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結果として家具であるような家具に興味をもっている
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朝日新聞社、2024年第2版、アートディレクション・デザイン=永井裕明(N.G.Inc.)
京都国立近代美術館で開催されている「倉俣史朗のデザインーー記憶のなかの小宇宙」を見た。
倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙
一階ホールから階段を上がって行くと、途中に設けられた踊り場に網状の金属だけで作られた椅子「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」(1986)が据えられていた。ご自由にお座りくださいというので座ってみた。座り心地は悪くない。と言って、ずっと座っていたいというほどでもない。
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オブジェの風貌でありながら家具としての機能性を備えている、これは綱渡りである。例えば、倉俣自身はつぎのような発言をしている。
少し以前に僕は、具体的に使っていない時にでも、見てきれいな、つまり視覚的に意味をもっている家具、ということを考えていたが、最近はむしろ使うことを目的としない家具、ただ結果として家具であるような家具に興味をもっている。
なかなか捻りの効いた言い回しだが、《結果として家具である》とは、とどのつまり「家具」であり、アートではない(アートの解釈にもよるが)。東野芳明は「あくまで"用"という生活の次元に固執しながら、"見えない"領域に大膽な橋をかけようとする姿勢は独特」だと評した(図録p105)。それはたしかに頷ける評価であろう。ぎりぎりまで用を離れながら、完全に離れてしまうことはない。字数や季題は無視しても、あくまでも俳句であると言い張る自由律短詩みたいなものなのかもしれない。
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二階の展示室に入ると、暗い空間に例の「ミス・ブランチ」(1988)が浮かび上がっている。このコーナーだけは撮影自由。しかし部屋が暗すぎてうまく撮れなかった。考えてみれば、当たり前のことだが、意表を突かれたのは、透明なアクリルに閉じ込められている薔薇は造花だったこと。遠目、あるいは印刷物で見る限り、本物の薔薇のようにも見え、その華麗さは誰しも認めるところだろう。
近くで造花と知ったときの納得感と失望感、このギャップこそがこの作品のキモではないか。同じくアクリルのなかに不用品を封じ込めた中西夏之のあくまでも即物的な「コンパクト・オブジェ」(1960年代)との決定的な相違がそこにある。
倉俣自身は、この作品が《絶対静止の静寂と死の香りと共にある》(図録p259)という建築家・鈴木了二の評に対して、こう話したという。
あの薔薇は、浮遊ではなく、死と書いて静死なんですね。薔薇の埋葬ですが……。僕は、死にまつわることに非常に恐怖感が強くて、薔薇の椅子が出来上がった時自分でも同じことを感じたんですが、秘かにしておきたいと……。
薔薇の埋葬……と言っても造花である。薔薇ではない。ピラミッドのミイラならともかく、ここから「静死」を感じとるというのは、後付け(本人が語っているように完成した後の拡大解釈)なのではないか。「ミス・ブランチ」のイメージスケッチでは椅子の周辺にも薔薇が散乱している。椅子の中だけに閉じ込められている発想ではなかった。
ただ「ミス・ブランチ」(『欲望という名の電車』の主人公の名前)には単純な可憐さを狙ったわけではない、伏線を感じさせようという意図があるのかもしれない。
見終わって一階に戻るエレベーターで乗り合わせたご婦人二人が、「ミス・ブランチの絵葉書あるかしらね」と囁き合っていた。彼女らは一階に到着するや目前のミュージアム・ショップを物色しはじめた。倉俣のしてやったりという顔が見えたと思ったのは小生の僻目(ひがめ)だろうか。
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