Karte.155「私は物分かりのいいフリをする」所感と考察
まえがき
Karte.155を一言でいうと、どっちが先に“会いたい”と言うかの攻防戦だったのかなと(笑)。前回、外では会わないって約束をしてからの流れですね。2人の感情の動きを個人的にどう思ったか、その辺を書きながら全体の感想と考察に繋げようと思います。
※僕ヤバ最新話を読んだ感想と考察ですが、これまではXで『思いついたものを書き散らす』『長文ツリーで書く』としていたものを、noteでまとめて書くようにしました。またいつか変更するかもしれませんが、ひとまずはそのときまでよろしくお願いします。
市川の感情の動き
概略
冒頭から順に、箇条書きで追っていきます。
成績悪化でショックを受ける
山田との外で会わない約束は、クリア条件が厳し過ぎたかもと弱気になる
成績は夏以降油断してたせいだと考え、集中できる環境を用意してネジを巻き直そうとしたが結果が出ない、焦る
山田と会えない環境のほうが成績停滞してると思い始める
山田の夕飯LINEに和む
山田が今、家に1人だと気付く
(2人きりで会うチャンス)(でもこれは山田の“そういう”誘いなのか?)(そんなわけない)(でも“そういう”のじゃなくても会いに来て欲しいのかもしれない)(自分だって会いたい)(とはいえこっちからあんな約束したくせに、この状況で会いに行くのはちょっとバツが悪い)
確認がてら電話でお茶を濁そうとする
即バレ
(やばい不機嫌にさせたかも。うわメッセージ消された。山田はきっと言い過ぎたって反省してる。気遣われてる。やっぱり山田は会いたがってた、けど我慢してる)
会いに行くと決める。とにかくマンションの前まで行って、それから連絡してどう言い訳するか考えればいい
何故か山田がマンションから出てきて遭遇。何で出てくるんだよ! とまだ心の準備出来てなくて固まる
山田のめちゃ嬉しそうな顔と、でも立ち去ろうとするムーブを見て自分からあとひと押し必要だと察して身体が動く
羞恥心というか意地っ張りというか青筋立てて顔真っ赤にしつつ、ここまで来た理由に下手くそな言い訳をする
ともあれ山田と意思疎通できてホッとする
以上です。
大体こんな感じかなーと。
詳細説明
特に1~3に顕著ですけど、全体的に心が弱ってる印象でした。2なんて『やっぱり高校合格じゃなく卒業するまでのほうが~』とか考えてますけど、でも高校合格で正解だったと思うんですよ。市川の性格だと、卒業するまで~に目標設定してたら妥協した自分を嫌になると思うんですよね。だからこそ最難関を選んだはずで(これに限らずわざわざ難しい方を選びたがる所あるよなぁ)。
その辺が分からなくなってるくらい弱気になってるんだろうと。
それを受けて5、6、7。
普段の市川なら夜、親居ないの分かってて家に上がらないでしょう。中学生にして相手の両親に交際報告をした男ですよ(笑)。ここでは性的な想像もしてるからその辺当然気付いてるはずで、そういう展開は無いだろうとセルフツッコミしつつ、でもまだ会いに行くかは悩んでます。そのくらいには心が弱ってて、山田に会いたくなってる。というか2人きりになりたいのかな。
そして8、9で姑息な考えを見破られる(笑)。
Karte.155で1番好きなシーンです。今の山田はここまで市川のことを察するんだなっていう。お互いのこと少しずつ分かってきてるというか、この2人は付き合ってるんだな~って感じですよね……。市川は図星を突かれて動揺します。
以降は箇条書きに書いたそのままです。14がもう本当に市川って感じですね、『分かったよ、言うよ!』みたいな、でも素直になり切れない(笑)。素直になってしまえば気楽になれる。考え過ぎて張りつめていたものが緩むのかなぁ。
山田の感情の動き
概略
次は山田の方を順に追っていきます。
図書室で市川を見かけるも会うのを我慢
会えない状態を我慢できなくなり、市川へわざとらしいLINE(今は1人だし親もしばらく居ないしこれから夕飯を食べる)
流石に意味に気付くだろうと思いつつ、それについての返信待ちでそわそわ、焦れったい
市川の返信『電話して良い?』を見てその意図を察し、不機嫌になる
ダメ出しして理由も言ってしまう
もう市川は来ないだろうとシャワーを浴びる
ちょっと落ち着いたのか自分の態度を反省してメッセージを消す
わん太郎の要求に(しょーがないなぁ)と応えて散歩に行く
市川を発見して嬉しさ爆発する
でもすぐに色々思い出して立ち去ろうとする
市川が追ってきて『カレーが~』と下手くそな言い訳をするので(しょーがないなぁ)となる
自分のことを棚に上げて、もっと素直になりなよと言う。
以上です。
詳細説明
