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鉱介くんとの出逢い

道端でたまたま出逢った闘次郎ちゃんのことを気に入ってしまった褐色の男の子。闘次郎ちゃんの後についてくる。名前を聞いても答えず、一言も喋らない。「飯食いに行くけど、来るか?」と尋ねると、無言で頷いた。
料理もメニューを指で指して注文し、食事中も一切喋らない。闘次郎ちゃんは不思議がっているが別に不愉快ではなく、むしろどうでもいいことをペラペラ喋る奴より余っ程楽だなと思っている。身なりはあまり良くなかったので、代金は闘次郎ちゃんが払った。闘次郎ちゃんが帰ると言うと、少年は名残惜しそうにチラチラ見ながら路地に入っていった。


後日、市場で偶然出会す。少年はやはり闘次郎ちゃんについてくる。闘次郎ちゃんはここだとはぐれてしまうと思い気を利かせて、町外れの崖上のベンチに連れ出す。辺りには誰一人おらず、静かだ。崖から見える美しい景色に心を奪われて、同時に、自分はこの赤毛の少年に心を奪われているのだと気づく。恥も外聞もない彼は闘次郎ちゃんと手を重ねて、不意にキスをする。突然のことに驚く闘次郎ちゃん。でもそれが不愉快ではなかったから、彼を傷つけないように不用意な反応は避けた。彼は闘次郎ちゃんを見つめている。彼が自分に好意を抱いていることを悟る闘次郎ちゃん。どうやら彼は、闘次郎ちゃんに愛情を伝えたいが、その方法が分からないらしい。闘次郎ちゃんは彼を抱き締めた。次いでキスをして、舌を絡める。少年は興奮して、闘次郎ちゃんを押し倒し、勃起した性器を服越しに擦り付ける。闘次郎ちゃんは彼を制する。
「ここでは駄目だぞ……家かホテルじゃないと」
その言葉を聞くや否や、少年は闘次郎の腕を引っ張る。連れてこられたのは彼の自宅。ログハウス調で幾つか部屋が連なった寮のようだ。中は簡素だ。寝ていると背中が痛くなりそうなベッドに腰掛け、さっきの続きをした。


後日、道端で出会した二人。今日は別の場所へ闘次郎ちゃんを連れていく。そこは鍛冶場だった。どうやら彼の職場らしい。
闘次郎ちゃんを連れて休憩から戻った彼は「何だ、コウスケ、彼女か?」などと同僚にイジられる。コウスケは顔を赤くして、否定も肯定もしない。闘次郎ちゃんもそれに倣う。彼は蹄鉄を叩く。装蹄師だったようだ。年長の職人が多い中、彼は目立つほど若かった。辺りを見回すと、「鉱介」という文字があった。
同僚の計らいで早めに上がることが出来た鉱ちゃん。そのまま闘次郎ちゃんを家に連れていき、以前と同様に体を重ねる。


後日、市場でひろみくんと買い物をしている闘次郎ちゃんの下に鉱介くんが現れる。闘次郎ちゃんは軽く挨拶するが、鉱介くんは不満気だ。闘次郎ちゃんの手を引っ張って、そのまま家へ連れ帰ってしまう。何も言わず突然別れてしまったひろみくんに申し訳ないと思いつつ、彼の気持ちに答える闘次郎ちゃん。


数日後、改めて市場へ来たひろみくんと闘次郎ちゃん。そこへ現れる鉱介くん。先日と同じように闘次郎ちゃんを手を引っ張るが、闘次郎ちゃんは応じない。
「おい、ちょっと待て。俺は今ここで用を足しているんだ。俺の都合も考えてくれ」
その言葉にショックを受けてしまった鉱くんは、泣き出す。言い方が悪かったと思い謝る闘次郎ちゃんの声に耳を貸さず、走り去ってしまう。ひろみくんは何が起こったのかよく分かっていないが、彼のことを心配している。闘次郎ちゃんも心配ではあったが、自分勝手な彼に怒りも感じていた。ここで追いかけては元も子もないので、用を済ますことを優先する。その後も、ひろみくんに彼の様子を見に行くよう促されるも、用があれば向こうから来るだろうと、応じなかった。

