This is startup「キングダム(合従軍編−蕞)」
はじめに(火の起こり)
GVA TECHの山本俊(弁護士)さんとtwitterで盛り上がり、あっと言う間に対面で意見交換することになったその場で、山本さんのブログ「キングダムを戦略・戦術の観点で読み解く(山陽攻略戦編)」を見て執筆の火が起こった。
キングダムとは
本記事では、山本さんが挙げられた「戦略と戦術の漫画」であるキングダムの数々の名シーンの中から、山本さんが取り上げられていない「合従軍編」、さらにその最終盤に描かれる「蕞の戦い」にフォーカスする。
僕は、戦略・戦術の切り口ではなく、スタートアップの中での働き手(将)として持つべきマインドセットの切り口でキングダムを読み解いていく。
前提知識(キングダム)
登場人物
秦
信(しん)…キングダムの主人公。一騎当千の本能型の武将。蕞の城の南門を守った。
嬴政(えいせい)…後の始皇帝。蕞の住民に激を飛ばし、自ら戦場にも立った。
介億(かいおく)…知能優れた軍師タイプの武将。蕞の城の北門を守った。この記事の主役。
合従軍(趙)
李牧(りぼく)…秦の敵国(趙)の三大将軍(三大天)の一人。戦の天才。蕞の城を急襲し、秦を滅亡寸前まで追い込んだ。
秦軍vs合従軍
秦は、直前の戦(山本さんが題材として取り上げた「山陽攻略戦」)で勝利を収めたことにより、秦以外の五カ国に目をつけられることになった。
趙の名将「李牧」は、自ら外交に立ち、四カ国(楚・魏・韓・燕)と趙による五カ国連合軍(合従軍)の編成に成功する。
兵力で秦を大きく上回る合従軍は、主人公「信」をはじめとする秦将の働きにより、敗色濃厚の状況に陥る。
この状況を打破すべく、李牧は、起死回生の策を打つ。
合従軍の一部の兵力(急襲部隊)を再編成し、裏ルートを通って、秦の首都(咸陽)に向かって進軍したのだ。
急襲部隊が秦の首都を目と鼻の先に捉えたときに現れたのが蕞の城である。
この蕞の城で、合従軍編のクライマックス「蕞の戦い」が始まる。
蕞の戦い
蕞の戦いは、籠城する秦軍vs城攻めの趙軍という構図で描かれる。
結論から言うと、秦軍が7日間にわたって蕞の城を守り抜いた。
ついには、援軍の到来によって趙軍の撃退に成功し、合従軍との戦いに勝利した。
そもそも、蕞の城には、正規兵がほとんどおらず、李牧もそれが分かっていた。
そんな中、まず始めに嬴政の見せ場が描かれる。
蕞の住民(女子供・老人等)に向けて、武器を取るべく激を飛ばすシーンだ。
南門には信率いる飛信隊が配置され、東門&西門にも武将が配置される。残る北門には、キングダムの作中でおそらく初めてスポットライトを浴びたキャラクタ「介億」(この記事の主役)が配置される。
こうして、蕞の城の四方の門を舞台に、「守る秦軍」vs「攻める趙軍」の戦いの火蓋が切って落とされる。
開戦から数日が経ったある日、嬴政は、戦いの中で重症を負う。
それによって士気が下がった秦軍は、超軍に押され始める。
それでも秦軍はギリギリのところで踏みとどまる。
危機度の平均化
ようやく本題。
ギリギリのところで踏みとどまれた要因の1つとして、介億の戦術「危機度の平均化」が描かれる。
介億は、自らの持ち場は離れず、それでいて他の将の持ち場(北門に隣接する東門&西門)になけなしのリソース(北門の兵力)をタイムリーにアサインしていたのだ。
もともとマンパワーが足りず、ランウェイ(体力)も残りわずか。
それでも少しでも延命するべく、その瞬間(局面)を乗り切る。
自らの持ち場を守るだけでよければ、別の選択をすべきだろう。
しかし、落城という大局的な敗戦を避けるために最善を尽くした。
スタートアップの知財部門に例えるならば、以下のような状況だ。
拒絶理由通知の応答期限が迫っている。
特許事務所に丸投げしても良いが、検討の時間はわずかに残されている。