2でいきなり我慢できなくなってますけど(笑)、市川のモノローグによると外で会わない約束をしてから1週間強経ってるそうなので、一応そのくらい頑張ってからのこれです。LINEの文面は完全に誘い受けですね。あからさまに会いたいと伝えてます。なんだかんだで山田は市川の望みは叶えたいと思っているし、足を引っ張りたくない、役に立ちたいと考えているので、このLINEは結構思い切って送信したんだと思います。
だから3のように反応がかなり気になってる。
そこで4です。市川に交わされそうになってめちゃ不機嫌になる。5でストレートにそれを伝えてしまう。
調理中の写真が私服だったので、山田は写真用&市川が来るかもってことで着替えてた気がするんですよね。でもこのやり取りの後でシャワー浴びてるから、もう今日は市川は来ないって諦めたんじゃないかなと(その後部屋着になるし)。
で、シャワー浴びてる最中に気分が落ち着いてきて、ワガママ言い過ぎたかもと反省してメッセージを消したのかな。
少し話は逸れますけど、この辺がやっぱり良いなぁと感じる所で、シャワー浴びて気分が落ち着くって凄く分かりますよね。ちょっとした気分転換になるじゃないですか。
わん太郎のところも『わん“も”寂しいのかな』→つまり山田は寂しがっている、散歩に行く→山田的にはわん太郎の気分に同調するって感じで、さらっとこういう行動を描写するのが綺麗。のりお先生が描くこういうの本当に凄いと思います。
この辺が6、7、8ですね。
そして9。個人的にはこういうところが物凄く山田っぽい。多分この瞬間は嬉し過ぎて、約束のこと、さっきまで不機嫌だったことや市川へのメッセージのこと、全部頭から消えたと思うんです(笑)。
すぐに思い出して、取り繕うように立ち去ろうとするけど市川が追ってきて、来た理由を話す。カレーが大好物だと……それが素直になれない市川の態度ってことはもう山田には分かるので(しょーがないなぁ)となる。
エレベーターでは「会いたいならそう言いなよ」という。これはもう完全に調子に乗ってますよね(笑)。夏合宿から帰るときと同じ少しウザい、いつもの山田。
全体の所感
冒頭で書いたようにKarte.155はどっちが先に“会いたい”と言うかの攻防戦だったと思います。もう少し言うと、きっと2人の間では
って共通認識があって、でもそれをお互いに言い出せない感じだったんじゃないかなと。市川的には自分から持ち出した約束だし、抜け道みたいな提案をするのは格好が悪い。山田的には市川の受験のことを考えると、会いたいからと甘えちゃいけない気がする。でもお互いにどんどん会いたくなってる。
先に我慢できなくなったのが山田で、はっきりとは言わないけど(家の中なら~)と分かる感じで水を向ける。市川もそれを察しつつまだ踏ん切りがつかなくて、電話で交わそうとしても通用せず山田に詰められて、最後には折れる。
結局お互いに自分の気持ちをはっきりとは言ってないんですよね。そこは察してくれと甘え合っているし、でもそれで意思疎通できてる。とても羨ましいですが(笑)、今の2人の関係が伝わってくる回でした。
サブタイトルが山田視点になった件
ここからは考察です。
僕ヤバのサブタイトルは基本市川視点で『僕は~』あるいは『僕らは~』となっています。ところがKarte.155のサブタイトルは『私は物分かりのいいフリをする』、つまり山田視点です。何の意味もなくこんなことをするわけがないと自分は考えているので、その辺りを書いていきます。
基本が市川視点である理由
僕ヤバは基本的に、市川の一人称で描かれる物語だからです。市川視点なので、市川以外のキャラは心の中の声が描写されません。マンガ的に言うと、他キャラに下図のような吹き出し&セリフは出てこないんです。
それは市川が彼らの心の声を聞くことが出来ないからです。他者が何を考えているかは分からない。現実世界と一緒ですね。
それはヒロインの山田も例外ではありません。というかむしろ、山田の心の声が分からない、ブラックボックスになっていることが作品の魅力になっています。ざっくり言えばそこに読者が想像する余地があるんですね。僕ヤバでは市川メインで描かれるコマは一人称、山田メインで描かれるコマは三人称に切り替わりますが、それでも心の声は描写されません。劇中だと8巻Karte.102で、半沢さんへの手紙という形で描かれたのが1番近いのかな。まぁ、かなり徹底されてます。
というわけで、サブタイトルが基本市川視点なのは作品の構造そのものに理由があります。
そもそもサブタイトルが山田視点になると何が大ごとなのか
