Albert Ayler / My Name Is Albert Ayler
アルバート・アイラーほど数奇な人生を送ったジャズマンはいないのではないだろうか?
1936年7月13日にオハイオ州に生まれたアイラーは軍隊生活の後、志向していた音楽が当時のアメリカのジャズ・ミュージシャンと反りが合わなかったため、活動の場をヨーロッパに求め、彼は軍務中フランスに駐在していたことがある、1962年にスウェーデンに移住する。
『My Name Is Albert Ayler / マイ・ネーム・イズ・アルバート・アイラー』はスウェーデンの南隣り、デンマークはコペンハーゲンのラジオ局にて1963年に録音されたもので、タイトルからも分かるように、アルバート・アイラーの実質的なデビューアルバムだ。
アルバムはアイラー本人による朴訥な自己紹介、約1分程の《Introduction by Albert Ayler》から始まる。それまでの人生が語られ、自分を受け入れてくれたスカンジナビアの人々への謝辞が述べらる。そして最後に、
「私がここに来る間、私はとても自由に感じます、本当に自由に感じます... いつの日か、すべてが本来あるべき姿になるでしょう...」
"While I come over here, I feel quite free, really free I feel... One day everything would be as it should be..."
意味深なメッセージを残しながら、ソプラノサックスが軟体動物のように畝る衝撃的な《Bye Bye Blackbird》が始まり、チャーリー・パーカーの名曲《Billie's Bounce》へと続く。まだ尾骶骨にハード・バップ風の香りが漂うが、アイラーのぐにゃぐにゃ曲がりくねる、”アイラー節”とも言える特徴的なテナーサックスはここでも聴くことがができる。そしてその特徴が凝縮したのが、ガーシュウィンの名曲《Summertime》でのプレイ。アイラーのテナーサックスは悲哀に満ち、悶え、咽び泣く。
冒頭の《Introduction by Albert Ayler》を除くと、このアルバムには合計5曲が収まれれているが、その中でアイラーのオリジナル曲は最後の《C.T.》のみ。この曲では既にアイラー流のフリージャズのスタイルがほぼ確立されている。
このアルバムでアイラーのバックをサポートするピアノ、ベース、ドラムは全員デンマークのミュージシャンたち。その中でも特筆すべきはベースのニールス=ヘニング・エルステッド・ペデルセン。《Bye Bye Blackbird》や《On Green Dolphin Street》では素晴らしいアルコ奏法を披露している。
アイラーはこのアルバム制作後にアメリカに戻り、ニューヨークに定住し、そこを根城に活動することになる。
そして1966年にはジャズ・レーベルとしては準大手のインパルス!レコードと契約を結び、翌年には《Albert Ayler in Greenwich Village》をリリースする。しかしその後は、アイラーが師と仰ぐジョン・コルトレーンからの悪影響(?)か、いささか妙な精神的世界のドツボにハマり込み、1969年には『Music Is the Healing Force of the Universe 』(音楽は宇宙の癒しの力である)のようなアルバムをリリースする。
そして1970年11月5日にアイラーは行方をくらまし、11月25日にニューヨークのイースト・リバーで死体として発見された。自殺と推定されているが、ギャンブルか麻薬のトラブルでギャング達に捕まり、冷蔵庫に詰め込まれてイースト・リバーに投げ捨てられたとする、都市伝説的な”マフィア関与説”もある。
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