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【ライブレポート】私が選んだ「ありえない」の向こう側 AZKi Major Debut LiVE「声音エントロピー」夜公演

2024年8月3日、KT Zepp YokohamaにてAZKiメジャーデビューライブ「声音エントロピー」が開催された。AZKiが現地開催をしたワンマンライブは、2019年12月29日に池袋harevutaiで行われたAZKi 4th LiVE「REPEAT THiS LiFE WiTH U」以来、約4年7か月ぶりとなる。この日会場に集まった開拓者たちの期待は否が応にも高まっていたことだろう。本記事では、そんなAZKi史上最大規模のライブの夜講演の様子を振り返っていく。

アタック映像が流れ、ライブ開催のカウントダウンが始まる。複雑な数式や文字列や波形を背景に、AZKiの体が仮想世界からこちらの現実世界に降り立つような演出だった。文字の中にはデビュー日の20181115やαβγなど、AZKiに関わるキーワードが散りばめられていた。

いつもの4th衣装でステージの上に立ったAZKiが最初に歌うのはリリースしたばかりのメジャーデビューアルバム「Route If」の最初の曲「Lazy」。ポエトリーリーディングのこの曲はAZKiの澄んだ声を素材の味そのままに楽しむことができる。歌詞に合わせてAZKiが朝の散歩のようにステージをゆっくりと歩きながら歌う。その仕草と「わっ」や「おいしそ」のセリフは可愛く、清楚だった。

「行くよ、開拓者」の言葉とともに始まる次の曲は「ちいさな心が決めたこと」。歌とともに会場に放たれるシャボン玉や花火の演出に開拓者のどよめきと歓声が広がる。2曲目からアルバム「Route If」の収録曲以外が歌われたのは正直意外だった。しかもAZKiが作詞作曲した曲で、開拓者の思い入れも特別に強い曲だろう。「それでもここで生きていくと決めたんだ」という歌詞は、引退するはずだった世界線があったAZKiが歌うと一層重い意味を感じる。

3曲目は夜公演らしく「明けない夜があったなら」。「夜公演も盛り上がっていくぞー!横浜ー!」と会場を煽るAZKi。「希望的だ刹那的だ楽観的だでも美しいよ」という歌詞は、この楽しいライブが永遠に続けばいいのにと、夜が明けなければ良いのにと考えている開拓者にピッタリだろう。この時だけは明日のことも昨日のことも忘れてAZKiの曲に酔いしれていた。

「こんこんこんこんあずきー!右手にマイク左手に地図!あなたのハートをゼロゲッサー!AZKiです!」と元気よく挨拶するAZKi。声と音とみんなの想いで一体感のあるライブにしたい、とライブコンセプトを語る。

「KT Zepp YokohamaにGuess!」と会場のみんなと一緒に恒例のGeussを行い、今日の五線譜をあしらった音楽モチーフのステージを紹介。「みんな盛り上がる準備はできてる?」の声に開拓者が大きく歓声を返す。こんな当たり前のステージと客席のやりとりが久しぶりすぎて、この時点で既にかなり込み上げるものがあった。

ブライト衣装に着替えて披露されたのは「Chaotic inner world」。疾走感のあるメロディと生バンドの迫力のあるサウンドがあいまって、ステージで歌うAZKiがとてつもなく格好よく見えた。会場もそれに呼応するようにボルテージを上げていく。

ロックナンバーはまだ続く。「Fake.Fake.Fake」では一部の開拓者から懐かしいコールや、肩を組んでジャンプする動きが見られた。秋葉原エンタスでAZKiがライブをしていた頃の記憶は、今もちゃんと開拓者の中に息づいている証拠だ。もちろん最近AZKiを知った開拓者も純粋にロックの波に身を任せてペンライトを振り上げていた。

「午後8時のコーラスソング」は事前にYouTubeにコールアンドレスポンスの動画が投稿されており、開拓者もステージのAZKiと同様に指揮を振る動作をしながら「la-li-lat-tas-sta-li-la」とコーラスに参加する。こんな風に声を出して大勢で同じ動作をすることには、ライブ体験の根源的な楽しみがあるように感じた。

「一緒に歌ってくれて心強かった」とAZKi。そして水を飲むAZKiとそれだけで盛り上がる開拓者たち。このステージと客席の一体感と交流がライブの醍醐味だろう。

今回AZKiのライブでは初めて導入された無線式ペンライトを使って遊ぶ場面も。AZKiの掛け声で会場全部のペンライトの色が多種多様に変化して、AZKiと開拓者が一緒に感動の声を上げた。

そしてAZKiの地図のお姉さん要素が顔を出す。47都道府県の開拓者が会場にいるか調べると言う。日本をざっくり地域ごとに分けて、開拓者に挙手してもらうと、北は北海道から南は沖縄まで全ての地方まで見事制覇。海外から来た開拓者もいて、今のAZKiのファン層の広さを実感した。

「開拓者の全力AZKiに見せてください!」と歌う声出しナンバーは「Operation Z」。タイパコスパとZ世代を思わせる生き急いだ歌詞と同じくらいテンポが速い曲だが、開拓者はしっかりとコールアンドレスポンスを覚えて来ており、AZKiと一緒に踊ったり歌ったりしていた。

