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ジャパニーズ・イングリッシュが異文化を超えるー自分英語の話し方

1986年から異文化マネジメントコンサルタントとして20カ国で、日本の企業を取り巻く人と組織の異文化問題に携わってきた。その根幹には、35年たっても変わらない言葉の問題があった。

もう「ネイティブ英会話」はやめよう

ネイティブ英語を話すことを「理想」や「到達点」にして彼らの英語の使い方にどの程度近いかを「優劣」の尺度にしていると、ネイティブでない日本人が英語をものすることは決してない。

もちろん、人生を懸けて取り組む人の中にはそれを成就する人がいる。4年間師事させて頂いた師匠(松本道弘・英語道場創始者・日本のディベート教育の唱道者・『最新日米口語辞典』共編者)がそうだったが、それは例外としたい。ここのポイントは、人生の優先順位において、どこをゴールに定めるのか、ということだ。

ネイティブの英語は英米の社会環境で必要だった環境の中から生まれた言葉だから、まったく異なる思想や社会構造を持つ日本人が「理想」にすべきものではない。上手いか下手かの尺度も英米社会の尺度で図るべきものではない。誉め言葉やビジョンの示し方、歓喜の表し方、傾聴、反応の仕方――すべて社会文化と不可分だ。

ビジネスの相手は我々の話す英語なんか聞いていない

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巧拙の尺度は、話してみて信頼関係がどれくらい深まったのか、折衝の成果はどうだったのか、自分の想いがどれだけ通じて、他者との共通理解をどの程度創れたかで自己判断すればいい。判断が難しければ相手に聞けばいい。そもそもビジネスの相手は我々の話す英語なんか聞いていない。コンテンツを聞いている。言葉を介して人物を感じとろうとしている。

日本語は日本文化圏でしか流通していない特殊言語だが、英語は国際語として世界のあらゆる地域で現地化し生活言語として使われている。多様性のあるグローバルなコミュニケーションの時代と言いながら、英語の英米血統主義という時代錯誤の思想がいまだに英語教育の主流になっている。国際英語を使う非ネイティブの私たちが、気後れを脇において、粗削りでも持論の溢れる英語をきちんと話すことで、ネイティブ英語話者たちに言語の文化相対性を啓蒙していけばいい。

明治の近代化で日本は英米人の使う英語を道具として欧米文化を吸収したが、思想まで欧米化を目指した訳ではない。しかし敗戦を経ると日本精神までがアメリカ化によって換骨奪胎され、それが戦後の英語教育の基盤となり今に至っている。

その結果、虚妄の英語産業に踊らされ、理想とする自我像や社会像を持たず、国際ビジネスや外交において感じる劣等感か、その裏返しの日本優越感が溢れている。

英語力の高低が、自尊心の高低になっていないか?

日本の英語教育 図

国籍に関わらず、人の言葉は何語であれ、その人の言葉であって欲しい。いや、むしろ、お国柄がそこはかとなく感じられる言葉の方が、世の中がカラフルになってもっと豊かになる。イタリア人も、中国人も、日本人もみんなが英米語を離すようになったら、世界は大変味気のないものになってしまう。

日本人が日本をもっと誇れるようになって初めて異文化に寛容になれる

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世界の人々が暮らしを守り人生を拓くために日々使っているように、日本人も自分の暮らしを守り切り拓くために、自分らしい、自分にしか話せない英語を話せばいい。その“ジャパニーズ・イングリッシュ”を獲得した人だけが、異文化に卑屈にならず、劣等も優越もなく寛容になれる。日本人がグローバル化するにはもっと日本的であろう。日本人が日本をもっと誇れるようになって初めて異文化理解ができる。

グローバル化するにはもっと日本的になれだって? とんでもない、河谷はたった今、英語は国際語になったと言ったじゃないか。国際語の英語を話すのに、どうして、話者の国籍や文化性を言うのかと。「普通の国」ならその通りだ。国籍なんか云々しなくても勝手にインドらしさ、ドイツらしさが溢れている。英語を道具として使い倒し、食べるためなら虚偽の直前で寸止めする。内容で真向勝負しているからだ。それでいいのだ。それがゴールだ。

ところが、その気概が、留学をしたわけでもない、帰国子女でもない、普通の日本で教育を受けたサラリーマン・ウーマンの使う人の英語にはない。日本を支える大半は普通のサラリーマン・ウーマンだ。彼らの英語がシャンとしないと、輸出入の貿易英語はできても、異質をぶつけ合って、喧嘩して、新しいものを産み落とすというコラボレーションの力技ができなくなる。だから誤解を承知で、日本人英語とか自分英語を言って、覚醒を促そうとしている。そこを理解してもらいたい。