拒絶理由の応答を特許事務所に丸投げした後、その品質が予想以上に悪いものであった場合、知財部門の責任問題に発展することもある。
ところが、顧客とのミーティングの予定にプロマネが急病で出ることができなくなったことを知る。
この事実を知っているのは自分だけで、もう既にミーティングは始まっている。
ミーティングに出れば、拒絶理由の応答に割く時間はなくなる。
介億は、自らのリソースを迷うことなく窮地の局面に割いた。
それによって、「蕞の落城」というワーストケースを防いだ。
「自らの生命」や「北門を守るという役割」(ミクロの視座)で捉えるならば、介億の行動は目的に反した行動である。
しかし、介億の「危機度の平均化」戦術によって、蕞の落城は免れ、そうしいてるうちに援軍によって勝利がもたらされた。
介億は、ワーストケースを回避して見せたのだ。
知財家は、自らプロダクトを生み出す役割を持っていない。
どちらかと言えば、知能で戦う軍師タイプの集団だろう。
自分の両隣で炎上しているプロジェクトがあった場合、それでも中間処理を続ける行為は、果たしてどんな結果を招くのだろう。
もちろん、自らの役割を放棄することで批判されることは十分にある。
しかし、大局的な見地に立てば、中間処理より重要なことはいくつでもある。
さらに言えば、中間処理はお金でいくらでも解決可能であるが、事業の停止はいくらお金を積んでも解決できないのだ。
知財家の業務は、このようなファジーの業務が多い(そして、このことは、あまり知られていないと思う)。
そんな中で、自由と裁量が与えられた知財家が、まるで飛信隊のような遊撃部隊として、局面局面で危機度の平均化を図る。
これこそが、スタートアップにおいて知財家がハマる動きだと僕は思っている。
This is startup
そもそも、スタートアップのインハウス(社員)の命題は何だろうか。
それは言わずもがな「事業の成長」だ。
逆に言えば、事業の成長に繋がらない行動は避けるべきものだ。
事業の成長に繋がらない究極の状態は何かといえば、事業停止だろう。
つまり、スタートアップのインハウスにとって、事業停止を避けることが他の何よりも優先される至上命題と言える。
では、もう一度思い出してみよう。
拒絶理由通知の応答期限が迫っている。
応答期限を経過すると、事業が停止するだろうか。
しない。
そもそも、拒絶理由通知程度であれば、特許権の獲得の可能性すら消滅しない。
一方、セールス活動の欠員はどうか?
売上が減るということは、スタートアップにとっては絶対に避けなければならないことだ。
そのための活動に欠員(計画に対するマイナス要素)が生まれたということは、船に例えると右舷に高波を受けて転覆寸前の状態だ。
この状況で取るべき行動は、「転覆を防ぐ」ことだ。
介億は、蕞の城の転覆を防ぐために、自分の持ち場の兵力を数百人単位で東門&西門(介億が守る北門と隣接する門)に送り込んだのだ。
まとめ
山本さんから刺激を受けて、キングダムの話を記事にすると決めた瞬間に迷うことなく「危機度の平均化」を取り上げようと思った。
それくらいこの戦術が、僕のこの5年間のスタートアップでの働き方を体現していると感じたからだ。
もちろん、「スタートアップ」と一言で言っても、ステージや会社の状況によってあるべきマインドセットは変わると思う。
しかし、「危機を避ける」という判断はいついかなる状況においても必要な軸であることも事実だ。
僕は、知財家として、この感度こそが鍛えるべき感度なんだと思っている。
「危機度の平均化」を身に着けた後は、いよいよ、国(会社や事業)を大きくするフェーズに移行する。
当然ながら、危機を回避するだけでなく、攻撃に転じ、ときとして自ら点を取ることも忘れてはならない。
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