サブタイトルが山田視点になったケースが過去に2回だけあります。これは同時に、山田の心の声が描写されたことが2回だけあるという意味です。Karte.112『私は伝えたい』、Karte.113『私の恋心』。山田の告白と2人が交際する回がそれです。結末は言わずもがなですし、どちらも山田がかなり動きます。
つまり先ほどの話を踏まえ、僕ヤバでは山田の心の声は分からないことが重要な位置を占めていて、その前提から外れる場合は物語に大きな出来事が起こっているんです。今のところ一例だけですが、その一例が相当特別であることは理解してもらえると思います。だから今後に注目したくなるんですよね。
なぜ山田視点になったのか、理由を想像する①
性質上、展開予測と重なってしまいますが。
1つには今まで書いてきたように、物語を大きく動かす可能性が考えられます。といってもそれだけでは根拠に乏しいので少し付け加えます。技術的な側面。
個人的には今後、性的な部分へフォーカスするんじゃないかなと思ってまして……
そこを描くなら山田の内面が少しは分かったほうが良いと思うんですよね。なにしろデリケートな話なので、描写1つで齟齬が生まれやすいし、しかも致命的なものになりかねない。とはいえ何もかも説明してしまうのは僕ヤバらしくは無い。そこでサブタイトルを利用するという。
今回のKarte.155はサブタイトルのお陰で、山田の感情の在りかが分かり易かったと思うんです。初手から山田が我慢していることも分かるし、その後の言行も全部市川と会いたがってるからだと伝わります。山田が何を考えているか読者は悩まなくて良い。サブタイトルだけで随分違うわけです。
そんな感じでのりお先生が今後のために、使える武器を1つ増やしたのかもという仮説。
なぜ山田視点になったのか、理由を想像する②
もう1つは作品構造の変化に伴うものです。以前Xでこんなことをポストしました。
要約すると、僕ヤバで描かれるものが『市川&山田が生きていく世界』のように変わった、そんな話です。
直近でまさにこの部分に触れる『山田と芸能界と市川』の話が描かれました。その話は単行本11巻収録分になるのですが、この11巻がほぼ全編異質なつくりになっています。2人の交際についての問題が単行本の前半で発生し、それを解決しないまま保留状態で進行するんです。これについては山田がどう思っているのか、どんな感情なのか、明らかにわざと触れつつ濁されていました。
にもかかわらず最後にいきなり、そして確実に山田の関与があった形で一応の決着を見ます。山田が何かしたことは分かるけど、何をしたかは明確にされていません。
山田の内面がブラックボックスになっていることは先に書きましたが、ここまで長期間にわたって意図的に匂わせつつ隠されたのは初めてのことです。個人的には凄く好意的に受け取っていて(なんかおこがましい言い方ですが……)、挑戦的で攻めていると感じたのですが、なんにせよ新しい試みだったと思います。
つまりその一連を受けての今回の話かもしれません。例えばKarte.155のサブタイトル『私は物分かりのいいフリをする』は、明らかに前回Karte.154を引きずっています。であれば11巻で不透明だった部分――おそらく山田が頑張った部分――がこれから明らかにされるのかもしれません(これは11巻で補足されるかもしれませんけど)。あるいはもっと単純に11巻の反動のごとく、この先の12巻収録分は山田のことが見えやすくなった山田のための話になるのかもしれません。
そんな風に考えるとキリがありませんけど、ようはここでも新しいことに挑戦するのかもという意味です。で、個人的にはその可能性が高いように思っています。根拠は……のりお先生はそういう人なのではと、勝手に思っているので(苦笑)。
その意味ではサブタイトルが山田視点になった理由は①と②両方かもしれないし、勿論それ以外かもしれないし、もっと色々な理由があるかもしれません。だから次回以降も山田視点のサブタイトルは出てくると思います。このまま続くのか、市川視点と入れ替わりになるかは分かりませんが。
考えたってキリが無いけれど、考えると楽しいことがまた1つ増えたという感じです。
まとめ
Karte.155の感想と考察は以上です。
まとめと言いつつまとめないので(苦笑)、目次からざっと……全体の所感・サブタイトルが山田視点になった件あたりを読むと分かり易いかと思います。
後日、ここに入りきらなかったものを雑感としてアップ予定です。
長々と書きましたがここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。
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