【空間快楽】雨の日
空間快楽第3話は雨の日です。
雨の日というと憂鬱な気持ちになりがちですが、ここにもまた空間快楽が存在しています。
様々な雨
雨にはいくつか種類があります。静かに降り注ぐ雨や豪雨と呼ばれる終わることのない強い雨。草原で霧のように柔らかく降る雨など。
この雨の種類を感じない時は少し毎日疲れているかもしれませんね。私は少し薄暗い空に降る柔らかい雨が好きです。そんな日は一人で車に乗り海辺へ行きます。飲み物と食べ物を買って。私の好きな空間快楽を求めて車を走らせます。
音
どのくらい上空から水滴が落下してくるのだろう……車の屋根に水滴が当たり、トンと音がします。また同じようにトンという音がします。耳と体で聴く衝突音。静かめのお気に入りの曲を低い音で流し、缶コーヒーを開ける。カシュっと歯切れの良い音が鳴り、コーヒーが心地よく薫ります。
雨音はいつしか数えきれない衝突音に変わり、世界と自分を切り離してくれます。ガラス越しの世界は流れる雨のおかげで全てぼやけ、孤独という僅かな安堵を感じさせてくれます。フロントガラスに落ちるいくつもの水滴は、互いに手を繋ぎ大きくなり予測不能な道筋を作り流れ落ちる様を目で追います。
何の意味もないこの時間が次第に心地良くなります。
眠りへの道
まだトタンという物が使われていた時代。
畳が敷き詰められた部屋に布団を敷き、昼寝という時間がありました。
熱い寝苦しい夏の昼寝にふと薄暗くなり、パタン、パタンと音が鳴り始め、熱風が心地よい冷えた風に変化します。雨樋を水が流れ、溢れた水は地面に落下し水溜りを作ります。バシャバシャと音がして、まだまだ降り止まぬ雨を教えてくれます。耳をすませばたくさんの水音がします。ポタポタ、パタパタ……トントンと。そんな音と涼しい風が汗ばむ体を冷やし、気がつけば優しい眠りに落ちてしまいます。
仲間と笑う瞬間
大人になれば雨を避け、雨を嫌うようになります。
自転車に乗り、街を走り抜けている時に予期せぬ大雨に出会う時があります。傘もなく、雨宿りするでもなく雨の中をあてもなく走ります。髪も服もびしょ濡れになればなるほど、もっと、もっと、何もかもびしょ濡れに!と望みながら走ります。
ふと雨が静かになり、仲間全員の頭が冷静になった時、自転車を止めてお互いにびしょ濡れの姿を見て爆笑した。何がおかしいのか、自分だってグチャグチャなのになぜか笑いが込み上げてきます。
限られた仲間との時間、みんなでおんなじ目にあった者同士はまるで歴戦の勇者同士になった気分になり笑い合う。
あの子を想う
雨というプライベート空間は、寂しさも感じます。電話が気になります。あの子はどうしてるだろう?楽しかった事、腹が立ちドアを蹴った事。下着姿で甘く抱き合った事。別れた時、前が見えなくなるほど泣いた事。
不思議と晴れの日より雨の日の方が思い出されます。拙い自分を思い出し、恥ずかしくも滑稽な過去を時も忘れて考え、気がつけば濡れた壁も地面も雨上がりを教えてくれます。
新しく歩き出さなきゃと背中を押された気分になります。凸凹した関係だったけど、きっとお互い違う道を歩く事もお互いの為になると。何かふっきれ天気と同じ晴れ晴れとした気になる事あります。
受け入れることで得る快楽
ハードボイルドな主人公は雨の日に傘をささず、濡れて折れ曲がったタバコを咥え空を見上げます。きっとそれが快楽なのではないでしょうか?
憂鬱な思いを受け入れ、雨と向き合うともしかしたらあなただけの空間快楽を感じるかもしれませんよ。