米国のマンガ市場が急拡大している件
JETRO(日本貿易振興機構)が公開したレポートで、米国のマンガ市場が大きく伸びていることを知りました。
米国マンガ市場はYoY(前年度比)23.2%と高い成長率となっており、2030年には38.87億ドル(約6115億円)の市場規模となる見込みです。
私はマンガSaaS事業を展開するコミチのCEOを務めていますが、最近になり米国など世界での展開を考え始めたところです。米国のマンガ市場を調べてみたところ、売れているマンガの傾向などがとても面白かったのでnoteにまとめてみます。
「マンガ」は北米で最も人気のカテゴリーの一つに
米国で、POSデータを収集する「BookScan」のデータでは、マンガは「グラフィックノベル(Graphic Novels)」に分類されています。グラフィック(視覚的な)とノベル(小説)で成り立つ「長尺の本」で、「絵本(Picture Book)」とは異なるジャンルとして、児童書のように少し上の年代の子どもたちに向けたものだそうです。
たとえば、アメリカでは6巻まで発売され、累計2300万部を売り上げている『ドッグマン』はこんな感じのテイストです。邦訳も出版されていました。
この記事にある写真のように、「グラフィックノベル(Graphic Novels)」は書店で「マンガ(Comics)」と並んで売られていることが多いそうです。
米国の出版社の方々がよく読む専門誌「パブリッシャーズ・ウィークリー(Publishers Weekly)」の記事には、次のように書かれています(太字は筆者、以下同)。
グラフィックノベルの約半分がマンガとのことで、非常に大きい市場になっていることがわかります。
米国マンガ市場では、どんなマンガが売れた?
米国マンガ市場の2023年「出版社別 売上シェア」がこちら。
第1位:VIZ MEDIA(57%)
「VIZ MEDIA」は1986年にVIZ, LLCとして設立、2005年にVIZとShoPro Entertainmentが合併して現在に至ります。集英社と小学館、小学館集英社プロダクションの関連会社です。2023年のマンガ売上ランキングに入る作品のうち約63%が同社によるもので、作品別の第1位は『チェンソーマン』で全13巻すべてがトップ750にランクインし、93万3,000部を売り上げたとのこと。第2位の『鬼滅の刃』が92万8,000部、第3位の『SPY×FAMILY』が67万6,000部、『呪術廻戦』『僕のヒーローアカデミア』がその次に続きます。
第2位(同率):YEN PRESS(13%)
「Yen Press」は2006年にフランスを本拠とするアシェット・リーブルの米国現地法人であるアシェット・ブック・グループの系列出版社として設立、2016年4月にアシェットとKADOKAWAとの合弁会社となりました。2023年の最大のヒット作はスクウェア・エニックスの『月刊Gファンタジー』で連載する『地縛少年花子くん』で40万7,000部を売り上げました。これは正直なところ意外でしたが、アニメが米国内でヒットしたのかもしれません。米国マンガ事情に詳しい人にお話を伺いしたいところです。第2位の韓国ウェブトゥーン発の大ヒット作『俺だけレベルアップな件(Solo Leveling)』は7巻で25万1,000部、第3位の『推しの子』は11万3,000部です。
第2位(同率):KODANSHA(13%)
「Kodansha USA Publishing, LLC」は、2008年に講談社の子会社として設立、講談社のマンガのローカライズと出版を担っています。2023年ベストセラーの第1位は『進撃の巨人』で35万1,000部を売り上げたそうですが、2022年は80万部だったとのことで、売り上げは前年から大きく落ち込んでいます。第2位が『ブルーロック』で29万7,000部です。面白いところでは『セーラームーン』の第1巻がベストセラー750全体の第4位で4万2,000部の売り上げ、『ヴィンランド・サガ』の第1巻が同じく第9位に入っています。
第3位:Seven Seas(9%)
「Seven Seas Entertainment, LLC」は2004年の設立、2005年にPSP用の電子書籍配信サービスで成功し、メディアワークスなどの出版社からライセンスを受けてマンガを出版しています。2023年の最大の売り上げは『東京リベンジャーズ』のオムニバス版で1巻が1万7,000部、4巻が1万4,000部。『ゲッサン』(小学館)で連載する『大ダーク』が1万7,000部で同じぐらい、韓国レジンコミックスの『キリング・ストーキング(Killing Stalking)』が1万4,000部、中国の小説が原作の『魔道祖師(Grandmaster of Demonic Cultivation)』が同じく1万4,000部です。とてもバラエティに富んでいます。
