なぜコンテンツは短くなるのか?──SNSが変える「ヒット作品の法則」
「ドカ食いダイスキ! もちづきさん」(ヤングアニマルZERO&Web)をご存じでしょうか。X(旧Twitter)で日本のトレンド1位になったマンガです。
コミチは白泉社「ヤングアニマルZERO&Web」運営のお手伝いをしていますが、「ドカ食いダイスキ! もちづきさん」のトレンド入りにはとても驚きました。何よりも、まだ第3話までしか配信されていません(2024年6月20日時点)。
なぜ話題になったのか。読んだ方々のコメントを見ながら思ったのは、XというSNSとの相性の良さです。主人公のもちづきさんが「こんなに食べてはいけないとわかっているけど、ドカ食いしてしまう」姿に、「わかる」「わたしもこんなに食べている」という共感が集まりました。
Xは「#マンガが読めるハッシュタグ」などがあり、昔からマンガが読まれるプラットフォームです。特に、日常や生活を描いた”エッセイ漫画”は人気のジャンルで、Xで人気になった作品が本になるケースはたくさんあります。もちづきさんの日常を描いている、という意味では「ドカ食いダイスキ! もちづきさん」も近いものがあります。
そんなことを考えていたとき、「ウェブトゥーン(Webtoon)では異世界転生もの、悪役令嬢ものなど、特定のジャンルしか売りにくい」といったことを聞きました。「読者はマンガに新しさを求めるもの」と思い込んでいたこともあり、その理由が知りたくなりました。
真っ先に思ったのは「プラットフォームごとに好まれる作品 / コンテンツがあるのでは?」ということです。今回は、いろいろな事例をもとに、この仮説を検証します。
音楽ストリーミングサービスが変えたヒット曲
最初に思い出したのは「ヒット曲のイントロが短くなっている」という話。2022年の記事ですが、ファスト映画が社会問題となったことから『映画を早送りで観る人たち』がベストセラー本になり、時間効率を重視する「タイムパフォーマンス(タイパ)」が流行したタイミングです。
次のような解説がありました(太字は筆者)。
SpotifyやApple Musicなどの音楽ストリーミングサービスの普及が、アーティストの楽曲づくりに影響を与えているのではないか、という見解です。
カラオケの流行で「サビ始まり」がブームになったと聞いたことがありますが、音楽ストリーミングサービスでさらにイントロが短くなったという話です。
YouTubeが変えたゲーム「ヒットの法則」
2024年1月に発売した『パルワールド(Palworld)』については、エンターテインメントに関わる人なら知らない人はいないでしょう。ほぼ無名だった日本のゲーム会社「ポケットペア(Pocket Pair)」がつくったゲームが、たった1ヶ月で世界で2500万人がプレイする超大ヒットとなりました。
パルと呼ばれるキャラクターを捕まえて、育てたり働かせたりして冒険するオープンワールドゲームです。「ポケモンっぽい」と批判の声がありつつも、熱心なゲーマーからのゲーム性への評価が高いことが売上を後押ししました。ポケットペア代表の溝部拓郎氏が次のように語っていました(太字は筆者)。
YouTubeでのゲーム配信に向いている作品 / コンテンツかどうかが大事だ、という指摘です。ゲーム会社が大きな予算をかけてつくった超大作が売れない、モバイルゲームも新作が定着しない、という話はよく聞くので、ユーチューバビリティは腑に落ちる言葉でした。
短い作品 / コンテンツはSNSに投稿しやすい?
「マンガはアンソロジー(短編集)ものが売れ線」という話を思い出しました。
ちょうど『チェンソーマン』などの大ヒット作品を描かれている藤本タツキさんの『ルックバック』が劇場アニメで公開(6/28公開)されますが、同作品も「短編」でSNS(特にX)で大きく話題になったことを覚えています。
作品が素晴らしいことは言うまでもありませんが、「短編だからすぐ読める→SNSで感想コメントがしやすい」ことは、ありそうな気がします。
YouTubeやTikTokで大流行した『8番出口』は、個人制作のインディーゲームながら50万本の大ヒットとなりましたが、どれだけ早くクリアできるのかを競うRTA(Real Time Attack:リアルタイムアタック)の記録は1分台です。平均クリア時間も15分〜30分と言われており、短い時間で楽しむことができるのが特徴です。
下記の記事では『8番出口』ヒットの理由として、1本500円前後という価格の安さ、消費者の超大作疲れ(タイパが悪い)、インディーゲームは斬新なアイデアや実験的な作品をつくりやすい、などが挙げられていました。
「短編だからSNSに投稿やすい」という理由だけではなさそうですが、「タイパ」は要因の1つとしてあるようです。
コンテンツは「検索」から「探索」へ
Netflix、Spotify、App Store、Steam、ピッコマ etc. ひとえに配信プラットフォームといってもいろいろあります。 X、YouTube、TikTok、Instagram、Facebook etc. SNSもいろいろです。(ただしYouTubeはそれらの中間に位置していそうですね)
ひとくくりにして考えるのはむずかしそうですが、ヒントになりそうなのはECにおけるAmazonとメルカリの違いです。
Amazonは「買いたいもの=目的」があって訪れる場所、よく”自動販売機”にたとえられます。一方で、メルカリは「何かいいものないかな=娯楽」で訪れる場所、よく”雑誌”にたとえられます。
ここまでの話を振り返ってみると、配信プラットフォームは、どちらかといえばAmazon的に”特定の作品”を指名買いする場所になりやすいのかもしれません。言い換えれば「検索」の場です。
SNSは、どちらかといえばメルカリ的になんとなく見ていて”何かいいもの”を見つける場所、つまり「探索」の場になりやすい。
大ヒットがSNSから生まれやすくなっていることを考えると、今は良くも悪くも「探索」から作品 / コンテンツを逆算して「プラットフォーム最適化(PFO:Platform Optimization)」するほうが優位にあるのかもしれませんね。
作品 / コンテンツを創るみなさんは、PFOしてますか?
最後に
とりとめもない話を書いてしまいました。最後まで読んでいただき大変にありがとうございます!ぜひ感想なども、Xに投稿いただけると嬉しいです。
マンガDXのスタートアップ「コミチ」のCEOとしても、どうやってマンガ家さんの作品を読者に届けたらいいのか、毎日のように目の前のデータを見ながら頭を悩ませています。引き続き、”プラットフォーム最適化”のような概念を考えながら、マンガを読者に届けるのにいちばん良いやり方を考えていきたいと思います。
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それでは、また次回のnoteで。
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