大吉堂読書録・2024年6月
『栗本薫・中島梓 JUNEからグイン・サーガまで』(堀江あき子・編)
膨大な活動からタイトル通りJuneとグインをメインに紹介。
一歩下がったような冷静な記述で総観しているが、所々で熱が噴出しているのが素敵。巻末に著作一覧があるのも嬉しい。
作品がこれからも多くの人に読まれますように。
『浪漫探偵・朱月宵三郎 屍天使学院は水没せり』(新城カズマ)
装飾に装飾を重ねた文章や設定や展開で彩られる怪人vs探偵。
荒唐無稽に見えて、ある意味ルールに則った特殊設定ミステリとも言えるのか。
ラノベ的キャラ設定(配置)とミステリの融合の、歪で絶妙なバランスの面白さがあるのかも。
『社会問題のつくり方 困った世界を直すには?』(荻上チキ)
問題を提起して社会を変える(政治に参加する)方法。
気づく→つながる→調べる→伝える→動かすの流れを、KOPAKU氏のイラストと共に架空の物語に託して語られる。
わかりやすいからこそ、何度も繰り返し読んで心に浸透させたい。
『楽園のアダム』(周木律)
大厄災により人口が激減した未来の地球を舞台にした物語。
SF的仕掛けやミステリ的仕掛けの構成や提示法が面白いだけに、それを支える理論の問題性が引っかかる。
この物語世界ではそういうことなのねと飲み込めなかった。その引っかかりこそがテーマなのだろうか。
『STEP OUT』(榎木洋子)
宇宙飛行士養成学校に入学した少年少女の、煌めき輝く青春の日々。
ひよっこたちが悩み踏ん張り夢見て努力する姿が、なんとも素敵です。
章ごとに語り手が変わるので、それぞれの一歩も多方向から楽しめます。
30年近く前の作品ですが、その輝きは今もまばゆいばかりです。
『JUNEの時代 BLの夜明け前』(佐川俊彦)
唯一無二の存在であったJUNEは、ある人たちにとって避難地であり楽園であり、飛び立つ力を与えてくれたものだっただろう。
作り手と読者が共に育て上げた存在。何とも幸せな気持ちに包まれた。
オタク文化黎明期の記録としても必読の書。もっと知りたい。
『崖の国物語1 深森をこえて』(ポール・スチュワート、唐沢則幸・訳)
育ての親元を離れ旅立つ少年トウィッグは、道を外れたために大変なことに。
深森で出会う様々な種族や生き物がクリス・リデルの絵と相まって個性豊かに表されています。
しかしトウィッグにとっては一難去ってまた一難。次々と襲い来る受難を乗り越えていく。
自分は何者なのか。仲間を見つけることができるのか。自分の居場所はどこにあるのか。そんな普遍的なテーマを抱きながら、冒険譚を楽しむことができます。
しかもこれは長い物語のほんの入口。ワクワクが止まりません。
『理科準備室のヴィーナス』(戸森しるこ)
理科の女性教師が気になる中学生男女ふたり。
みんなとは違う。変わっている。そんな3人の共通の時間。でも想いは同じなのだろうか。
触れれば壊れてしまいそうな「好き」の気持ち。だからこそ大切にしたい。壊れないように、ぎゅっと抱きしめたい。
『きみと詠う 江の島高校和歌部』(大平しおり)
王道ど真ん中青春部活物語。あの日の約束、再会、仲間を集めて創部、廃部の危機、そして大会へ。
和歌というとっつきにくく思える素材を物語の真ん中に据え、登場人物の行動理念とする。物語に惹かれた時には、和歌にも惹かれている。素敵な構造。
『七時間目の怪談授業』(藤野恵美)
先生に怖いと言わせるため、子どもたちは怪談を語る。
子どもが怖い話に触れる時には注意すべき部分がある。それを先生が怪談を解体し、解釈付きで感想を述べることで示していると思えた。
なぜ先生は幽霊が怖くないのか。怪談のパターン提示としても面白い。
『アイの物語』(山本弘)
マシンが君臨する未来の地球。アンドロイドが僕に語るのは、人間とマシン(AI)の関係性の物語。
過去に発表した短編を組み込む構成のすごさ。ヒトとは何かをマシンとの関係性から見出す。
絶望の遙か先にある希望を掴むのは物語(フィクション)の力。それが嬉しい。
『彼女と僕の伝奇的学問』(水沢あきと)
大学の民間伝承研究会が訪れた、村の祭事の隠された姿。
ある集落の伝統に対して、外部の価値観で批判してもいいのか。伝統を守るためなら個人の想いは捨てるべきなのか。
民俗学をベースに物語は展開し、怪異冒険譚を経て終着する。示されたものは苦い。
『横浜駅SF』(柞刈湯葉)
無限に広がる横浜駅。管理される人間。駅の外からエキナカに侵入したヒロトは、ある使命を託される。
面白い。あれがこうだったらどうなるか。そんな思考の実験遊戯が、SFの面白さなのだろう。
あちこちに物語の種を残したままなので、そこから想像の芽も伸びます。
『ゴシックの解剖 暗黒の美学』(唐戸信嘉)
ゴシックをその起源から、吸血鬼、人工生命、分身、廃墟、地下のキーワードで読み解く。
作品を挙げながら、周辺事項も含み語られるので、ゴシック作品をあまり読んで来なかった身には、面白がるための感性の耕しになりました。さあ読むぞ。
『真実の10メートル手前』(米澤穂信)
様々な事件などに対して取材し、人々の話を聞くフリージャーナリスト太刀洗万智の短編集。
謎を解く探偵とは違う記者という立場。重く苦い事実を単に暴くのではなく、露悪的に示すのでもない物語。それは太刀洗の記者としての志に則したものだからだろう。
『やおよろず神異録 鎌倉奇聞』(真園めぐみ)
鎌倉二代将軍時代を舞台にしたファンタジー。史実を交えながら、人の怨みから生じた闇神との対決を描く。
説明過多な部分が気にはなるが、凝った設定は物語の展開と共に頭に入る。
映像的に魅せる場面も多く、様々な形でのバディものとしても面白い。
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