This is startup - スタートアップx知財 -
Startupを外からも中からも見てきた弁理士の回顧録
「スタートアップx知財」の市民権
僕がスタートアップの仕事を初めて受け取ったのが2015年、そろそろ「スタートアップ系弁理士」と名乗ろうかなと思ったのが2018年。
Google Trendsによれば、この10年で「スタートアップ 知財」の検索数は増えてる(10年前もそこそこあったことに驚いてもいる)。
法人の新設も増加基調にあって、「知財にリソースを投じよう」と考える起業家も増えてきているんだろう。
スタートアップのインハウスの知財家も増えてきたし、支援側も増えてきた。
2018年当時は、スタートアップのインハウスの悩みを共有する相手も見当たらなかった中、2022年に弁理士会の委員会で知り合った仲間とスタートアップのインハウスの知財家のためのコミュニティを作った。
みるみる人が増えていって、今では20人を超えている。
「スタートアップx知財」という看板だけでは差別化要因にならなくなってきていて、スタートアップの成長と知財家としてのコミットメントが見られる時代になってきたと感じる。
競争・協創・共創の始まりだ。
前置きが長くなったけど、今回は、「スタートアップx知財」の言葉の定義の話をしてみたい。
定義が揃っていないと、議論にすらならないからだ。
なお、本記事での定義がミスリードになると怖いので、注釈を先に入れておく。
この記事の定義は、あくまで僕にとっての定義であって、一般的なものではありません。
この記事の定義は、普段の実務経験から逆算して辿り着いた定義であって、法令で定められるものとは異なります。
「スタートアップ」とは
「スタートアップ」という言葉がある程度の市民権を得た今、一意の定義はなくなってしまったように感じるが、例えばビズリーチは、以下のように定義している。
Google等が新興企業かどうかはさておき、「短期的に成長する企業」というところは「そうだな」と思う。
「ベンチャー企業」とよく混同される(というか自分もちゃんと理解してなかった)が、どうも明確な違いがあるらしい。
ベンチャー企業のような成長曲線(上図右)を描く会社がこれからの世にどれほど存在し続けられるかはさておき、「一定期間内の急成長(上図左)が求められた会社」という定義はしっくりくる。
一定期間内の急成長を求められた会社がスタートアップである。
「知財」とは
法律(知的財産基本法)には、以下のように定義されている。
これについて、特許庁は次のように解説している。
確かにそのとおりなんだけど、何かしっくりこない。
日々、スタートアップの中でもがいているときに見た景色と何かが違う。
「財産的価値を有する情報」は正しい。
但し、「情報」の部分が若干気になるが、「広義の情報」(例えば、人の脳内にとどまっているアイデア)までも含めるのであれば、「情報」と言ってしまって良さそうだ。
しっくりこないポイントは、以下の2点だ。
「法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利」(以下「法定権利」という)
「自由を制限する」
知財は「法定権利」に限られるのか?
思案を巡らせていると、普段、「目の前の情報が法定権利に該当するかどうか」なんて考えていないことに気づく。
「これ、いったいどうやって守ろう?」
「そもそも守るコストをかけるべきか?」
「ノーガードで進んだ方が結果的に良いのではないか?」
これだけだ。
目の前の情報が「知財かどうか」なんて気にしてない。
会社のためにどう価値化していくかしか考えていない。
「それって知財じゃないよね」という話になると違和感を覚える。
知財かどうかを先に決めてしまったら、そこで試合終了ですよ。
例えば、僕は社内で「知財は、知財以外を除く全てです」と言うトンチのような説明をしている。
「知財は、広いよ、大きいよ」というメッセージだ。
どうしても、知財≒特許という捉えられがち(投資額から見るとそれは正しい)だし、大企業から転職してくる人にとっては特許以外の知財は馴染みの少ないものだと思う。
でも、スタートアップのリソースでは、高コスト知財である特許に割けるリソースは限られてくる。「特許」という視座ではなく、一段上の「広義の知財」という視座でプレイすることが重要だと思っている。
だって、その方が会社の利益に繋がるんだから。
知財は自由を制限するか?
これは、「情報」を「元来自由利用できる」ものとして置いたが故の逆説的表現になってしまっているだけで誤りではない。
ただ、敢えて揚げ足を取らせて頂くと、僕の感覚は全く逆だ。
知財ほどビジネスの自由を拡張するものはない。
自社が知財を囲い込めば、当然ビジネスの自由を確保することができる。
では、他社に知財を供与すると、ビジネスの自由がなくなるのか?
そんなことはない。
クロスライセンスであればビジネスの自由をきちんと確保しているし、供与に付随して獲得した対価は別のビジネスの種になる。
スタートアップの知財家としては、自由を制限する知財ではなく、自由を拡張する知財として向き合っていく必要がある。
そのためには、「知財は自由の拡張子」というアタマを持つべきだと思う。
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