今回AZKiがライブ前にコールアンドレスポンスの動画を出してくれたことは、2019年に「フェリシア」と「Fake.Fake.Fake」のコール動画を出してくれたのを思い出させてくれて懐かしく、そして嬉しかった。

コールアンドレスポンスはまだ終わらない。「猫ならばいける」で開拓者は猫になり「にゃーにゃー!」とコールを入れる。そして「起きたら100万登録だ」の歌詞の通り、AZKiの背景には2024年4月27日にYouTube登録者数100万人を達成した瞬間の映像が映しされた。

「チャンネル登録100万人ありがとう!」と泣きそうになりながら100万人達成の瞬間を振り返るAZKi。「一度は終わってしまう予定だったAZKiという存在がみんなによって今日ここにAZKiが存在しています、本当にありがとうございます」と重ねて感謝を述べる。クルクル回りブライト衣装を見せつけてから、ここまでAZロック、AZ猫と来て、いよいよAZバラードゾーンとライブ後半戦の始まりを告げる。

「次はこんな素敵な夜を彩るこの曲をお届けします」という前置きをして、ドレス衣装に着替えて披露するのは「夜の輪郭」。これまでのロックや猫曲のような熱さを感じる空気から一転、肌寒さすら感じるほどの切なく儚いバラード曲に思わず息を飲む。歌声に特大の感情を乗せるバラードはAZKiの独壇場だと言わんばかりに会場の空気を支配していた。

バラード2曲目の「青い夢」では、AZKiの感情を出し惜しみしない歌声に悲壮感あふれるギターが合わさり、さらに追い打ちで感情を揺さぶってくる。生き急いでいたINNK時代の「青い夢」と、YouTubeチャンネル登録者数100万人を超えて自己史上最大の会場でライブを開催している現在の「青い夢」では、まるで意味が違って聴こえた。「君変わったね」って言われちゃうね、という歌詞を聴いた時、未だに心のどこかで「INNK時代の思い出の中のAZKi」への未練を捨てきれていない自分に言われている気がして、図星を指されて思わず一瞬ステージから目を逸らした。

次の曲の前にボイスドラマが差し込まれる。「ちいさな心が決めたこと」「青い夢」「オーバーライト」「エントロピー」の歌詞を連想させるドラマだった。

夢だけじゃ食べていけない。
「歌うことが大好きで音楽を通じてみんなと一人一人と繋がりたくてVTuberになりました。」(「活動開始1ヵ月記念!AZKi生放送」の音声)
あの日選んで決めた道は間違いだったのかな。そんなことを考えることもあったけど、夢を見つけた私は必死に走ってきた。泣きたいことや諦めたくなる時もあったけど、そこに大好きな音楽があるから、守りたい夢があるから、そしていつも近くにみんながいたから。少しは憧れに近づけているかな?今私が誰かを照らせるなら、誰かの救いになれるなら、間違っても無くなっても、何度でも作ろう、新しい物語を一緒に。この世界に行くと決めたあの日の私へ。

ボイスドラマからつながるのは「エントロピー」。ルートαβγといくつもの世界へ進み常に「ありえないの向こう側」を見せてくれたAZKi。「私がただ幸せだったら悔やむことさえなかったら」と歌う、紆余曲折を経て今ここに辿り着いたAZKi。その姿がどれだけ開拓者を照らし救いになっていたことか。今あなたがここにいること自体が奇跡なのだと叫びたかった。「エントロピー」の歌い終わりにAZKiが発した言葉は「いつも応援ありがとう」。こちらこそだ。

ボイスドラマにはAZKiが活動を始めた時の 最初のAZKi生放送の音声を入れていた。AZKiはあらためて「音楽を通して一人一人と繋がりたくてVTuberになりました。そして今こんなに多くのみんなと一緒にライブができてます。ありがとうございます」と、泣くのをこらえながら初心を開拓者に伝える。

最後の現地ソロライブから今日までの4年7ヶ月の時間を振り返り、最近開拓者になってくれた人にもこれまでの自身の活動を伝えるために、活動初期の曲とメジャーデビューアルバム「Route If」の曲で昼夜のセットリストを悩んで作ったとのこと。

「こうやってみんなと同じ場所同じ空間にいられる事が、本当に本当に幸せです。開拓者のみんな大好きだー!I Love you!」とAZKiのストレートな告白に、開拓者も声援で答えた。「これからもAZKiと一緒に開拓していってくれますか?」に対する開拓者の答えはYES以外にありえるだろうか。

この流れから歌う「without U」は本当にズルい。今日何度も開拓者のおかげで今自分はここに立っているとAZKiは口にしたが、「without U」はその気持ちをそのまま歌にしたかのような曲だった。「キミがいるから一人じゃないから」や「キミといるこの瞬間大切なものにするために」という歌詞は、開拓者への想いと、この日このライブにかけた熱意が伝わってくる。「どんな時もそばにいる、私がそばにいる、そばにいるから」という、ライブだけの歌詞に胸が熱くなる。

