今年の夏一番暑かった一日 TUBEOUT!FES -2021 SUMMER-レポート
2021年8月29日、SPWNにて「TUBEOUT!FES -2021 SUMMER-」が開催。総勢 約40組 のアーティストが出演し、「BEAT STAGE」「NEO STAGE」「NATURE STAGE」の3つのステージでそれぞれのライブパフォーマンスを披露した。オンラインでの開催とは言え、Vtuberを中心に開催されたフェスの中では過去最大規模のフェスだろう。今回は「TUBEOUT!FES -2021 SUMMER-」で体験した暑い夏フェスのレポートをお届けする。
アーカイブでも視聴可能なので、リアルタイムで見逃したステージのライブも後から視聴可能だ。YouTubeでは舞台裏生配信も放送されていた。
・ときのそら(BEAT STAGE 11:00~)
フェスの先陣を切ったのはTUBEOUT!最多出場(6回:本人談)のときのそら。そして1曲目は銀河アリスの「ももいろクローバーZ」の「行くぜっ!怪盗少女」のカバーという、サプライズあふれるコラボと選曲だった。歌詞の「ももいろクローバー」の部分を「そらリス(ときのそらと銀河アリスのユニット名)クローバー」に変えて歌ったり、ステージの上で二人で追いかけっこをするなど、遊び心あふれるパフォーマンスには思わず笑顔になる。MCではイベントTUBEOUT!シリーズのはじまり「TUBEOUT!Vol.1」で二人が共演し「そらリス」が結成されたことを振り返っていた。
ときのそらのソロパートは続けて3曲「ベノム」「ヴァンパイア」「スイートマジック」を披露。どの曲も歌ってみた動画が本人のYouTubeチャンネルで公開中の曲だ。人には出せない高音を苦も無く発声し、時にボーカロイドと疑われるほどの歌唱力と、踊りながら「はい!はい!」と観客を煽るパフォーマンス力の高さに息を飲んだ。「ベノム」で格好良く、「ヴァンパイア」でコケティッシュに、「スイートマジック」で可愛く表現されるときのそらの魅力に観客のボルテージはトップバッターとは思えないほど上がっていく。MCでは「ベノム」を自身のソロライブ「パラレルタイム」でも歌ったことや、「スイートマジック」を「TUBEOUT!Vol.1」で歌ったこと、3曲とも自身にとって大切な曲なことを語った。
そして最後の曲ではさらにサプライズゲスト、花鋏キョウが登場し、ときのそらのオリジナル曲「好き、泣いちゃいそうだ」をデュエットした。乙女の気持ちを歌ったこの曲を聴いていると、ステージの二人が少女漫画のヒロインのように思えた。特にラスサビの「好き、泣いちゃいそうだ」を二人で感情豊かにデュエットした時、視聴者は完全にハートを撃ち抜かれたことだろう。
そしてステージの最後に、もうすぐ活動4周年になること、これからも活動を頑張っていくという意気込みを伝え、ときのそらはフェスのトップバッターという大役を無事やり遂げた。
<セットリスト>
行くぜっ!怪盗少女(ときのそら・銀河アリス)
ベノム(ときのそら)
ヴァンパイア(ときのそら)
スイートマジック(ときのそら)
好き、泣いちゃいそうだ(ときのそら・花鋏キョウ)
・銀河アリス(NEO STAGE 12:55~)
銀河アリスのオリジナル曲の中でもライブで盛り上がる定番曲「LINK!」と「振りかぶって猫パンチ」の2曲を続けて披露。銀河アリスの全身で歌を表現するダンスパフォーマンスは、今日も目を見張るものであったが、それに加えてステージの演出にも注目したい。NEO STAGEの床は踏み込んだ足元が光るようになっており、ダンスパフォーマンスをより魅せるステージとなっていた。スモークがたかれたり、空から色とりどり玉が落ちてくるなど、ライブを見ていて楽しい工夫もこらされていた。銀河アリス自身もMCで「こんな素敵なステージに立てたことがうれしい」とハシャいでいた。
そして盛り上がる曲の後はしっとりした曲「Someday Someday」「Distance of LUV」で雰囲気を変えてくる。静かな曲でも銀河アリスのダンス表現力は変わらない。「Someday Someday」の「全て希望が消えた気がしていた/とても真っ暗で一人で泣いてた/Lonely days」の床に崩れ落ちるような動きや、「Distance of LUV」のラストで体育座りをして宇宙船から地球人類さんがいる地球を見上げる様子など、激しいダンスでなくても歌詞の雰囲気を表現した見応えのあるパフォーマンスが続く。「不安を勇気に変えてくれた/LUV」の両手でハートを作る振り付けからは彼女の重い愛が伝わってくる。
