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魔法少女は父さんに任せなさい!第2話 【創作大賞2024 漫画原作部門】

【第2話 父さんは秘密だぞ】

「昨晩大変だったんだって?無事帰って来れてよかったわね」

朝、母さんが食器を片づけながらそんなことを呟く。
視線の先のテレビには昨夜のニュースが報じられていた。

『異常気象による自然災害か また崩落』

最近ではあまり珍しい話では無い、よくあるニュース。
悪天候の日に地面や建物が崩落したり、それによる行方不明者が多数上がっている。そのニュースすら日常の一部となりつつあるが、被害が深刻なことに変わりはない。
一部の被害者は「化け物を見た」と証言しているがそれを裏付ける資料は何も残っておらず、パニック状態で見た幻覚と診断されている。

……表向きは少なくともそうなっている、僕も実物を見るまではそう思っていた。

昨夜は僕達が浄化したのもあって被害はかなり抑えられていたようだ。
SNSでは愛支紅流カンパニーと僕達の活躍が目に入ったのか「避難経路がスマホに表示されてそれに従ったら怪我をせずに済んだ」とか「遠くからしか見えなかったけど誰かが怪物と戦っていた」などの書き込みがあったが、これらも冗談や妄言だと思われている。

カンパニーの方からは「避難誘導がスムーズに進みました、ありがとうございます!」とお礼のメールと正式雇用の打ち合わせの旨の連絡が来ていた。

「そういえば父さん、会社からメール来てたけどいつ空いて──」

そう聞こうとした瞬間、父さんはビクンと肩を震わせて立ち上がる。

「あーー!!進捗駄目かもー!!外で作業してくるわ!!!」

大声を上げてドタドタと大袈裟にリビングから出ていく。
「朝から元気ねぇ」と母さんは首を傾げながら微笑んで家事に戻っていく。
仕方無いからメッセージで聞こう……そう思って僕も自室に戻って行った。

自室でスマホを確認してみると、見越していたかのように父さんからメッセージが届いていた。

『母さんに父さんが魔法少女なことは黙っておいて!
仕事の話は外かここで!』

成程な……と思いつつ「OK」のスタンプを送る。
すると、またメッセージが送られてきた。

『母さんを巻き込まないこと
(当たり前!)

母さんにバレないこと
(気まずい!)

家族団欒は守ること
(基本的に夕飯はみんなで食べよう!)

忙しくなっても家事当番はちゃんと守ること
(母さんの苦労を増やすのはNG!)

↑これが父さんが協力する条件だから』

父さんらしいな……と思わず笑ってしまう。
どんな立場にいても、非日常に立ったとしても、自分達の日常を疎かにしない。我儘だけど地味に大事な話かもしれない。
母さんを巻き込みたくないのは僕も同意だ、ぼかしているとはいえ迂闊だった。今後は気をつけよう。

それに了承して、打ち合わせの予定も何とか決めることが出来た。
カンパニー側も比較的こちらの予定に合わせてくれるようでお陰で父さんの締切スケジュールに合わせて組むことが出来た。
……地球外生命体の方は合わせてくれないが、その時はその時だ。

メッセージのやり取りが一段落し、僕はカンパニーから渡された端末の説明書の方を読み込むことにした。
……おもちゃの説明書のようでとても丁寧でわかりやすい、覚えるのには苦戦しなさそうだ。

攻撃に使うアイテムはイメージによって変形させることが可能。僕がイメージを端末に登録しておけば何にでもなるらしい、随時追加しておこう。

そして攻撃力は思いの強さや叫びに呼応するらしい、とてもシンプルでベタだ。だがそこがいい、僕の求めていたものに近くて嬉しくなる。

「よーし頑張るぞ!!」

伸びをしてイメージを登録すべく、イラストに描き起こしていく。
変身しているのが父さんであることを除けばベタな変身ヒロインアニメのような展開でテンションが上がる。
やっとやれることを見つけた、そんな気がした。

作業に没頭していればすっかり夕方になっていた。
そろそろ休憩しようかな……と思っていた時、スマホの通話通知が響いた。

『海田さん、今から向かえますか?
地球外生命体の出現情報が出てます!山の方です、街に降りてくるまでに対処お願い出来ませんか!』

「分かりました!すぐにやります!」

即座に父さんにも連絡を入れる。
「OK!」のスタンプが返されたのを確認し、送られた座標を転送し、散歩という名目で家を飛び出しそこへ向かう。

指定された山で合流すればそこには巨大なウミウシのような生命体がのそり、のそり、と木を薙ぎ倒しながら街へと下降していた。
風を纏い、竜巻のようにその道筋を荒らしていく。
……これが人のいるところにやってきたら大事になるのは明確だ。

「夕飯までに終わらせるよ、父さん!」

僕は端末を掲げる。

「あったりまえだァ!」

父さんは頷いて端末に鍵を差し込む。
そして光が辺りを満たし、可憐な魔法少女の訪れを告げる。

「今日もサクッと勝っちゃうよ!」

父さんは気合いを入れるように拳を突き出し、走り出す。
しかし、敵が纏った強風が妨げ、上手く近付くことが出来ない。

「チキショウ、あまり時間かけたくないってのに……!」

風に煽られ、コスチュームのスカートがはためく。
中はスパッツを履かせているので問題ないはずなのに無性に恥ずかしくて目を背けてしまう。
……色んな意味で早く終わらせないと不味いな。

「父さん、新しいモード!試して!」

光のキーボードを叩き、僕のイメージを伝える。
光の泡が溢れ出し、ステッキは傘の形状に変わっていく。
父さんはそれを持ってニカッと笑った。

「良いじゃん!お返しだ!!」

傘をバッと開き風を受け止める。
そしてその風は跳ね返され、敵の方にぶつかる。
上空に吹っ飛ばされる敵。
必殺技よりかは弱いがカウンター攻撃、あって損は無い。

「……満帆、夕飯の時間までどれくらいだ?」
「あと1時間……」
「まずいな、帰宅時間考えたらあまり時間ないぞ」

父さんは悔しそうに唇を噛む。
その様子を見てふと説明書の記述を思い出す。

──攻撃力は思いの強さや叫びに呼応する

「父さん、その怒りをぶつけて!そのまま!!」

そんな具体性の無い言葉でも、父さんはいつも聞いて、信じてくれる。

ステッキを掲げれば光が集い、スタッフになっていく。

「母さんの作ってくれたご飯が、冷めるだろうが!!!」

そしてその叫びと共に、一突き。
敵は光の粒となって消えていった。

「よし、今からなら間に合うな!」

変身を解いた父さんは嬉しそうにハイタッチを求める。少し恥ずかしかったが、僕はそれにゆっくりと返した。

「やっぱ母さんのご飯はうめぇわ!」

帰宅後、父さんは心底幸せそうに夕飯を食べていた。母さんはそれに大きく反応を返しはしないものの、穏やかに微笑んでて嬉しそうだ。

……大変だけど、確かにこの日常は崩してはいけないな。

改めてそう思い、覚悟を決めた。
夢も日常も蔑ろにしないと。

今日も、家のご飯が美味しい。

#創作大賞2024 #漫画原作部門

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