どうしても他者に伝えたい「メッセージ」が体内にあって、         その高まりに抗しきれなくなった時・・・

では、どうしたら「自分英語」が口から出てくるのだろうか? それは「どうしても他者に伝えたいメッセージ」が体内にあって、その高まりに抗しきれなくなった時。伝えたいことが湧き上がってこないのに、言葉が出てくるわけがない。世界の非ネイティブの人たちが一気に言葉をマスターするのは、まさに生活がかっているからだ。

食べる。家族を守る。職を得る。そんな survival に全く関係しない環境で「日常英会話」だという。そんな生活感のない練習をして何が脳に刻まれるのだろう。でも、現実はそれで十分のようだ。アセアン駐在員のための現地式エンゲージメントやリーダーシップのフレーズを集めた『英語の話せるボスになる』(河谷隆司・日経ビジネス人文庫)は初版で轟沈した。これが現実だ。2005年当時、日本には英語でボスになりたい人がいなかったようだ。アセアンではこの元になった本(PHPシンガポール版)はベストセラーとなったけど。収めた表現が駐在員のパフォーマンスに直結したからだろう。

一度の人生に何も影響することのない「英語の勉強」が一生続くことに、私は耐えられない。だからかれこれ20年くらい前から英語の勉強を止めた。ちょうど、クアラルンプールから世界20か国へ出講し始めた頃だ。それ以来、私の英語はStreet Englishとなり、逆にかなり通じるようになってきた。

英語の勉強を止めたら英語が伸びた2つの体験

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ワシントンDCのDiversity Summitカンファランスの分科会。私の挑発からプエルトリコの大学教授や米国人の参加者と大激論となったが、司会のMercedes Bents USAのDiversity Directorが私の論を支持して議論を収めた。diversityの本拠地の北米でも俺の持論が通じたぞ、と満足しつつ席を立ち上がると、大男が近いづいてきてこう言った。”You are interesting! Would you like to work for us?” 自己紹介や名刺交換なんかない。その晩、英国本社に私のことを伝えたようで、それから半年後、私の前に日本の石油会社の多国籍の全役員が座っていて、社内コンサルと一緒に同時通訳が入って Diversity Workshopを行った。氏はヒューストンにあるShell groupのダイバーシティ本部の幹部だった。

東京のビジネススクールで8割外国人の社会人学生に Excelling in Japanese Corporate Culture の4時間の英語セミナーを行った。終了後、2人の米人教授が私の演台へやってきてこう言った。”You have made us students today”(本日は大変勉強になりました:お恥ずかしい限りでした、と聞こえた)。信仰心の日欧比較から入って、組織化原理を掘り下げ、日本型の勤労観を例示し、討論を行った。日本一流のMBA卒でも日本企業を早期に止めてしまうことが院側の講座開催の動機だった。

私は博士課程くずれだが、組織行動と国際金融の米人博士にもささやかな価値を提供することができた。英語を捨てて時間を持論を研ぐことに投下した成果だと思った。

ここで、ポイントをまとめてみたい。

1.非ネイティブが貴重な人生の時間を使うに値する英語は、「ネイティブに笑われない英語」とか「アメリカ人が毎日使っているフレーズ」ではない。貴重な人生を削って習得すべきは「自分の想いを伝える英語」のはずだ。家族の生活や職業を守り、課題を解決し、対話によって他者と何かを生み出していくことを可能にしてくれる英語だ。

2.世界を知らない一部のネイティブスピーカーは、話し言葉の洗練度で人間性や知性を判断してしまうから厄介だと述べた。それが英語の先生だったり、欧米企業の幹部だったりするともっと困る。彼らは、朴訥な英語の中に、話者のメッセージの鋭さや知性を聞き分けることのできる言語能力(国語力)のない人達だ。私は世界20カ国で日本人を含む非ネイティブとどっぷり仕事をする中で、朴訥とした話し方をする人の中に、マネージャークラスになると、かなりの高確率で英米のビジネススクールで教えられているグローバルリーダーシップの本質(例:Does my boss care about me?)と何ら遜色のない真理を語っている事実を、100名近くにビデオインタビューを行って確認してきた。