第1巻と最新巻しか売れない「ハンモックの原理」
米国マンガの売れ筋を見ていると古い作品が売れていることや、第1巻だけ異常なほどに売り上げていることに気づきました。どうやら書店流通に課題があるようです。再び専門誌「パブリッシャーズ・ウィークリー(Publishers Weekly)」の記事では、次のように書かれていました。
調べてみると、日本では書店で売れ残った本を返品できる委託販売制度がとられていますが、米国は返品できるわけではないそうです。
また、次のように述べられていました。少し長いですが引用させてください。米国の書店流通事情がよくわかる記事でした。
「最初の数巻」と「最後の数巻」が最も売れて、最後から「真ん中の巻」に向かって売れ行きが最も悪くなる。こうした売れ行きをグラフに表すとハンモックのように見えることから、「ハンモックの原理(The Hammock Principle)」とも呼ばれていました。
「米国マンガ市場」3つの最新動向
最後に、私が米国マンガ市場を調べていて「面白い傾向だ」と思ったことを3つ挙げたいと思います。
①図書館のデジタルマンガ市場が伸びている
日本の電子書籍取次大手「メディアドゥ」が電子図書館プラットフォーム大手の米国「OverDrive, Inc.」と組み、数千冊のマンガを提供しているとのこと。学校向けのSoraアプリや公共図書館向けのLibbyアプリを通じて、電子コミックから日本のマンガを知る読者が増えるのではないかという話がなされていました。
②日本以外のマンガが売れている
先ほどの売り上げランキング上位に韓国や中国のコミックがありましたが、日本以外のマンガが売れてきているそうです。特に韓国のウェブトゥーンから紙のコミックになる例が増えており、2024年には『Dog Days』 『The Awl』『Reborn Rich』『Maron the Magic Ocean』などの作品が英語で出版予定であると紹介されていました。ほかにも中国、台湾などのマンガも出版が増えているとのことです。
また世界最大の出版社「ペンギン・ランダムハウス(Penguin Random House)」は、2023年にウェブトゥーンやマンガの読者を対象に、世界的なクリエイターによるコミックを取り揃えたレーベル「Inklore」を立ち上げて話題となりました。
③米国市場にフィットした作品を創る試み
講談社USAは、日本の漫画家によるオリジナルシリーズを北米の講談社リーダーポータルを通じて配信して、その後に日本でリリースするという新たなアプローチを始めているそうです。SFアクションシリーズ『Re:Anima』、ホラーアクションシリーズ『Blood Blade』、ファンタジーアドベンチャーシリーズ『The Spellbook Library』などの作品があります。
同社CEOのアルヴィン・ルー氏は、事業の目標は「素晴らしい日本のクリエイターとその作品を英語を読むファンに直接届けること」「過去 3 年間の成長は、間違いなくプラスに働きました。いつもの作家やいつもの作品だけでなく、漫画業界全体が活況を呈しており、さまざまな種類の作品が求められていました。だから、今こそ実験の時だと感じたのです」とインタビューに答えています。
コミチも世界に向かって頑張ります
マンガDXのスタートアップ「コミチ」のCEOとしても、グローバルにマンガを届けることは最重要のテーマだと考えています。コミチのミッションは「マンガを世界に知らしめる」です。
今回のnoteは私が調べたことをそのままお伝えする内容でしたが、こうしたリサーチを自社のビジネスにつなげていきたいと思います。最後まで読んでいただき、大変にありがとうございました!
最後にPRです。マンガDXのスタートアップ「コミチ」は、いっしょにIPOを目指す仲間を募集中です。特にマンガメディアのディレクターや開発PM/PdM候補を急募しています!
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それでは、また次回のnoteで。
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