鉱介くんはひろみくんに嫉妬していた。同時に、彼に闘次郎ちゃんを取られるんじゃないかと不安で仕方がなかった。だから無理矢理彼らを引き離して自分のものにするような行動を起こした。しかし、二回目は上手くいかず、闘次郎ちゃんに叱咤されてしまった。それは彼にとって失恋を意味していた。闘次郎ちゃんはひろみくんを優先したのだ。闘次郎ちゃんに振られたと思い、仕事にも行かず、碌な食事も摂らずに布団にくるまって泣いている。

仕事に来ない鉱介くんを心配した同僚は彼の家へ行って何度もノックしたり声をかけるが、一向に反応がない。彼は市場でとある人を探すことにした。

市場で買い物をしている闘次郎ちゃんを見つけて、駆け寄っていく。鉱介が職場に来ず家にも入れてくれないことを告げる。しかし、隣にいたひろみくんが目に入ると、全てを悟る。
「いやぁ、なんだ、そういうことか……。悪かったね、迷惑かけて。後のことは俺たちで何とかするよ……」
「えっ……?何があったんですか?」
「……まぁ、あとは彼らがやってくれるだろう。」
ただならぬ事態が起きていることを悟った闘次郎ちゃんは、ひろみくんとの用を済ませて、彼の作ったご飯を食べたあとに、鉱介くんの家へと向かう。ひろみくんもそのことを分かっている。
「ごめん、ちょっと行ってくる」
「はい、行ってらっしゃい。お気をつけて」
彼の家へ行くと、先程の同僚がドアに向かって声を掛けていた。諦めて寮を後にするところを見送ってから、闘次郎ちゃんは彼の家のドアを叩く。
「おい、俺だ。開けてくれ。話したいことがある」
暫くして覚束無い足音が聴こえ、ゆっくりとドアが開かれる。目だけを出してそれが闘次郎ちゃんであること、周りに同僚が居ないことを確認して、ドアを開けた。
「あの……悪かったな、先日は……言い過ぎた」
「…………」
そんなことは、どうでもいいのだ。彼が悲しんでいるのは、闘次郎ちゃんが彼を愛してくれないことなのだ。彼はまた布団にくるまってしまう。闘次郎ちゃんはドアに鍵を掛けて中に入り、ベッドに腰掛ける。布団の上から、優しく撫でる。その布団越しの手に愛情を感じて、感極まった鉱介くんはついに布団から出て、闘次郎ちゃんに抱きつく。そして、いつになく激しく泣く。
「…………ぅ……、……す…………す、……き…………」
闘次郎ちゃんは彼が初めて声を出したことに驚く。そして、彼がやっとの思いで発した言葉に、尚驚く。彼の愛情が、そんなに深いものだったとは。闘次郎ちゃんは彼の嫉妬と失恋を悟った。
「す……す、き…………すき…………すき………っ……」
泣いて呼吸を乱しながら、何度も何度も、必死に発声する。闘次郎ちゃんは心を打たれていた。
「……うん。俺も好きだよ……」
闘次郎ちゃんは彼を抱き締める。そうして抱き締め合っているうちに、鉱介くんは泣き疲れて、眠ってしまった。このまま起きて誰も居なかったら彼が可哀想だと思って、ひろみくんに連絡を取り、その場で彼と共に一夜を明かすことにした。

翌朝、目覚める二人。鉱介くんは昨日たくさん泣いたせいで目が腫れていた。
「大丈夫か?……仕事、行けるか?」
鉱介くんは顔を洗って、身支度をして、闘次郎ちゃんと共に家を後にして職場へ向かう。闘次郎ちゃんは何となく気まずかったので、そのままひろみくんの待つ家へと帰った。


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