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月刊こしら Vol.94 (2023年3月号) 「大工調べが変わってしまう」
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「大工調べが変わってしまう」 文・立川こしら
最初に聴いたのはいつだっただろうか。入門して後に、CD等の音源だったか、誰かの高座を袖から聞いたのか。はっきりとは思い出せないが、聴いた時の感想は鮮明に覚えている。
「憎たらしい大家」
演者の腕といえばそれまでだが、とにかく大工調べに出てくる大家の性格の悪さは群を抜いていた。実際に登場しない女将さんですら憎悪の対象になる程、嫌な奴だったのだ。
そもそも、女将さんに罪は無さそうだが、こんな憎たらしい男と一緒に暮らせる神経が理解出来ない。金や地位はあるかもしれないが、人間として最低な男である。
すぐに別れるべきなのに、別れない。嫌な面を差し引いても余りある富に目が眩んだのだろう。その程度の女だ。大家共々憎たらしいと思って問題ないだろう。
こんな大人(老人)に育ってしまったのは、環境が悪かったのか、幼少の頃の教育が悪かったのか…。いや、もう、これは持って生まれた才能かもしれない。才能というのはプラス方向だけに発揮されるわけではないのだ。憎たらしい才能だ。
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