光の中で逢いたい人
光の中に消えていった2人のヒーロー。
今から約20年前。俺は、とある特撮ヒーロードラマの最終回を固唾を呑んで見守っていた。
「ウルトラマンダイナ」
当時4歳だった俺は、地球を守るという使命のために、身を投げ打って悪と闘うその姿に魅了されていた。平和な世界に突如現れた地球外生命体。逃げ惑う人々。壊れゆく街並み。ダイナは、人々の危機に必ず駆けつけ、彼らを懲悪し、遠い空へと去ってゆく。
想像もできない幕切れだった。
宇宙空間における長い戦いの末、ダイナはブラックホールに吸い込まれ、二度と還って来ることは無かった。自らの命と引き換えに、世界に平和をもたらしたのである。
20年経った今でも、脳裏に深く刻まれている最後のシーン。
光の中で。ダイナ(アスカ隊員)は目を覚ます。
そこには、行方不明になった彼の父親の姿があった。
顔を見合わせて笑った2人は、果てしない光の先へと消えていったのである。
時は過ぎ、今から約8年前。
17歳の時、俺の父親はこの世を去った。
人の命は、どうしようもなく脆く、儚い。1人の命が消え去ったとしても、世界は何事も無かったかのように回る。身体にできた切り傷が、跡形もなく修復されていくのと丁度同じように。
俺が父親のことを忘れることは無い。それでも、家族や親戚以外に、今も父親のことを覚えている人が果たしてどれだけいるだろう。
寝転がって野球中継を見ながら、三振した選手の文句を言う姿。酒を飲んでは上機嫌になり、訳の分からないことを楽しそうに話す姿。家族皆で回転寿司に行き、腹いっぱい食えと笑いかける姿。そんな父親の姿を今でも思い出すことがある。
父親は、消防士だった。
父親から、仕事の話を聞いたことはほとんど無い。これは、父親が亡くなった後に聞いた話だ。
その日、夜勤だった父親は、ある急患の対応のため救急車で出動していた。その患者さんは、俺が保育園児の時にお世話になった先生で、父親とも普段から親しい人だった。
くも膜下出血。
一刻の予断を許さない、生死を争う緊迫した状況だったそうだ。山奥の集落からの搬送のため、病院までものの数分で到着できる距離ではない。けたたましいサイレンと共に、病院へと急ぐ救急車。
このままでは間に合わない。最悪の状況が隊員たちの脳裏をよぎる。その時。
「運転代われ。このままやと手遅れになる。」
父親は、運転していた若い消防士にそう声を掛け、運転席を譲らせたそうだ。結果、父親が運転した救急車は無事に病院まで辿り着き、患者は死線を超え、一命をとりとめることになった。
もし仮に同じ状況にあったならば、どんな消防士だって同じ行動を取るのかもしれない。それでも、その話を知った時。父親に対し、畏敬の念を抱かずにはいられなかった。
人の命は、何よりも重い。生死を争う、想像もできないような緊張感の中を、どれだけの数だけくぐりぬけて来たんだろう。
父親は、俺にとってヒーローだった。
いつか、光の中で。父親に逢いたい。
ダイナが光の中で父親に出逢ったように。
そして俺も、いつか父親になった時。息子に胸を張って背中を見せられるような人間でありたい。
そんなことを考えている。
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