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第十八話 冬籠り 連載 中の上に安住する田中
兄が、彼女とさらには両親をも連れて、近くの高原に車で出かけた。しょぼい、寂れた観光地だったのが、最近再開発されて小洒落たレストランとかカフェとかもできたらしい。
彼らが広い景色と澄んだ空気の中で、お茶をしている間も、自室のレースのカーテン越しには冬の澄んだ空がぼんやりとみえるだけで、何も特別なことはなかった。雪が降ってるわけでもないし、風もさほど強くはない。僕と、多分姉がまだいる実家は静かだった。
何をしてるのだろう。兄に憧れたことはないけど、昔は、姉みたいになれたらいいのになとうっすら、でもずっと思っていた。
本当に小さい時は、大人しい子だったと、親から聞いて居て、本人もそれを認めているが、僕が物心ついた時には、もう姉は、口数は少ないものの、はっきりとした物言いの、気の強い今の姉だった。でも兄みたいに自己中心的ではない。自分は通すけど、それと同じくらい他人も立てる。歳が離れているからだろうか僕には優しかった。だからこそ、反抗したい気持ちがあって、仲が良かったわけでもないけど。それでも尊敬はずっとしてた。
僕が、今の僕じゃなかったら、姉みたいになっていたと思う。つまり、平均より少しだけ人当たりが良くて、仕事の出来は中の上で、人より少し気が利く僕ではなかったら、普段は寡黙だけど言う時は言う、メリハリのある男になっていたかもしれない。と言うか、そんな人にならなっててもよかったと思う。
そのうち、なんでこんなにも姉は完璧なんだろうかと、疎ましくさえ思えてくる。ネガティブな感情を打ち消すように、自室を出て台所に向かった。水を一杯飲んで、すぐ洗面所で顔を洗った。台所に戻る前にやはり歯も磨くことにした。
「ただいま」
冷蔵庫を物色していると姉が帰宅した。家にいると思っていたが、違ったらしい。
「もう行っちゃったの?」
うんと答えると、ヘー、と生っぽい返事が返ってきた。
「じゃあ一緒に食べる」
夕飯には少し早い気がした。が姉は矢継ぎ早に、
「何が良い?」
と、携帯を片手に、もう出前を取る気満々だ。僕の返事も待たずに。
「あるものでいいよ。おせち残ってるし」
そう言っても、彼女の気は変わるはずがない。
「じゃあお寿司ね」
と、すでに電話をかけながら、姉は百貨店の紙袋からバームクーヘンを取り出し、これデザート、と言わんばかりに目配せをした。
続く
連載 中の上に安住する田中 ——超現実主義的な連載ショートショート——
この物語はフィクションです。
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