二人の監督：西本幸雄と野村克也

もうすぐ始まるWBCで日本の前に立ちはだかる国はどこでしょうか？アメリカ、ドミニカ、それとも韓国？ やはり強敵の存在はレベルアップに欠かせません。体力や技術だけではなく、知力も総動員して戦わなければ勝てません。野村克也は西本幸雄が率いる阪急ブレーブスと競い合いうことで野球IQに磨きをかけました。

2003年11月7日に他のサイトへ掲載した原稿を加筆修正しました。==================================

西本幸雄と野村克也は同じパ・リーグでほぼ同じ時代を生きた。

西本幸雄は阪急ブレーブスの監督として、野村克也は南海ホークスの守りの要、キャッチャーとして、また監督として、二人の闘いは60年代から70年代前半まで続いた。

1960年から1973年までの間、阪急ブレーブスが5回（いずれも西本監督）、南海ホークスが5回（鶴岡監督が4回、野村監督が1回、キャッチャーは常に野村）パ・リーグで優勝している。

そ して川上哲治が率いる読売ジャイアンツの9連覇が1965年から始まった。アンチ巨人派には未曾有の暗黒時代が訪れたのだ。

この間に阪急と南海が合計8回 も日本シリーズでジャイアンツに挑む。だが阪急も南海もことごとく敗れ去った。それもシリーズ第7戦目までもつれ込むことは一度も無く、2勝をあげるのが関の山だった。

＊ ＊ ＊ ＊ ＊

9連覇の時代は “巨人・大鵬・玉子焼き” の時代でもある。

多くの野球人にとって巨人こそが憧れのチームであり、また倒すべきチームでもあった。セ・リーグの各チームは公式戦の期間中、巨人と戦うことが出来た。しかしパ・リーグのチームにとって、打倒・巨人とはリーグ優勝を果たし、その後に日本シリーズでの対戦という図式しかなかった。

また巨人の人気で支えられていたセ・リーグとは異なり、パ・リーグはあまりにも人気が無かった。実力派の阪急ブレーブスですらそのユニフォームの色から “灰色のチーム” と呼ばれていた。満員の甲子園から15分たらずの所に位置する阪急ブレーブスの本拠地、西宮球場ではいつも閑古鳥が鳴いていた。

西本や野村にとって、圧倒的な実力、そして全国区的な人気を誇る巨人を倒す機会を得るにはリーグ優勝が欠かせない。日本シリーズで巨人を倒すことがパ･リーグの野球人として最高の栄誉だったのだ。人気では負けても実力では負けない姿を見せることが悲願だったのだ。

こうして当時のパ・リーグを代表する関西の2チーム、阪急ブレーブスと南海ホークスは日本シリーズでの巨人戦に辿り着くため、お互い知恵を絞り、しのぎを削った。

考えろ！

阪急ブレーブス VS. 南海ホークスの闘い、その知恵くらべが今日のID野球の原点でなないだろうか？

野村は名将・鶴岡監督の下で自分に足りないセンス、パワーなどを補う為にデータを活用した戦術を練り始める。それは自分を弱者として批判的に捉え、それでも強者に勝 つためには何をするべきか？ とういう問いから始まっている。キャッチャーの目から相手投手のクセを見つけだし、それを元に打ち崩すなど、そんな努力は1965年、戦後初の三冠王として結実する。

話は横にそれるが、75年に大活躍した阪急ブレーブスの速球派投手、山口高志のクセを見抜き、打ち崩し、そして結果的に山口を “潰した” のは当時南海ホークスのキャッチャーと監督を兼務していた野村だ。

非力な南海ホークスと自分が強者である西本・阪急ブレーブスに対して、そしてそれ勝るとも劣らない強者である川上・巨人に対して如何に戦い、勝利を納めるか？ それが野村の課題であった。

そんな野村の野球観に決定的な影響を与えたのが宿敵・阪急ブレーブスの二塁手、ダリル・スペンサーであり、南海ホークスの二塁手、朋友ドン・ブレイザーだ。

＊ ＊ ＊ ＊ ＊

ダリル・スペンサーはセントルイス・カージナルス、ロサンゼルス・ドジャース、やシンシナティ・レッズを経て1964年に阪急ブレーブスに入団する。

ドン・ブレイザー（本名：ドン・リー・ブラッシンゲーム）はシンシナティ・レッズ、ワシントン・セネタース（現：テキサス・レンジャーズ）、そしてカンザスシティ・アスレチックス（オークランド・アスレチックス）を経て、ダリル・スペンサーから遅れること3年後の1967年に南海ホークスに入団する。

この二人の二塁手、二人のメジャーリーガーが日本野球に与えた影響はあまりにも大きい。