後記「知財実務オンライン 僕達の戦いと学びの歴史」
サマリ
柿沼弁護士、加島弁理士をはじめとする共著書「ディープテックスタートアップの知財・契約戦略」が、知財系ユーザのX上のタイムラインを賑わせたことは記憶に新しい。
漆黒の表紙に大きく印字された白い文字が脳に訴えかけてくる。
多くの知財人にサブリミナル効果が奏したことだろう。
しかしながら、僕だけはこの呪縛の例外であった。
目線は常に帯の文字に釘付けだったからだ。
「村上泰一郎」
彼こそ、僕のスタートアップキャリアを作った張本人の一人である。
今回は、知財実務オンラインで実現した「ピクシーダストテクノロジーズCOOである村上さん(僕の上司)と柿沼先生の対談企画」の裏話。
Keyword
スタートアップ, 契約, オープンイノベーション, ステージ別契約戦略
村上登壇の狙い
僕の記憶が正しければ、村上さんが知財系のイベントに登壇する機会は片手で数える程しかない。
ましてや、僕とセットでの登壇はおそらく初だろう。
村上さんを引っ張り出した一番の狙いは、知財業界の人に彼の考えを知ってほしいと思っていたからだ。
当時凡人であった僕ですら彼の影響で知財に対する考えが180°変わった。であれば、知財人の多くにその影響が及ぼせるのではないか。
業務の都合で短時間であったが、幼少期のプログラミング体験の話、理系白書を読んだときの衝撃の話、そしてアカデミアの技術を社会実装する使命感の話。
ピクシーダストテクノロジーズを創業する経緯となったエピソードであり、創業期から何度も聞いている話だ。
本番では出なかったと思うが、「エンジニアの給料を上げたい」という言葉も、村上さんが創業期から繰り返し言っていたものである。
視聴された知財人は、どのように感じられただろうか。
戦いと学びの歴史
契約の戦いと学び
村上さんの言葉で、僕が全社員(ポジションにかかわらず、パートも含めた全社員)に必ず伝えている言葉がある。
「ビジネスのプロなら契約を見ろ」
これは、彼が創業初期から社員に繰り返し伝えていた言葉だ。
「契約とはビジネススキームをコーディングしたものである」
これは僕が契約実務に携わってしばらくして感じたことだが、彼もまた同じことを感じていたようだ。
https://note.com/daisuke16/n/na8f815fd1bee
契約は、会社や事業の年輪でもある。
NDA、PoC、共同研究、量産。
新規事業でよく語られるフェージングはこの4つだろう。
しかし、実際のオープンイノベーションでは、4本の契約で量産に至ることはまずない。
PoCを繰り返すこともあれば、このフェーズに当てはまらない派生契約を締結することもある。
もはやフェージングのタイトルや契約のタイトルにさしたる意味はない。
スタートアップと大企業がそれぞれの願望を文字にして記したもの。
それが契約だ。
知財の戦いと学び
僕は、「知財を重視しよう」と殊更に叫んだ記憶がない。
社員は実感していないかもしれない。
普通の企業(スタートアップも大企業も)では、知財部が「知財を重視しましょう!」という啓蒙活動を行うことが珍しくない。これは知財重視の風土が不足しているという課題を解決するための活動だ。
しかし、ピクシーダストテクノロジーズでは、そのレベルで啓蒙活動を行った記憶がない。
これはひとえに、創業者が創業期から知財が重要であるというスタンスを崩していないからに他ならない。
そんなピクシーダストテクノロジーズで知財の問題として真っ先に挙がるのが契約における「帰属」の問題である。
しかし、村上さんと仕事をするようになり、「帰属」よりも「利用権」の方が論点であると気付かされた。
事業の実施に重要なのは帰属ではなく、利用権である。
特に、スタートアップは、将来の爆発的な成長が義務付けられた企業である。
そのためには、1つの知的財産権を将来にわたって広く利用できる必要がある。
利用権を失うということは、将来の成長余地に制限がかけられるからだ。
むすび
スタートアップでの戦いは、本にすることができないくらいの量と内容の積み重ねである。それを見聞きしたことから得た学びこそが、スタートアップのインハウスにコミットした知財家の特権だ。
どうしても具体的な話がしにくいのだが、契約も知財もスタートアップならではの苦しさと楽しさが同居していることは間違いない。
これまで、知財業界向けには僕の目線で語ってきたが、今回、僕と同じものを見た違う目線の話を少しでも感受していただけたのであれば幸いである。
ピクシーダストテクノロジーズの知財の歴史
2017
創業
木本と顧問契約を締結する。
オフィスがないので、秋葉原のルノアールで共同代表(落合&村上)と3人で打ち合わせ。
筑波大学と特別共同研究契約を締結する。
「SOによる知財の予約承継」の仕組み。
2018
木本がジョインする(3人目)。
知的財産部(管理本部付)を創設する。
初代知的財産部長に就任する。
一号特許(特許6321869)が成立する。
2020
東北大学と特別共同研究契約を締結する。
2人目の知財担当者がジョインする。
知的財産部を事業本部付に転籍する。
2021
IP BASE AWARDスタートアップ部門グランプリを受賞する。
木本が人事部長(Talent & Organization Functionリーダ)を兼務する。
Mission「「社会的意義」や「意味」があるものを連続的に生み出す孵卵器となる」を策定する。
2022
知財功労賞経済産業大臣表彰を受賞する。
2023
知財法務広報グループを創設する。
木本がグループ長に就任する。
広報部長&法務部長を兼務する。
2024
知財実務オンライン「僕達の戦いと学びの歴史」に村上さんが登壇する。