大吉堂読書録・2024年7月
『亡霊は夜歩く 名探偵夢水清志郎事件ノート』(はやみねかおる)
壊れた時計塔の鐘が鳴り響き亡霊(ゴースト)が現れる。ゴーストの目的は何か。
学校の伝説に因んだ謎の魅力と、学園ものとしての魅力が融合された面白さ。見事なまでの青春ミステリ。謎を解くことを目的化しない名探偵の魅力。
『そろそろタイムマシン で未来へ行けますか?』(齊田興哉)
SFに登場するあれやこれは実現できるのか?
今現在の技術や開発中のものを紹介するので、興味関心の入口になりそう。
もう既にそこまでできるのかという驚きと、本当にこの先そこまでいけるのかという疑問の絡み合いが面白い。
『メルサスの少年 「螺旋の街」の物語』(菅浩江)
異形の女たちの歓楽街。生まれるはずがなかった少年。予言者の孫娘。街を狙う魔手が忍び寄る。
異世界の物語を紡ぐには、それに相応しい語りがある。そのことを痛感する。
彩られ織り込まれた世界を駆け抜ける、少年の成長に心揺さぶられる。
『いとみち 二の糸』(越谷オサム)
小柄で泣き虫で人見知りで津軽弁濃厚でメイドカフェで津軽三味線を弾く少女いとの高二の日々。
実に真っ直ぐ。親友とのすれ違いや、先輩への敬意や、気になる異性への戸惑いや、将来への想い。どれも不器用に真っ直ぐ。
周りの人たちも真っ直ぐ。気持ちのいい読後感。
『リックとあいまいな境界線』(アレックス・ジーノ、島村浩子・訳)
アロマンティックやアセクシュアルかもしれないと思った少年が、学校の課外クラブ・レインボーズに参加して様々な性のあり方について考える。
恋愛に関心がないことを、奥手だとか大人になればわかるとせず、今の自分がどう感じるかを大切にすることを知る。
しかし単なる教育や啓蒙の読本ではないのも魅力。
親友が実は嫌なやつかも知れないとの気づきや、祖父とのオタク的趣味の共有など、登場人物のやり取りの面白さにも引き込まれる。
『推しの公園を育てる』(椛田里佳、跡部徹)
各地の公園ボランティアの様子を伝えて、公園をどう楽しむかを提案する。
何よりタイトルが素敵。公園はみんなのものであり、自分のものでもある感覚。
だから綺麗にしたいし、よりみんなが楽しめるようにしたい。それが楽しい。さあ公園を育てよう!
『友だち関係で悩んだときに役立つ本を紹介します。』
本を介して友だちとは何かを考える。
面白いのは、友だちがいることが前提の話と、友だちを作ること(いないことが前提)の話があること。そこに書き手の友だち観も見える。
本の中の人物と友だちになるという感覚も素敵で面白い。
『黒衣の武器商人』(井上雅彦
娯楽小説の醍醐味溢れる楽しさ。本の世界に入る冒険譚に、謎の商人が現れる短編小説を組み合わせる妙技。
しかも短編のジャンルがそれぞれ違う凝り様。そしてボーイミーツガールであり、成長譚でもある。
ライトノベル創成期(※諸説あり)の傑作のひとつですね。
『学校に行かない僕の学校』(尾崎英子)
森の近くの寮付きフリースクール。そこで過ごした日々。
中2の薫を中心に、そこにいる子どもらの想いや願いや変化が丁寧に描かれる。
学校に行かない理由。親元を離れる理由。乗り越えるというよりは、自分の気持ちに向き合う。そんな余地が森にはある。
『閻魔堂沙羅の推理奇譚 負け犬たちの密室』(木元哉多)
自分の死の真相を閻魔の娘沙羅の前で推理する。シリーズ2作目。
真相が明らかになることで、今までとは違う人間関係や他人の姿があらわになる。その後の展開でいつものパターン以外も提示することも、シリーズ物ならではの面白さですよね。
『はなしをきいて 決戦のスピーチコンテスト』(マギー・ホーン、三辺律子・訳)
性的嫌がらせを受けた女子生徒の話を「聞かない」大人たち。
被害者に非があるのではないか、男性側を貶めようとしているのではないか、声を上げるのはみっともない、たかがそれくらいのことで。そのように声をふさぐのは、よく見る光景。
それに対して友情と勇気と知略で乗り越える女子たち。
大人が子供の声を、頭ごなしに否定する、理解しようとするが自分の考えに当てはめようとする。どちらも話を聞かないこと。
重いテーマながら、友情の育みからシスターフッド的展開に至るのも素敵。
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