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棲家の遍歴・その12 / フランス、パリ郊外① / 間取リックス&住マップ

2010年8月3日に他のサイトへ掲載した原稿を加筆修正しました。==================================

間取リックス:
Rue des Blondeaux 94240 L'Haÿ-les-Roses /
ライ・レ・ローズ市、ブロンドー通りの家

Rue des Blondeaux-間取り

1981年の夏から1990年の夏まで、パリ郊外の古い一軒家に住んでいた。

大学での勉強を終えて、働くようになってからも数年間住んでいた。

かつては大家さんの母上がお一人で長い間住んでいたらしい。しかしその母上が亡くなり、それ以来ここ数年、この古い家には誰も住んでいなかった。

大家さんはこの家を貸したかったが、なかなか借り手が見つからなかった。

その理由としては、とても古い家だけに、第一次世界大戦前に建てられたらしい、かなり傷んでいた。それに不便な間取りで、シャワーすら無い。

また箪笥やベッド、テーブルなど、大家さんにとって思い出深い、多くの家具がこの家に残されていた。すぐには引き取れないので、これらの家具を2部屋に残したまま、大家さんはこの家を貸したかった。

大家さんの父上は家具職人で、この家の半地下を家具制作用の工房にしていたらしい。

このような条件で借り手を見つけるのは難しい。しかし誰かが住まないと家も傷むし、家具にも良くない。誰か借り手はいないものか・・・。出来れば誰か信頼のおける人に住んでもらいたい・・・。

大家さんと私の友人のご両親が親しい間柄だったので、この話が信頼のおける(?)私のところに回ってきた。

古い家で悪条件だから家賃は形だけの激安(1万円程度だった!)。

即刻、私はこの古い家を借りることにした。

半2階を勉強部屋に、半1階を寝室に使うことにした。しかし1階のトイレに行くには半地下を経由しなければならない。これは不便! 風呂もシャワーも無いので、髪の毛は台所で洗うしかない。これも不便!

ちなみに体を洗うには、台所でタオルで洗うか、近所の市営温水プールへ行き、ひと泳ぎした後、シャワー室で洗うしか方法はなかった。

夏休みの間に、私は自分が使用する部屋や台所、半地下、トイレを徹底的に補修した。ドアや窓枠、壁を修理し、古い壁紙を剥し、ペンキを塗り、なんとか小奇麗にしたが、家中の至るところから古い家特有の “カビ臭い匂い” が滲み出ていた。

また裏には広い庭があり、そこにはサクランボの木が2本、大きな胡桃の木が1本あった。サクランボと胡桃は食べ放題だった。野いちごも少しばかり採れて、これも食べ放題だった。

不便なところも多かったが、激安家賃のお陰で慢性的な金欠病も小康状態となり、お小遣いにも多少余裕ができた。ロックやジャズを再び聴き始め、悪友の影響でモーツァルトやストラヴィンスキーなどクラシックを聴き始めたのもこの家に住み始めてからだ。

住マップ:
21 Rue des Blondeaux 94240 L'Haÿ-les-Roses /
ライ・レ・ローズ市、ブロンドー通り 21番地

都心と郊外を結ぶRER(Réseau Express Régional) / 地域急行鉄道網を使うと、パリの中心地、Châtelet-Les Halles / シャトレ・レ・アールまで約20分程度で行ける、典型的なパリ近郊の街だった。

私が住んでいた古い一軒家は既に取り壊され、今はそこに小奇麗な家が建っている。しかし周辺の長閑な雰囲気は以前のままだ。

近所には見事なバラ園を誇る大きな公園があったり、静かな住環境には一切文句は無かった。

しかし RER の最寄駅、Bourg-la-Reine / ブール・ラ・レーヌ(左・上)までが遠く、これには開口した。約1.5キロ、歩いて約20分の道のりだった。

駅前のスーパーなどで買物を終えた後、荷物を持って20分も歩いて帰るのは難儀だった。また仕事で疲れた後、駅から20分も歩いて帰るのは億劫だった。

駅前から家の近所までバスも通っていたが、日本と違い、フランスのバスの時刻表は全くあてにならない。運行時間に関しては実にルーズでアバウトだった。

またフランスは労働組合の影響力が強い国だけに、交通機関のストは頻繁に起こった。

1988年の1月頃、寒い冬の最中に大規模なストが起こり、電車や地下鉄、バスなどが長期間ほぼ全面的に動かなくなった。

その時、ミッテラン大統領は強権を発動し、なんと郊外とパリを結ぶ主要国道に陸軍の兵員輸送用大型トラックを配置し、バスの代わりに運行させた。

私も何度かこの兵員輸送用大型トラックに乗ってパリまで通った。幌の隙間から流れ込む風が冷たく、木製の椅子は硬かった。

パリに辿り着くと近くのカフェに飛び込み、そこでCalvados / カルヴァドス(林檎を原料とする蒸留酒)をきゅっと一杯呷って体を温め、会社までトボトボ歩いて通った。

ちなみに大型トラックへの乗降時、ガード役として同乗していた兵士たちは若い女性たちに大変親切だった。

乗る時はお尻を押し上げながら、そして降りる時は手をとりながら、または抱きかかえながら、彼女たちの乗降をアシストしていた。

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