Anita O'day / Anita O'day Live in Tokyo, 1975
2004年8月20日に他のサイトへ掲載した原稿を加筆修正しました。==================================
普通、アニタといえば『Anita』か『Sings The Most』が定番ということになる。ビッグバンドをバックに歌うエレガントな『Anita』も捨てがたい。オスカー・ピーターソン率いるトリオをバックに歌う『Sings The Most』も粋だ。
しかしここで選んだのはアニタ晩年の、いソノてルヲのMCから始まる、東京でのライブ盤。
このアルバムでは《Wave》や《A Song for You》などのボサノヴァやポップ・ナンバーから《Honeysuckle Rose》といったアニタの定番までたっぷり楽しむことが出来る。それにライブならではのアニタのお喋りもちゃんと収録されているのが嬉しい。
それにしてもアニタの醸し出す貫禄はすごい。まるであちら側のお仕事を取り仕切る女性幹部だ(失礼!)。
アニタの声は美声でもなく、レンジが狭く、またとりわけ声量があるわけでもなく、声楽的にはどうしようもない声かもしれない。また幼い頃に受けた扁桃摘出手術で”のどちんこ”が切り取られたので、ビブラートをかけることも出来ない。
しかしこれらの欠点がジャズ・ヴォーカルでは彼女の持ち味、独自のスタイルへと変化する。ハスキーボイスで歌詞を、時には切れ切れに、時にはコロコロ転がしなが、時には緩急をつけて、“語り” のように歌うアニタを聴くと、誰にも真似の出来ない独自のスタイルを持つことの大切さがよく分かる。それはクラシック音楽に於ける声楽的なテクニックの上手・下手、または資質よりも大切なものだ。
I’m not a singer, I’m a "song stylist" .
アニタは独自のスタイルを築いた自負からか、自分は歌手ではなく”ソング・スタイリスト”だと公言していた。
このアニタ独自のスタイルは、パワフル&テクニカルなエラ・フィッツジェラルドやサラ・ヴォーンのスタイルより、ある意味で、ずっとジャージーな雰囲気を醸し出している。
『Anita O'day Live in Tokyo, 1975』でアニタのバックを勤めるのはピアノとベース、ドラムだけのシンプルなトリオ。やはりビッグバンドより機動力があり、アドリブの面白さもあるトリオをバックに歌う方が、曲を自由自在に崩して歌うアニタには向いているようだ。独特の語り口風・姉御肌ジャズ・ヴォーカルが堪能できるアルバム。
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