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OSKに来た新しいタイプの男役 ─武生で天輝レオの魅力について考える─



『第44回たけふレビューinたけふ菊人形』を見に行ってきました。『DREAM SCAPE』三井聡演出・振付です。そしていろいろなことを考えた。そのことについて書きます。


https://www.osk-revue.com/2024/08/26/1-154.html より

キッカケは推し活だった……のだが…

このショー、『推し活』の場面があるという。題して『KIRA KIRA OSHI』。娘役が「男役たちのシールだのバッジだのアクスタだの満載の痛バッグ」を持って男役にキャーキャーする場面らしい。聞いた瞬間「しょーもなー」と笑ってしまったが、実際にファンが劇団員を「推して」いるのにそれを舞台上で戯画化されることのいたたまれなさ、みたいな意見をネットで見た。いやたぶんそんな深い意味とかないよ、OSKだし。と、思ってたら。

「え」
「え……?」
「えええ……?」

びっくりした。思ってたもんとぜんぜんちがうし!

私はてっきり「男性アイドル」と「推し活でハジケちゃうJD」みたいなもんのわちゃわちゃ場面だと思ってたのよ。衣裳も音楽もポップな、ポニーテールの娘役が推しウチワ振りながら、いつの時代だよみたいなロックンロールメドレーとかで踊るやつ。こう書くだけでダサダサですが、OSKってのはこういうのを一貫して松竹座でやってましたからね。ある種の伝統芸能として。そういうのをまた見せられて「もういい加減にしてくれよー、でも武生らしくていいかこれも」ってやつだとばかり。

しかし客席から登場した推し活娘たちの出で立ちで、私の想像はのっけから崩れた。肩出しのミニドレスっつーか、二次会帰りみたいな……、


推し活のリアルから見えてきたもの

どんないでたちかは上記のブログに載っておりますので見ていただければわかると思いますが、

こんなカッコでアイドルの応援してるやついねーよ!

痛バッグ見せびらかしながら、客席に「●●クンはこーんなにカッコいいのよぉ〜?」とか語りかけたりしてんだけど、それもやけにネットリしてるし。そのあと出てくる「アイドル」たちは黒に紫で光ったような衣裳でそれぞれ絶妙にダサカッコつけており、そこに絡んでいく娘達との歌とダンスの有様はどう見てもホストクラブのホストと客。曲もへんに湿ってるし。なんでこうなる(T^T)

この場面、賛否両論あるとしたら、「そもそも推し活ちゃうやろ!」ってのがいちばんのツッコミどころじゃないの? いや、ホストに入れあげるのも推し活の一形態、推し活のリアルを見せたかった、ってことなのか。だとすると、この娘役たちにとっての「推し活」とは頭のネジがぶっとんでシャンパンタワーで何百万と使い、そして売掛金未回収でソープに落とされる未来しか見えないぞ(ホントすいません。出演者に罪はない)。いや、たいへんリアルである種の問題提起になっていると思いますが歌劇の一場面としては攻めすぎでは。さすがに三井先生、そういうつもりではなかろう。ではなぜこんなことに。

男役における「ホスト属性」の受容

この公演の座長がたとえば翼和希だったら、こうはならんかったと思うんですよ。たとえば楊でも。もちろん桐生さんでも。天輝レオが座長だからこうなったのだと思う。この場面、最後に座長が登場して他旦だった娘達を根こそぎ自分にメロメロにさせるという筋書きですが、このラスボスの天輝の魅力が、すげえやり手のホストみたいなんだもん。

冒頭に置いた、ひびのけい先生の「ホストクラブ文化が大衆演劇を変容させた」というツイートを読み、私は少女歌劇にもホストクラブ文化が入ってきていると書いた。そこではわかりやすいように少女歌劇って書いたが、私が頭にあったのはOSKのことしかない。そして正確にいえば「ホストクラブ文化」ではなくて「ホスト属性のある男役」が登場したということが言いたかった。この場合のホスト属性というのは、「観客の劣情をダイレクトに刺激し沸かせるタイプ」。

天輝レオは、OSKにはじめて登場した「ホスト属性」を持つ男役だと思っている。「現役ナンバーワンホストの輝き」みたいなものを持っている。それは一種の体質であり、才能であり、思想である。そして、それを持つ人は今まで不思議なほどいなかったんだOSKには。なんとなくそれは、「よくないもの」「はしたないもの」ということになっていた。しかし時代は変わる。「いやカッコいいじゃん。それでいいじゃん」という流れが、少女歌劇の世界でも出現する。OSKにおけるその嚆矢が天輝レオ。そして徐々に、その属性の男役が増えつつある、ように思う。