3.なので、結構な労力が必要だけれど、「ネイティブ対策」をしておかなければならない。いくら「日本人英語だ!」「自分英語だ!」と叫んでも、日本人にしか理解されない英語では自慰行為でしかない。それでは、「自分の想い」は伝わらないし、家族の生活や職業を守り、課題を解決し、対話によって他者と何かを生み出すことはできない。仮称「自分英語」とはそんなひ弱な英語力とは違う。寡黙でも、誠実で、人柄、お国柄の香り立つ言葉だ。私はこれをBurning Messageと呼んでいる。これこそ非ネイティブが理想とするにふさわしい英語習得のゴールではないだろうか。ネイティブ英語の金縛りはもうない。キーコンセプトは、authentic, creative, robust, and funだ!

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4.Burning Messageを相手の胸に届けるには、ネイティブの話す英語についてゆけて、違和感を感じたら即カットインして、持論を挟み込み、誤解には反駁し、公の場ではディベートのできる力を日々、磨いていくことが基本になる。日本人英語だからといって甘えはない。甘えると「ロンドンに赴任して二年間、会議中にカットインできないのがとても辛い」(IT大手マーケティング担当)となってしまう。

それと滅茶苦茶効果的なのが日中でも酩酊しておくことだ。元同僚の米人コンサルは日本人研修生にこう言って受けていた。"I want the Japanese businessmen to be always drunk!" ほんとにこれ以上のアドバイスはないでしょう。「アフターファイブの皆さんは、何とfun でcreativeな人達なんでしょう。いつもそうあってちょうだい!」というのが彼女の真意だった。ほんとにその通り。自分をさらけ出す! 恥もジレンマも見果てぬ夢も。大声で。欧米のリーダーシップ論では "Be open to your vulnerability."(自分の弱さを隠すな)と言っている。あれに通底する発想だ。

だから私も歯を食いしばって長時間かけて、LinkedInで英文を書いて、Success Japan Initiative (文末リンク)の旗を立て、多国籍の参加者へ日本の勤労観を発信している。乱取り稽古のつもり。オリンピックの柔道選手の感情表現や礼節などについて書くと、外国人からは大変多くの反応がくるけど、日本人からは皆無だ。独りぼっちはつらい。

Burning Messageを体内から放出することをゴールにセットすると、自分の思想やパッションとは無関係の英語フレーズから  →→→  自分は何を伝えたいのか、その結果、相手とどうなりたいのか、に関心が動く。そのために役立つネイティブフレーズならどんどん取り込んだらいい。それが理想だからじゃなく持論の展開に役立つからだ。つまり、解は、外じゃなく、自分の内側にあるのだ。

英作文問題:以下の・・・を埋めてみよう

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最後に、この文章に挑戦して欲しい。あなたはこの文をどのように完結させるだろうか?

このような問いに、すんなりと答えることのできる人が、異文化を超えてしまう国際人なのだろうと思う。

What I am most proud about my job is …

I need you to work with me, because…

I’ll be able to add my biggest value if you could…

異文化やダイバーシティのポリコレ(politically correct)論議はおさらばしよう。ネイティブ信仰の英会話もやめよう。そして自分=日本文化の宝箱を開けて世界に見せつけよう。その時、異文化問題や英語の金縛りが解けて真の国際人が現れる。

     「真の国際人とは海外でも信頼される日本人である」          数学者 藤原正彦 『国家の品格』

        **************

初コラムでは、これから始める連載の背景にある考え方を述べました。連載は、海外見聞録、自分英語のヒントになるエピソード、外国人インタビューから日本人への直言の一言などになります。いずれも英語表現が出てきます。ぜひフォローしてみて下さい。みなさんとのコミュニケーションを楽しみにしています。よろしくお願いします!

河谷隆司

異文化マネジメントコンサルタント

株式会社ダイバーシティ・マネジメント研究所 代表取締役

▶日本の勤労観と日本語表現、アセアンのビジネス文化などを動画で教えています。今後、バーニングな英語表現も検討中です。

●How to Speak Japanese Cross-culturally

https://www.udemy.com/course/how-to-speak-japanese-cross-culturally/?referralCode=A66CD0BB2C5C7E90D27F

●アセアン異文化全10カ国・速習講座<基礎編>
https://www.udemy.com/course/10-onoku/?referralCode=7A31C8D458D9920A959C

▶Success Japan Initiative: https://www.successjapanseminars.com/

▶活動全般はこちらへ https://www.diversityasia.com/

▶連絡やコラボは successjapan@outlook.com

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