#21 なぜナビなびかれナミダ
-そこがいいとこで、悪いとこで、なにものでもないとこなんだよ-
仕事に向かうため
タクシーに乗る。
その日は朝6時に都内某所に集合。
当たり前のようにタクシーに乗ってるが
当たり前じゃない。
タクシーとか贅沢よ、贅沢。
なぜ乗ることになったか。
言い訳あるあるベスト10に入るであろう
「1回家を出たけど、忘れ物思い出して取りに帰ったらとんでもない時間になってしまった。」
振り返ってみよう。
朝、家を出てしばらく歩く。
目指すは最寄り駅、ではない。
その日は朝早く起きすぎて時間に余裕があった。
時間まで家でゆっくりするのもいい。
しかし今回仕事でご一緒するのが僕にとってドキドキするような方だったので、居ても立っても居られず早めに家を出て散歩がてら歩いて、少し先の駅から電車に乗るというプランにした。
平日の朝を、キラキラした爽やかな気持ちで歩く。
気持ちいいなぁ、早起きもしたし。
最近、アニメのブルーピリオドを見た影響もあって、眺める風景は何色かな、なんて思う。
八虎は早朝の渋谷は青色だって言ってた。
僕が今歩いてる場所の風景は、白っぽいな。
と頭はすっかりアーティスト気分。
そうだ、音楽を聞こう。
この前友人が「葛飾ラプソディー」を歌ってるのをみて、突然聴きたくなる。
頭はブルーピリオド、耳からはこち亀、アニメ祭りのグッドモーニング。
イヤホンを耳にさして...
あれBluetoothが繋がらない。
どうした。
壊れたか。
あれ。
ここで事件は起きた。
ス、ス、ス、スマホがねぇじゃねぇか、あんちゃん。
なんてこった。
スマホを忘れた。
しまった。
なくてもいいか、とも思った。
いや、何かあった時に連絡がとれない。
しかも夜までかかる、今日は。
丸一日なくていけるか。
ダメだ。不安だ。
取りに帰るか。
えー!今から帰ったら時間微妙だ。
たこすけ、俺、なにしてるんだ!
ああぁぁぁぁぁぁうぁぁぁ。
周りの風景ではなく頭の中が綺麗なキャンバスの如く真っ白になる。
走って戻り、時間を確認。
ダメだ、今から電車乗っても微妙だ。
タクシーを呼ぼう。
そう、冒頭に戻るわけだ。
仕事に向かうため
タクシーに乗る。
贅沢だ。贅沢。
アプリで呼んだタクシーが自宅近くに到着し、乗車。
行き先はアプリを介して入力してあるので、運転手はすでに把握している。車についているナビを見ながら車を走らせる。
はずが。
どう見てもナビの調子がおかしい。
何度も何度もルート変更し、運転手がナビに踊らされている。
タクシードライバーモーニングダンスショーのはじまり。
俺、
無事に間に合うのか。
冷たい空気、肌を優しく包むような朝日、踊らされる運転手、犬を散歩する通行人、追い込まれるハヤシ。
東京の街が今日も
ゆっくりと動き出す。
つづく。