三井先生の頭の中に浮かんだ「推し活」というアイディアがホストと嬢の闇堕ち(違)になるという、これが天輝レオのパワーか。もし翼で同じ場面だったらもっとぎこちなく(=形式的に)なったか、あるいは私が想像してたようなOSK伝統のトンチキ若者ロックンロールになったか、あるいは翼以下男役が女性アイドルグループオタで、オタ芸バリバリ踊る場面になったかもしれない(それはちょっと見てみたい)。

さて、この『DREAM SCAPE』は、推し活の場面しかないわけではない(あたりまえだ)。他にも、武生公演ならではの大河ドラマと連動した場面もちゃんとある。それが『紫式部と光源氏』(景タイトル間違ってたらすみません)。これも見た時はたまげた。

紫式部に驚き光源氏に驚く

紫式部がまず出てくるのだが、花魁道中の禿(かむろ)みたいなオカッパ、唐衣を羽織っている下は超ミニ着物で、動くたびに太もも丸出し。え。こんな紫式部アリなのか。ボーゼンとしてたら、そこに光源氏が出てきてさらにびっくり。「へんな中国人」みたいな人がそこに。

へんな中国人みたいな人(イメージ)

いや、天輝だからカッコいいけど、光源氏じゃないだろう。「私は光源氏」って名乗らなかったら誰も光源氏とは思うまい(名乗ったって警察は信じてくれないだろう)。こんな「光源氏的記号が皆無」な光源氏、はじめて見た。いっそ新しい。(へんな中国人のイメージだけではあんまりなので、OSK公式インスタを貼りつけておきます。この方が光源氏さんです)

そんな光源氏が、そんな紫式部に向かって「ボクは別にそんなに女の人と浮名を流したいわけじゃないだよぉー」「なんで六条御息所いきなりあんなコワくなるの!ホラーだよぉ(泣)」とか訴えると、紫式部が「あーら、あれはホラーじゃなくてダークなのよぉすてきでしょぉ〜?」といなすとか、いろいろな意味で新機軸を打ち出してきた『源氏物語』なのだった。OSKはこれまでも、継体天皇がやんしき節を舞い踊るとか、武生公演ならではのトンチキ芝居を繰り出してきて、この『紫式部と光源氏』もその系譜かと思えばちょっと違っていて、トンチキ具合もどこか「新しい」ものがあった。それでもとんでもない光源氏なのは確か。

天輝レオの魅力に気づく

しかし、私はこのとんでもない光源氏を見ながら

「あ。天輝レオっていいじゃん」

と思った。初めてそう思った。この場面での天輝は「困り笑いをしている気のいい光源氏(と名乗る、へんな中国人)」で、そのキャラを背負ったまま客席降りをして最前列の客とハイタッチとかする。眉毛も目尻も下がった満面の笑み。

「……(キュン)」

いやー、いいじゃん天輝レオ。気弱で人のいい、ヒロイン(そっちには相思相愛の相手がいる)に片思いして、よく失敗して笑いを取りながら、彼女の危機を助けるために最後死んじゃう、にっこり笑って……みたいな役やったら泣いちゃうかも。そしてこの場面の光源氏の歌。

「え。天輝レオってこんなに歌よかったっけ?」

私は天輝レオの、ノドを絞った「男役声」がどうも好きになれなかったんだが、光源氏の歌はノドを開いてすごく素直に歌っている、その歌声がとてもいい。それに気づいてみたら、光源氏はセリフも自然な声。そうだよ、その声でしゃべってくれよ。すごいステキだよ。

たぶん私は「かっこつけてる」「男役をキメようとしている」時の天輝レオにはぜんぜんハマらない。というか苦手。ホスト属性の男役が「男の魅力を出そう」としてきた時の「特有の(たまらん人にはたまらんのであろう)香り」が苦手なんですね私は。それで天輝さんのことは敬して遠ざけてたのだが、この「トンデモな光源氏」にはやられた。他の場面では男役美学完遂の意志を感じたので、天輝さんとしては光源氏のところは「キメきれず不本意」だったりして。いや、わかりませんが。私としては、

「天輝レオは当分、情けない男とか弱っちい男をやらせてカッコつけるの禁止。情けなさからにじみ出す人の良さとかの魅力を追求してくれ。そのあとにカッコつけを解禁された時にはそのカッコ良さはけっこうとんでもない次元に行くはずである」

と言いたい。ほら、ホステスでもホストでも、本物の超一流はぜんぜん水っぽくない、素人みたいだって言うじゃないですか。はい、私が勝手に言っているだけです。


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