空間転移(テレポート)が技術的に実現した社会のSF考察(その5)

私用がバタついており暫く空いてしまいました。また再開したいと思います。

テレポーテーションを扱うフィクションにおいて、特に、この考察の最初に分類したようなカット&ペースト型のテレポーテーションにおいて、特に気になる点が、転移した先にどのように存在するのか、です。転移の仕方として、転移した先に“割り込む“という考え方と、転移した先と“入れ替わる“という考え方があると思われます。それぞれについて、考えていきましょう。

例1.例えば水中にテレポーテーションする場合
わかりやすい事例として、机の上のリンゴをプールの中にリンゴをテレポーテーションさせた場合を考えてみます。
“割り込み“型では、テレポートした物がテレポート先の空間に、元々あったものを押しのけて移動してくることになります。今回の思考実験の場合は、リンゴが水を押しのける形で現れ、押しのけられた水はどこかに移動し、プール全体としては、水嵩がリンゴの体積分増えることになるでしょう。では、転移する前にいた机の上はどうなるでしょうか?そこに存在したリンゴが忽然と消失した結果、その空間は正しい意味で真空状態になっているはずです。すぐに周囲から空気が流れ込み、真空状態は失われますが、その分空気の流れを突然と生み出すので、風力発電等にも応用できそうですね。
では、“入れ替わり“型ではいかがでしょうか?水中に移動する場合は、リンゴと同体積の水と入れ替わることとなります。水中に忽然とリンゴが現れるのと同時に、机の上にはリンゴの同体積の水が急に現れて、机がびしょびしょになるでしょう。

例2.例えば固体中にテレポーテーションする場合
次は、水ではなく、例えば固体の中に移動する場合を考えてみます。例えば、1辺10cmのコンクリートの立方体の中に、リンゴを転移させるとしましょう。
“割り込み“型では、水中の時と同じく、空間を押しのけてものが現れます。コンクリートブロックの中に現れたリンゴは、コンクリートの固さも無関係に、コンクリートを押しのけて出てくることになります。結果として、ブロックはリンゴの体積分膨張することになり、最低でも亀裂が走り、下手をすれば崩壊することとなるでしょう。
“入れ替わり“型ではいかがでしょうか?こちらはコンクリートブロックは外観を何も変えることなく、中にリンゴがおさまった形となります。一方、元々リンゴがあった机の上には、リンゴの形をしたコンクリートの塊が現れることとなります。
この例で言えるのは、転移されるものが転移先の物質の物性(硬度や組織構造)を無視して現れることにより、転移先の固体を破壊することができるようになることです。綿や紙で木を切ったり、ビルを崩壊させたり、とフィクションめいたことができるようになりますね。一方、転移先を人体とすれば、とても恐ろしいことが可能です。技術的に可能かどうかはさておき、人体含む固体を転移先に指定した転移は法的に制限されることになりそうです。

例3.例えば異なる緯度の地点に転移する場合
テレポート技術が社会的に使えるものになるには、異なる地点を差異なく転移できるようにしなくてはなりません。ここからここはいいけど、ここからここはダメ、というようなことが技術的にはないようにする状態が望ましいです。当然、現在の国際社会においては、海外に転移する、ということもそれなりに、いやかなり高いニーズがあると思われます。(飛行機で10何時間というのは、現代においても大変なので。)では、違う緯度に転移する場合は、いかがでしょうか。こちらは“割り込み“型も“入れ替わり“型も一緒に考えます。
我々地上にいては気づきませんが、地球というものは当然ながら毎日自転をおこなっている天体です。つまり、地上の物質には、自転の速度というものがかかっている状態です。では、この速度は地上のどの地点でも等しいか、と言われると、答えはNoです。地軸を中心に一回転し、また、地球が球形であるという特徴から、緯度が低いところほど回転する距離が長く、緯度が高いところほど短くなることとなります。では、具体的にどのくらいの差があるのでしょうか?東京とニューヨークで比較してみましょう。

http://www.bea.hi-ho.ne.jp/heigh-ho/web2/java/earth-jiten.htm

このサイトで自転速度を教えてもらいました。
東京駅(北緯35度40分39秒)地点の自転速度は、時速約1,360kmであり、ニューヨーク・自由の女神像(北緯40度41分21秒)地点の自転速度は、時速約1,270kmになるようです。つまり、何の制御もなしに、東京からニューヨークにテレポートした場合、転移した瞬間、東側方向に時速約90kmで放り出されることになります。毎回が交通事故になってしまいますね。テレポートがインフラ化するためには、毎回壁に激突するのはよろしくないので、この点は、ついた先の自転速度にアジャストされるような措置があると望ましいです。その意味では、“入れ替わり“型であれば、転移したいものと、転移先のものが入れ替わる中で、自転速度も入れ替えてしまえば、解決しますね。

この考え方を応用すると、例えば新幹線の中や宇宙ステーションの中への移動も可能です。はたまた違う惑星へも!?海外感覚で月や火星に行けるという設定は、SF的にも面白そうです。

一方、ショートジャンプをする場合、速度を入れ替えられてしまうと、困っちゃいますね。例えば、走っている状態で転移したいのに、転移したら急に止まった状態になると、走りながら連続テレポートみたいなアクション映えすることはできなくなってしまいます。ショートジャンプでは、自転速度が劇的に変わる遠くまでは移動できない設定となってますので、ショートジャンプでは速度の置換は基本起こらない、と考えた方が良さそうです。

ここまでで、テレポートが技術的に実現したら、という妄想を垂れ流してきましたが、ここまでの設定を元に、まだ不十分な設定もありますが、ストーリー設定を考えて行きたいと思います。第一弾は、クリストファー・ノーラン監督作品的な世界観で考えてみたいと思います。

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