツ・ゴー!」威勢のいい掛け声から始まる《Blitzkrieg Bop》から始まる『Ramones / ラモーンズの激情』は余分な脂肪部分を、それが旨味となる場合もあるが、削ぎ落としたシンプルな赤身のステーキのような味がする。調味料は塩と胡椒のみ。

一曲だけつまみ食いするのではなく、アルバム一枚・ステーキ一枚、丸ごと味わうと、その美味しさが判るだろう。

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