立て続けにこちらもAZKiにとって大切な曲「from A to Z」を披露。これまで何度も歌ってきたAZKiと開拓者のシンガロングの声が暖かく会場に響く。「ここがスタート」という歌詞が、4年7か月ぶりに開催された現地ワンマンライブは新たな始まりでしかなく、ここからまだまだAZKiの音楽もライブも続いていくという宣誓にも思えた。願わくば、そのストーリーを最初から最後まで覚えていられますように。

「みんなと一緒に素晴らしい時間を作れて私は本当に本当に幸せです。これで最後」と歌う「afterglow」は、AZKi自信と開拓者のライブの終わりを惜しむ気持ちを見事に表現していた。終わって欲しくない、行かないで欲しい、この楽しくて幸せな時間がいつまでも続いて欲しいと、毎回ライブの度に考えてしまう。「もう行かなくちゃ夢が終わる」と、そんな未練をAZKiのバラードはそっと優しく拭ってくれる。

鳴りやまないアンコールの声に応えるように、AZKiから開拓者へのメッセージが表示される。

そして歌うのはAZKiのアンセムとも言える「いのち(2024 ver.)」。昼公演では2019年リリースの「いのち」を歌っており、昼と夜で綺麗に対になっている。昼2019→夜2024を歌うことで時の経過やAZKi自身の成長を感じさせる演出だった。AZKi自身のいのちを燃やしながら歌っているかのような情感のこもった歌声には胸に迫るものがある。さらに背景にはこれまでのAZKiの活動の軌跡の映像という演出。完全に開拓者を床に沈めに来ている。

最後のMCでAZKiが今の心情を吐露する。

今日を迎えるまで本当に色んなことがあって、こうやって今このステージに立てていることが本当に本当に嬉しいです。本当はもう今この場所にAZKiは存在していなかった世界線があって、でもルートαβγと走り続けてこれたのは本当に本当に開拓者のみんながいてくれたからです。ありがとうございます。本当につらいことも本当にたくさんあったけど、今日は開拓者の顔が見れてAZKiは幸せです。ありがとう!これからもよろしくね!

いよいよライブが終わってしまうことを惜しみながら、昼夜でセットリストは2曲しかかぶってないこと、昼夜合わせて30曲近くも歌った濃密な1日だったことを語る。

最後のこの日ライブを彩ってくれたバンド「HamaGuessrs」のメンバー紹介をする。名前の由来はKT Zepp YokohamaのHamaと、AZKiと一緒にゲスしていこうという言葉から来ている。そしてバンドメンバーの名前の後ろにゲッサーが付いていてAZKiが名前を呼ぶたびに、開拓者も「Guessrs!」と続ける。さらにこのライブを作り上げてくれたスタッフ全員にもAZKiと開拓者が一緒に感謝を述べる。

この日のライブは終わってしまうが、「声音エントロピー」は追加公演が決まっている。追加公演に向けて、AZKiと開拓者は来月もまた会う約束をする。

そして最後の曲はAZKiの始まりの曲「Creating world」。この曲以外に、この日の最後を飾るにふさわしい曲はない。新しい世界を作っていくことへの想いを込めたこの曲はAZKiの原点だ。「この場所が奇跡だから」の歌詞は、活動終了していたかもしれない世界線を超えて、今もこの場所で歌い続けているAZKiにこそふさわしい。しかも4年7か月前の現地ワンマンライブも同じく「Creating world」が最後の曲だった。これが意図した演出か偶然かはわからないが、これからも大切な節目にこの曲は歌われ続けるだろう。

最後に「これからも一緒だよ!みんな大好きだよ!」とシンプルで、だからこそ真っ直ぐに気持ちが伝わる言葉をAZKiが投げかけられ、エンドロールが流れていく。

このライブはAZKiのこれまでとこれからが、連続した物語であることを実感できるライブだった。この日のAZKiの歌唱、バンドメンバーの演奏、ステージ演出、どれも一級品だったが、そこに深い物語性を付与するのは旧INNKの系譜を感じる。INNK時代、短期間に現地ライブをしていた、生き急いだあの日はきっと間違っていなかったのだ。いや、AZKiが彼女自身の力で間違いなんかにしなかった。そしてKT Zepp Yokohamaよりさらに大きな豊洲PITでの追加公演開催と、AZKiはこれからも精力的に開拓を続けていく。これからAZKiが開拓していく新しい世界が、今はひたすらに楽しみだ。

AZKiの5thライブAZHOODの現地開催が中止された時、AZKiと開拓者は「次のライブまで元気でいること」と「開拓者でいること」の2つの約束を交わした。この日その約束を果たすことができて、いち開拓者として誇らしく思う。

AZKi Major Debut LiVE「声音エントロピー」夜公演セットリスト
1.Lazy
2.ちいさな心が決めたこと
3.明けない夜があったなら
4.Chaotic inner world
5.Fake.Fake.Fake
6.午後8時のコーラスソング
7.Operation Z
8.猫ならばいける
9.夜の輪郭
10.青い夢
11.エントロピー
12.without U
13.from A to Z
14.afterglow
EN1.いのち(2024 ver.)
EN2.Creating world

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