最後の曲は銀河アリス3周年ライブで初披露された「Message」。以前「歌を歌う時はいつも地球人類さんのことを考えている」と語っていた彼女からの感謝と愛を、歌と生命力あふれるダンスパフォーマンスがヒシヒシと伝えてくる。この曲で初挑戦したというラップもチョイ悪にキマリ、最後は両手でメッセージ、手紙の四角を表現してステージを締めくくった。
<セットリスト>
LINK!(銀河アリス)
振りかぶって猫パンチ(銀河アリス)
Someday Someday(銀河アリス)
Distance of LUV(銀河アリス)
Message(銀河アリス)
・HACHI(NEO STAGE 15:20~)
ノリの良いメロディとクラップ音が印象的な「20」からHACHIのステージが始まる。最初の曲にふさわしいダンサブルな曲を透明感のある声で歌い上げていくHACHI。英語と日本語が丁度いい塩梅で混ざった歌詞が面白い。MCでは初めてのTUBEOUT!出演ということで、歌っている時とは違う緊張した一面を見せていた。
続く2曲は新曲の「8月の蛍」と最初のオリジナル曲「光の向こうへ」。「8月の蛍」では、悲恋の切ない思い出と後悔を歌うHACHIの歌声に胸を締め付けられる。対して「光の向こうへ」では、Vsingerとして歌を歌い続けるという、儚さの中に強い想いを秘めた歌声を響かせた。HACHIの歌唱力と歌に感情を乗せるバランス感覚は絶妙としか言いようがない。
MCでは先ほど歌った2曲がHACHIにとって大切な曲であることを語り、サプライズゲストとしてMaiRが登場。二人で最後の曲「涙することは疎か、息も出来ない。」を披露した。ロックな曲の中で、HACHIの繊細な歌声とMaiRの力強い歌声が見事に調和を奏でる。この曲は誰もが今の世の中で感じている、大切な人と繋がれないもどかしさを代弁してくれているようだった。
<セットリスト>
20(HACHI)
8月の蛍(HACHI)
光の向こうへ(HACHI)
涙することは疎か、息も出来ない。(HACHI・MaiR)
・エルセとさめのぽき(NEO STAGE 18:20~)
エルセとさめのぽきはステージの登場の仕方から、彼らの世界観を見せつけてくる。ステージ上に降りてきた水泡が弾け二人が表れると、そこはもう彼らの舞台、深海だった。そのまま今の夏の時期にピッタリな爽やかな曲「STAR」と、深海の広さと深さに惹かれ思わず旅に出たくなる「深海列車」を2曲続けて披露し、最初から観客の心をつかんで離さない。MCではエルセがフェスに憧れていたこと、今日は夏フェスのノリに合わせて縦ノリをしていたことを語る。
盛り上がる2曲に続くのは会場の温度を下げるべく「deep in」。先の2曲が深海の美しさや楽しさを表現した曲に対し、「deep in」は深海の静けさや寂しさが伝わってくる曲だった。悲しい歌詞の中にほんの少しの救いを願わずにはいられない。
このステージのゲストはAZKi。エルセとAZKiが同じステージで最後に一緒に歌ったのはAZKi対バン企画「LAST V STANDiNG vol.2(以下、LVS2)」で、実に1年半ぶりとのこと。そんな久しぶりの二人が歌うのはLVS2のためにさめのぽきが作詞作曲した「mirror」。歌詞に「深い海のようで/未開拓の最果てへと」のようにエルセとAZKiを思わせるワードが入っている、二人の歌姫が歌を通じて出会えた奇跡を歌った曲だ。エルセの優しい歌声とAZKiの透き通った歌声に、さめのぽきの男性ボーカルが重なり、耳に音が水のように染み入ってくる。二人が背中合わせに歌い「mirror」のCDジャケットを再現する振り付けも、二人のファンにはうれしい演出だったろう。
最後の曲の前には観客を巻き込んで「おーおーおー!」と発声練習。もちろん歌う曲は「星詠みの唄」。エルセとさめのぽきの定番と言っていい曲だろう。「おーおーおー!」と歌うエルセとさめのぽきと観客のコメントの一体感は歌詞の「声を合わせ今、ひとつになる」の通り、歌で会場全体がひとつになっているようだった。そして彼らが深海に帰る時も、来た時と同様に水泡に包まれて弾けて消えていった。
