Charlie Haden / Liberation Music Orchestra
2004年8月20日に他のサイトへ掲載した原稿を加筆修正しました。==================================
これは冗談か?
アルバム名からして「本気かよ~」と突っ込みたくなる。“解放音楽楽団” なのだ。ジャケットを見ると、大勢のミュージシャン達が大きく “解放音楽楽団” と記された幕の下に集合・団結しているではないか。
曲名も凄いのが目白押し。《Song of the United Front / 連合戦線の歌》、《Song for Che / チェ・ゲバラに捧げる歌》、《War Orphans / 戦争孤児》、いやはや聴く前から尻込みしそうな曲名だ。
これは冗談ではなく、左端で堂々とポールを支える名参謀役でアレンジャーのカーラ・ブレイと、右端で恥ずかしそうにポールを支えるチャーリー・ヘイデンの二人が作り上げた、シリアスなコンセプト・アルバムだ。
このアルバムを作るきっかけはチャーリー・ヘイデンがスペイン内戦当時の歌などを聴き、感銘を受けたことからで、このアルバムの冒頭で組曲風に演奏される《連合戦線の歌 / 第5連隊 / 4人の将軍 / 第15旅団万歳》などは、第二次世界大戦の前哨戦と捉えられるスペイン内戦に由来したもの。ドラマティックな展開の中にノスタルジックでもの哀しい雰囲気を醸し出している。
チャーリー・ヘイデンのベース・ソロが素晴らし《Song for Che / チェ・ゲバラに捧げる歌》ではキューバ革命の功労者の一人、チェ・ゲバラが同国を離れる際に謝辞としてカルロス・プエブラが作詞・作曲した《Hasta Siempre》(スペイン語で”永遠にさようなら” 演奏:Carlos Puebla Y Los Tradicionales)の一部が効果的に挿入されている。
そして1968年シカゴ民主党大会で暴動を扇動したとされ、起訴された「シカゴ・セブン」についての《Circus '68 '69 / サーカス '68 '69》などを経て、公民権運動を象徴するプロテスト・ソング《We Shall Overcome / 勝利をわれらに》でアルバムは締めくくられる。
さて中身のサウンドだが、これはフリー・ジャズの流れを汲んだ集団即興演奏的なもので、色々な音があちらこちらと駆け巡りながらも最終的にはテーマへと収斂する。このあたりのアレンジャー、カーラ・ブレイの手腕はお見事。
これは60年代末のフリー・ジャズの一つの典型的なスタイルであり、また怒れるミュージシャン達が社会に対して放つ音楽化されたメッセージだ。つまり当時のジャズ界の特徴的なスタイルと当時の社会へのプロテストが一つに合体した、音楽的にも社会学的にも興味深い作品だ。
このアルバムでは物憂げなチャーリー・へイデン独特のベースをたっぷり堪能することは出来ないが、それでも随所で味わい深いベースを聴くことが出来る。
なんとなく難しそうなアルバムみたいだが、案ずるより聴くが易しだ。
And More...
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