<セットリスト>
STAR(エルセとさめのぽき)
深海列車(エルセとさめのぽき)
deep in(エルセとさめのぽき)
mirror(エルセとさめのぽき・AZKi)
星詠みの唄(エルセとさめのぽき)
・AZKi(NATURE STAGE 20:50~)
いつもAZKiのライブのはじまりを告げる「Overture」が鳴り響き、ステージ上にAZKiのシルエットが浮かび上がる。最初に披露する曲は「without U」と「ひかりのまち」。「without U」はAZKiの1stアルバムの表題曲。「AZKi」の名前が「AZUKI」ではなく「U」がない理由や「i」が小さい理由が歌詞に込められているある種の自己紹介ソングで、AZKi初見の人もいるフェスで最初に歌うにふさわしい選曲だろう。
続く「ひかりのまち」は会場を盛り上げるゴリゴリのロック。AZKiの熱のある歌唱に呼応するようにステージの上ではレーザーが乱舞し、観客のコメントも「ひかりのまちへ!」とコールを返した。MCではライブのトリという大役を任され緊張しているが楽しんでいることと話し、水分補給をした。
盛り上がる曲から一転「いのち」「タイムカプセル」とバラードが続く。ゆっくりと進むメロディがフェスの終わりを告げるようで一抹の寂しさを感じた。「いのち」はAZKi楽曲の中でも人気の高いバーチャルの死生観を歌った曲で、複数のVtuberがカバー動画を投稿している。推される側の存在に「君が忘れちゃったら私は居なくなるの」と歌われることの重さたるや、推す側にとっては色々な意味でたまらないだろう。「タイムカプセル」の「楽しかった 嬉しかった悲しかった 悔しかったこと/忘れない 忘れたくないよ/明日明後日も これから先も」という歌詞は、今日この夏フェスを体験した人たちの気持ちそのものだろう。今日の楽しかった思い出と歌たちが、遠い将来まで届くことを切に願っている。
最後の曲の前にMCで今日のフェスへの想いを語るAZKi。
今日はこうして配信を通しているけれど、いつか本当にこんな野外フェスができたら良いなと思っています。
バーチャルの世界もドンドン広がっているし、今日こんなに素敵なアーティストのみなさんと一緒にフェスをすることができるなんて、活動を始めた時には全く想像もできていなかったし、こうやってみんなと楽しい世界をこれからも創っていきたいと思っています。
Vtuberの音楽を愛するすべての人と、この世界で頑張るみんなのキラキラした輝きがずっと続きますように。
このフェス最後の曲「from A to Z」の「これから起こるすべてのことを/一緒に創ろう」という歌詞は、先に述べたAZKiの想いを想起させる。これまでの軌跡を胸に、これからの未来を今日ここに集ったVtuberとそのファンたちで全員で開拓していきたいという想いを歌っているように感じた。この夏フェスの最後を飾るにふさわしい曲が他にあるだろうか。
AZKiが退場し誰もいなくなったフェスの野外ステージを見て、楽しい時が終わってしまったと実感したと同時に、また何度でもVtuberのフェスを体験したいと強く思った。
<セットリスト>
without U(AZKi)
ひかりのまち(AZKi)
いのち(AZKi)
タイムカプセル(AZKi)
from A to Z(AZKi)
・重大告知
フェスの最後は重大告知。TUBEOUT!Vol.11とVol.12の日程と出演者の発表、そして「TUBEOUT!FES -2021 WINTER-」の開催決定が告知された。まだまだVtuberのライブはとどまる所を知らない。2021年末までにどれだけの音楽を浴びれるのか、否が応でも期待が高まった。
この記事で紹介したステージは全体のステージのほんの一部にしかすぎない。今日は3つのステージで多くの魅力的なアーティストのステージがあり、その中でも個人的に選りすぐったステージのレポートをお届けした。正直見られるなら全部のステージをリアルタイムで見たかったが、断腸の思いで今見るステージを選ぶのも、フェスらしいと感じた。
アーカイブがあるというのも、オンラインの強みだろう。この日1日では見られなかったステージを、これからアーカイブで追いかけようと思う。そうして新しいアーティストとの出会いと思い出を作れるのも、フェスの醍醐味なのだから。